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ヘアウェイブ・レコードの「思いのままにペンでスラスラ」

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音楽と音楽の記憶とそのメモ
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第6話 カリフォルニア・ドーターの軌道

第6話 カリフォルニア・ドーターの軌道

私の手元に一本のカセットテープがある。典型的なインディー・ミュージックの体裁で『レモネード・セッション』とレタリングされた8曲入りのテープは、1999年7月にカリフォルニア・ドーターによって録音されたものだ。
当時のカリフォルニア・ドーターはフロー、ヨコイ、カズキそしてテッド・リチャードソンの4人編成だったが、ごく一部の断片とカズキの2曲を除けば、実質、フローとテッド二人の作品と言っていい。フロー

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第5話 ワーズワース・カイパーベルトの広場

第5話 ワーズワース・カイパーベルトの広場

夏の日の午後、ヘアウェイブ・レコードの面々(フロー、長谷川ヨコイ、退職したナオミの代わりに入社したゼニ、家具アーティストのたけち)は、遅い朝食をとるために野外へ出た。フォルクスワーゲン・ビートルの革張りのシートは焼け付くほど熱を帯びていた。エアーコンディショナーをかけると埃っぽい熱風が吹き出すので窓を開け放った。アクセルを踏むとエンジンは悲鳴を上げた。街は熱でゆがんで見えた。蜃気楼のようなかげろう

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第4話 さよなら21世紀

第4話 さよなら21世紀

独立系の音楽レーベルであるヘアウェイブ・レコードは、寒川のうらぶれたマンションに入居していた。ここには、失職した行き場のない青年たちが集い、世間に背を向け、非生産的なレコードを作っていた。マンションの住人や自治会の連中は、彼らをヘアウェイブ族と呼び、地域社会に溶け込もうとしないこの青年たちを疎み蔑んでいた。
事務所内には、100円〜300円で購入された、膨大な量のアナログ・レコードが壁一面から床に

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序章 ボレロ

序章 ボレロ

1999年の夏、私と長谷川ヨコイは、黄色いフォルクスワーゲン・ビートルに乗り込み、北関東のとあるキャンプ場に向かった。途中、国道沿いの古本屋に立ち寄り、シャルル・デュトワのラヴェル管弦楽作品集と、クリスティアーネ・ジャコテのバッハ協奏曲全集をそれぞれ250円で購入した。車内で流れていた軽快なチェンバロの音が、今でも耳に残っている。

ヘアウェイブ・レコードは1999年に始まり、2014年に終わった

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