高校生。数学さえできれば「頭がいい」のか。
ムスメはあまり数学が得意ではない。彼女のために言い訳するわけじゃないが、5年生になった時にこの学校区の数学のカリキュラムが変わり、私にも何がなんだかわからない方法で教えられ始めた。つまり数学ができない子を掬い上げるために、妙に回りくどく噛み砕いた方法をとっていて、数学が得意な子はその意味がわかるけれど、ムスメのような平均に位置する子は返って混乱してわけがわからなくなった。そこから家庭教師をつけても何しても、彼女の数学は九九を誰よりも早く覚えて、クラスのトップを突っ走っていた頃のレベルに戻らないまま今に至る。
四つ上のムスコは今大学で生物工学 (Bio Engineering)を専攻している。工学系だから当然数学はできる。が、純粋数学は理数系科目の中では苦手な方である。
私にはわかる。理科系科目はこうだからこうなる、という流れがある。原因と結果というか、条件と結果というか。だから論理的に考えられる体質なら、理解できるし覚えられる。が、数学は方程式がこうだからそれに数字をハメこんで答えを出すだけ。理科系科目は、目に見える現象だから想像して理解できる、というのもある。
ムスメは数学が苦手だから、物理ではなく環境科学(Environmental Science)を選択した。生物と化学は楽しんでいる。恐竜好きで育ったムスコは生物が大好きで、暗記力抜群のクセに先生との相性が悪く化学で苦しみ、物理で大輪の花を咲かせた。結果、生物工学専攻である。
私は高校では文系だったから、微分積分のさわりしかやっていない。文系の中では数学はできた方だったから、大学受験は共通一次も受けたし、私立には数学を使った。でも真面目さと勤勉さと暗記力で、ひたすら方程式を覚え、せっせと問題集で数こなして「この問題見たことある」を目指して乗り切っただけだ。
私は編み物をする。自分でデザインもする。おばあちゃんが縁側でただ真っ直ぐにスカーフを編むイメージがつきまとう編み物だが、目数を増やしたり減らしたりするだけでなく、全体のサイズを大きくしたり小さくしたりと、デザインパターンを自分向けに調整をしたければ、数学が必要になる。xとyの二次方程式をしょっちゅう使う。三次方程式の時もある。今のペースで増やし目していったら、毛糸が足りるか足りないかという計算もする。
微分積分が日常生活に必要なのかどうか、そもそも微分積分で一体何を成し得るのかがわかってない。なんか球とか立方体みたいなきちんとした形じゃないものの容積を計算できるんだっけ?規則的なパターンのないグラフになるんだっけ?わからないけれど、微分積分を使わなくても編み物も料理もお菓子作りもできるから、多分私のような生活をしている限りは必要ないのだろうとは思っているが、ちょっとした時に二次三次方程式は使うから、数学の苦手なムスメにも、自分でx y zを使って方程式を組み立てて解く、ことができるようになってほしいとは思っている。実際、看護師には微分積分は必要ないから、今年のPre-Calc(Pre-Calculus、微分積分の初編)を最後に数学とは永遠のお別れをするらしい。高校4年では数学系科目として統計学を選択する予定。ちなみに、ムスコは高校4年の時に満面笑顔でスペイン語と永遠のさよならをした。
さて、数学ができる、と自動的に頭がいい、というイメージがある。でも、数学はできるけれど、科学系はダメというのもいる。北大一橋大で勉強して、今はこちらの大学で経済学の教授をしている高校時代の友人と先日やりとりしたのだけれど、彼はずーっと数学が苦手だったという。赤点とるほど数学が苦手だったとは知らなかったけれど、大学受験の後は、もう数学なんで見たくもなくて経済学を数学なしに乗り越えようとしたけれど、それはやっぱり無理な話で、大学4年の時に高校数学に戻って勉強し直し、今では同僚の中で彼の授業が一番数学を使った内容だとか。
彼は高校時代に苦手な数学を捨てなくてよかったと言っていた。受験の呪縛なしに学び直した時、公式の意味を理解することができたそうだ。高校の数学というのは、計算の解き方のパターンを覚えるという勉強の仕方に追い込まれ、なんでそうなるのかわからないまま、ひたすら覚えるしかない。でも大学に入ってからの数学は証明問題、論理系の数学だから、色々な分野での理論武装にも役立つ思考の補強になる、と彼は言う。
やっぱり、ね。
高校レベルの数学は、語学と同じくツールでしかない。頭のいい人というのは、論理的な思考ができる人のことだ。論理的に主張を組み立て、冷静に相手の話を聞き、問題を解決する。人間にはそれぞれが得意とする分野があるから、共同作業でコトを成していくのが社会というものだ。誰もがリーダーとなる素質があるわけではないし、そんな必要もない。
高校で数学ができないからといって頭が悪いわけではないし、数学さえできれば頭がいいわけでもない。外国語を真面目に習得し、母国語で自分の思うところを言葉で文字で的確に表現する力を養う。そして、自国の、そして世界の成り立ち、歴史を踏まえ、宗教紛争などの時事問題に興味を持ち、自分の身の回りに見える自然現象が、生物学、化学、物理学、環境科学の授業で習うこととつながり、その分野への興味が医学や工学への興味へと発展する。統計学や経済学がビジネスにつながる。心理学も重要だ。社会に出たら、数学ができるだけでやっていけるもんじゃない、ということすらわからない奴が多すぎる。
高校生たちよ。受験の呪縛から解き放たれ、本当に学びたいことにたどり着く日まで、数学の基本だけは身につけるんだよ。頑張れ。
ただただ好きで書いています。書いてお金をもらうようになったら、純粋に好きで書くのとは違ってくるのでしょうか。