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盗難に遭い すっからかんになる(3)

ナラボー平原を 一緒に超えたメンバーは アデレード近郊でバイト
(ピッキング。フルーツや野菜の収穫をしてお金を稼ぐ)
をするために 進行方向が別れ さよならをすることになった。

わたしはというと 西海岸のカナーボンという
収穫の仕事で有名な小さな町に滞在した時に
(その町に滞在している旅行者はすべて 
バイト目当ての滞在っていうくらいの町。
お金が尽きたら、バイトをしながら旅を続けるスタイルの人も多かった。)

すでに痛い目に合っていたので ピッキングの仕事は
どうしてもやりたくなかったのだ。

ピッキングの話をすると脱線しそうだけれど
あれは今でいう ブラック?「搾取」のたまものだったと思う。

朝早くから ガンガン太陽が照り付ける中
トマト畑の中に入って 先が見えないほど長いトマトの畝の間に 
ピッキング用の カゴと椅子のついた 
マシーンのようなものに腰掛けて ひたすら
熟したトマトをもぎり続ける仕事。
畝の間なので風が通らない。
気温45度の中 ひとレーン終わるごとに頭から水をかぶって
水に浸したタオルを首に巻く のに
レーンが終わるころには カラカラに乾いているのだ。

ひたすら続くその仕事の 終了の合図がなる頃には
熱中症でガンガン頭痛がして ヘロヘロだった。
だのに!
日給 そのころで日本円に直して5000円くらいだった。
わたしはピッキングは二度とやらない!と決めていたから
仕事について行くのは 絶対嫌だった。

さて、この先どうしよう?と思っていると
ちょうど ナラボー平原で遭遇した ボンバーヘアのお兄ちゃん
アデレードで再会することになる。
ただひたすらまっすぐのナラボー平原で 
後ろからすごい勢いで走ってきた 気性の荒そうな 
ボンバーヘアのお兄ちゃんは 一目見て覚えていたから
また会ったね!と気楽に声をかける。
彼の連れは 同じくアデレードで別れたので
この先 車に乗ってかない?という 流れになったのだ。

久しぶりの文明生活にキャピキャピ!

アデレード!久しぶりの街! 人々が文明的な生活をしている都会!
今までずっと 人のいない場所で野宿していたので
きらびやかな街が まぶしくて 完全に「おのぼりさん」状態で
彼(スイス人のシリル)と街観光をすることになった。

ボンバーヘアのシリル

二人で博物館行ってみたり 観光名所をまわってみる。

そして たまたま アデレードに入った日が
わたしの21歳の誕生日だったので 
(日本は20歳が 成人式とかやって 盛大に祝うが
 欧米社会は21歳がまさにそれにあたる)

21歳の誕生日とは! そんなん早く言ってよ!
お祝いしようよ!今日は俺がおごるからさ!
」と。

珍しく二人は 持っている中で一番いい服に着替えて
レストランに お誕生日ランチを食べにいく。
山の上に方にある見晴らしのいいレストラン
気分よく料理を食べて
(ちゃんとした料理なんて久しぶりすぎて)
気分よくルンルンと 車の停めてある駐車場に帰ってきた。

そこで、わたしが最初に見たものは・・・
青色のシュラフが 車の外に落ちている 光景だった。
ん?
私、自分のシュラフ、外に干しておいて、忘れたか?

と思ったことを 今でもリアルに思い出す。

(起きてすぐにシュラフを車に掛けて 乾かしている間に朝食をとり 
 その後 移動の旅を続ける流れ)

おかしいな?と思いながら近づいていった。
が、車を目の中に入れた瞬間に 足が止まる
後ろから歩いてきたシリルが 追いついて
わたしの後ろから 顔をのぞかせ なに?

見た瞬間に 二人の足は固まってその場を動けない

窓が割られて 車の中が無残に荒らされているのが
明らかに見てとれたからだ。
ドアは開いていた 鍵が壊されていた。
そこに残っていたのは 二人分の枕とシュラフ・・・
だけだった。

風がすーーーっと吹き抜けていったのを覚えている。

街で買った(もうすぐクリスマスだし)
クリスマスの帽子が ぽつんと車の中に残されていた。

しばらく放心していたが 自分たちの身に何が起こったのか
頭の中で次第に整理されてくるにしたがって
どうやら 「盗難」にあった ことが わかってくる。

シリルの サーフボード、ウエットスーツもだし、
わたしのバックパック(言ってみれば私の全財産)も
シリルのバックパックも カメラも 
今まで撮りためてきた写真も 思い出の日記
それまで出会った みんなからもらった住所録

そういった 物質的な価値のあるもの以外の
自分にとって かけがえのない大事なものも
すべてなくなってしまったことが 理解できた。

私たちはその時着ていた服と下着 以外は 
すべて消えた。
(運よく、パスポートと財布は身に着けていた)

次第に怒りを覚えるシリル。
ファッ〇とかそんなスラングを連発して猛烈に怒っていた。

風が吹いて 少し時が過ぎて。。。
残されていたクリスマス帽子と 空っぽになった車で
写真を撮った。

写真に写ってない向こう側のガラスが割られ、ドアが開けられた。

そうだ、警察に行かなくては・・・
その後 市街地の大きな警察署に行って 被害届を書いた。

シリルが カメラの数もごまかして 新しいのに書いておくといいぞとか、値段もうんとあげておけ!とか 私に入れ知恵をしてくれたので
できるだけ 努力をして リストを書き上げた。

その日から二人は 極度の節約生活に入る。
最低限必要なものは買い足さないとならなかったし
限りある資金を有効に使わなくてはならなくなったからだ。

安宿などにも泊まるのをためらうくらいの 節約生活。
シリルは テントなどを持ち運ばないタイプの旅人で
寝るのは狭い車の中だった。
朝起きて 近くのビーチに設置されている 水のシャワーで 身体を洗う
(南半球は季節が逆というけれど その頃だいぶ寒かった
震えながら水シャワーを毎日浴びていた。
街中の道端で寝ていると 夜中に警察が 起こしにくるので
少し人里離れたビーチの駐車場などを
毎晩探して 寝る日々。

かといって あまりに人の来ない所も
治安に心配があったので 
毎晩の寝る場所を探すのにも 結構苦労した。

その時に着ていた服を毎日着て 
空っぽになった車で旅を続けていた。

クリスマス休暇と年末は 長いホリデーになるので
「そうだ。僕の昔からの友達のところに行こう!」と
シリルの友達の家で ホリデーを一緒に過ごすことにした。

その時のクリスマスパーティーの様子

親類などが集まり大きなパーティーが開かれた

わたしなんて シリルとこの前出会ったばかりの
ただの知り合いの日本人に過ぎないのに、
その友達の家族は もう 本当に 
「(彼らの親戚が)久しぶりに 遊びに来てくれたね!」
くらいの勢いで もてなしてくれた。

ボンバーヘアとメキシカンハットが良く似合いすぎる!

リビングには大きなクリスマスツリーが飾られていて
数日前から木の下には 家族みんなの分のプレゼントが包装されて
飾られていた。
クリスマスの朝には みんながそのプレゼントを 
和気あいあいと手にして開けていた。
その中に ひとつだけ 残されたプレゼントがあった。
家族に導かれて見てみると
AI」と 書いてある。

まさか、わたしに?
こんな 見知らずの ただの通りがかりの旅人のために 
プレゼントを用意してくれていたなんて!!!

そして そこのお母さんが言う

「アイ、メリークリスマス! あなたの家族にも挨拶しなさいよ。 はい」と 電話を 私に渡してくれたのだ。

その頃の世界は 今のように スマホのアプリで
無料で通話が世界中どこにでもできる!
なんて 夢のようなシステムはなく
1分でも相当高額な 国際電話を使うしかなかった時代。

そこのお母さんは
「あなたのお母さんに メリークリスマスと言いなさいよ!」と

その5分を プレゼントしてくれたのだ。

わたしは 震える指興奮気味に 電話番号を押した。

旅に出てからというもの ハガキを数枚出したくらいで
自分の家族に電話をかけたことなど 一度もなかったのだ

電話の向こう側に 聞き親しんだ 母親の声がする。
「はい。もしもし。」という声が聞こえるのに
その声が 震えるほど 涙にかき消され
自分の声がでない。

こんなに遠く離れているのに いつもずっと聞いていた
あの紛れもない 母親の声が 受話器から聞こえる・・・・

何を言おうかも真っ白になって
ただ 震える声しか出てこない。

何か話さなくては! 時間がもったいない!
と 思いながら 震える涙声で 

盗難にあってしまって・・・ と一連の流れを伝える。

でも今はこうして 友達の家にお世話になっていて 大丈夫だと。

母親は
「盗まれたものなんて お金で買えばいいじゃない。
愛がケガもなく、健康でいてくれたらそれでいいから」と
言ってくれた。そして電話を切った。

涙が止まらなくて 止めようと思っても止まらなくて
衝撃的な ボディーブローを食らったくらいに
感情の波は 止まることがなかった。

それまで目を向けないで ごまかし続けてきた気持ちが
明らかに あらわ になった瞬間。

「不安だよ、寂しいよ、家に帰りたいんだよ」

っと書かれた 紙切れ一枚が
高く積まれた本の隙間から ぱらっと落ちて
それに目をとめてしまった 時の感覚 に似ていた。

母親の声を聞いたことで
リアルに その気持ちが自分の中に存在していたことに
気づいてしまったんだと思う。

次の日に
段ボール箱いっぱいになった
服や靴、が 部屋の前に置いてあった。

なんと パーティーに来た人たちが 私たちの事情を知って
その後すぐに 自分たちの着ていた服などを集めて 
持ち寄ってくれたのだ。

信じられない!

なんてこと!

涙が止まることがなかった。

何も知らないただの旅人の私に
こんなにも優しく 暖かい心を届けてくれるだなんて。

私はその後 いただいた服を着て
旅を続けることになる。
(つづく)
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シリルの友達と飼い猫
いただいた服を着て。


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