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2021年10月双葉町取材記③/残されたカバン

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 つい先日、10月23、24日と浪江と双葉に行って歩いてきました。去年8月の取材記録も終わってないのに、とりあえず思いつくまままとめてみたので、ご覧ください。24日の双葉取材、その3です。

*****

<続き>

 まどか保育園を見たあと、双葉駅に向かう。朝着いて歩いた時から何となく気付いてはいたが、かつて僕が計測して高線量だった駅前の私有地の入り口にはことごとくロープが張ってあった。また、高線量だった道路についても、「水道管の工事」と書かれてはいるものの、「立入禁止」と書かれた看板が立っている場所が目立った。つまり、駅前で線量の高い場所は、決してそうとは書かずに立ち入りを制限するような状態になっていた。もちろん、帰還困難区域のバリケードのようにしっかりしたものではないので、僕みたいな人間は無視して入り込んでしまうわけだけど。

 未だ誰も住んでおらず、あちこちに高線量の場所がありながら、そんなものは無視して行政はまるで観光地のように宣伝を繰り返し人を呼び込もうとしている。駅には「特定復興再生拠点区域には長時間滞在しないでください」「長袖長ズボンを着てください」と書かれているのに。しかし駅前では、決してそうとは書かずに高線量の場所に立ち入らないように細工がしてある。片方で人を呼び込み「原発事故は大したことありませんでした、もう終わりました、放射能は安全です」とアピールしながら、片方ではそんな細工をしている。嘘の「復興」に前のめりな環境省や復興庁、内閣府と、現場を知る側の葛藤がここにはあるように感じた。

 駅前でひと休み。休憩できる場所はここか伝承館しかない。30分くらいがっつり休もうかと思ったが、あまり休むと筋肉が冷えてよくないので、結局15分程度で出発することにした。ここまでもう既に12kmは歩いているので、無理のないようにレンタサイクルに乗ることにする。

 100円をチャージし、新しくなったレンタサイクルを借りる。以前は、中古自転車をオーバーホールした感じのカゴの歪んだギアなしママチャリだったが、真新しいものに変わっている。案内板に書かれている文章を読むと、どうやら寄付されたもののようだ。新しくなった自転車ではあるが、やはりギアはない。そこは何とかしてほしい。

 レンタサイクルで行くところはもう決めていた。今月から解体が始まるという双葉町前田の前田団地、そしてそこから割と近い場所にある長迫観音堂。どちらも、帰還困難区域の近くではあるが、空間線量はそれほど高い場所ではない。

 目的地は決めていたものの、やはり道ゆく風景のあちこちが気になる。既に過去に歩いた道ではあるが、それだけに過去との比較が興味深く、いろんな場所で自転車を止めては撮影をする。しかしそれではあまりにキリがない。自転車を止めて降りて道の脇に寄せて、とにかくそのワンクッションが煩わしく、しみじみと歩くことのフットワークの軽さを痛感する。自転車で回る場合は、目的地に着くまでは、そこまでの風景についてはとにかく無視するしかないのだとここで気付いた。気になるものが目につくたびに止めて降りて撮影していたのでは、実は歩くのと時間的には変わらず、それでいて体力ばかりが奪われると感じた。

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(遠くから見たら、ただ停車しているようにしか見えなかった。)

 途中、車が停車していると思ったら、10年前から放置されたままの軽自動車だった。随分とカスタムされた感じのその軽自動車の中には、まどか保育園のカバンが入っていた。地震が起きて、母親が慌てて保育園まで子供を引き取りに行ったのだろう。そして引き取ってはみたものの、渋滞にハマったか何かの理由で車を乗り捨てて逃げたのだと思う。なんて生々しい光景だろう。

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(まどか保育園のカバンが)

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(前田団地)

 前田団地に到着。今月から解体が始まると聞いて、重機で豪快に破壊されてるさまを想像していたが、実際はまだその前の段階、屋内に残された様々なかつての居住者の所持品の処分中だった。それでも黒いフレコンバッグは大量にあり、当然ながら線量も書きこまれている。ほとんどは毎時1μSv以下のものだったが、なかには3を超えるものもあり、何が入っているのか非常に気になった。

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 団地の敷地内には何台か車も放置されていたが、それらは一箇所に集められていた。JAふたばの施設でもそうだったが、こういった車はどうやって移動するのだろう。

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(ちょっと焦った)

 時間をかけて何枚も写真を撮影してから、今度は長迫観音堂を目指す。グーグルマップをしっかり見て場所を確認、ゆっくり周りを見ながらチャリで移動する。途中、パトロールの車とパトカーとすれ違ったが、徒歩では顔を覗き込まれたり、徹底的に怪しまれるのに、チャリだと観光客に見られるのか、警官が頭を下げてくる。不思議なものだ。

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 長迫観音堂着。周辺は毎時0.3μSv前後。しかし観音堂への階段を登ると、毎時1μSvまではすぐに上がった。もうこの程度の数字には完全に慣れてしまったが、冷静に考えれば、これは震災前の25倍以上の数値で、とんでもないことだ。そもそも、道路上の0.3だって、福島県外であれば、立入禁止で除染をするレベルの数値だ(基準は毎時0.23μSv)。取材を繰り返すなかで、感覚が麻痺してしまった自分がここにいる。それは行政もそうなのかもしれない。そうでなければ、ここをまるで観光地であるかのようにアピールなどできるわけがない。

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 ちょこちょこと寄り道しながら、ゆるゆると双葉駅へ戻った。帰りの電車までは1時間ほど。これも、いわきでコインロッカーから荷物を下ろす必要があるからこうなるわけで、双葉駅にコインロッカーがあればもうあと30分はここにいることが出来る。不便なこと極まりない。

 駅前には、日本一周をしてるのかというバイクが停まっていた。バイカーは待合室の中で職員の若い女性の話を聞いている。震災時は中学生だったようだ。一時埼玉に避難したという話もしている。イノベ構想の職員なのか、役場職員なのかはわからない。話の中に入ってみたいと思いつつ、僕のような人間はここにいてはいけない人種なのだろうし、話したところで迷惑がられるだけだろうと思ってやめた。

 伝承館で開催されている絵本イベントのチラシが置いてあるし、バラ園の絵本や開沼博の子飼いの松本春野氏が描いて福島民報が作ったAmazonで売ってない絵本が置いてあったので、そこにかけてアピールしてもいいかと思ったが、やはり僕は場違いなのでやめた。帰りの電車を待つ間、待合室の中でバイカーはその若い子とずっと話していた。どこまで真実が伝わるか分からないが、話している女性は当事者であるわけだから、「行政の嘘」には乗っからないと信じたい。

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 今年3回目の福島取材。この日1日、約9時間半の双葉滞在で、積算線量は6.58μSv。前日の浪江ではさほどではなかったが、やはり双葉は線量が高い。既に避難指示解除された両竹や、比較的線量の低い前田にいた時間が長かったにも関わらず、この数値になった。2日間合計では9.54μSvとなり、これで今年1年ではトータル30μSv弱浴びたことになる。

 これまでの延べ踏破距離は300kmを超えた。1000km歩くまで、定点観測もしながら見つめ続け、そしていいものを描いていきたい。

<終わり>

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