様々に解釈可能なホラー映画『MEN 同じ顔の男たち』の自分流解釈(考察?)
A24のホラー映画『MEN 同じ顔の男たち』を観ました。
人によって様々に解釈可能な作りになっていて凄く面白かったです。
その後、オフィシャルサイトの著名人コメントと監督インタビューを読みました。すると、インタビューでアレックス・ガーランド監督が
と語っていたので、私なりの答えを探そうと思ってこの記事を書きました。
【1】考察ポイントかなと思ったところ
ちょっと考察しながら、解釈の前提になるところを整理します。
▼アダムとイヴの話がモチーフになっているっぽいけど、かなりひねりが入っている~速攻で林檎を食べるイヴ
創世記のアダムとイヴの物語がモチーフになっていそうなのは何となく伝わってきますが、ストレートにやっているわけではなく、かなりひねりが入っていますよね。
なんせ、映画が始まってすぐ、イヴは速攻で林檎を食べてしまうので…。
作中の人物とアダムとイヴの物語では、以下の対比があると思いました。
主人公ハーパー:林檎を食べたイヴ
全裸男をはじめとする同じ顔の男たち:林檎を食べていないアダム
(全裸でも羞恥心がない、死なない等)夫ジェームズ:林檎を食べたアダム
(ハーパー(イヴ)のせいにする、死ぬ等)
すると、あの屋敷はエデンの園的な場所のようですが、あそこは現実とは違う異界になっているように見えます。
序盤の森の散策シーンで、来た道のトンネルがふさがれている。
終盤の夜のシーンで空が異常なほどめっちゃ綺麗。
外部に肝心なこと(住所など)を伝えようとすると妨害される。
等々により…。
一方、ラストでは親友がたどり着けていて、現実に戻っているようです。
傷心を癒すため田舎に来た主人公が、ひょんなことからエデンの園的な異界に飛ばされて、トラウマと対峙して、最終的に現実に戻ってくるという流れかと思いました。
▼信用できない語り手と見せかけて…
ハーパーとジャームズのいさかいを見て、最初はジェームズが全面的に悪いのかと思います。ですが、その後何度か過去の回想が挿入されて、実はハーパーも悪いのではないか?信用できない語り手か?と思えてきます。
ですが、終盤までいくと、二人のいさかい(二人の関係性が完全に壊れるところまで至る)について、その原因にはあまり言及されず、実はあまり重要ではないように思えてきます。
原因はどうあれ、関係性が完全に壊れた後に自死をほのめかしたり、「私に何を求めているの?」と訊かれて「愛だ」と答えることのヤバさ。原因が何であろうとそういう言動をしてしまうのは醜悪である…そんな見方もできると思いました。
【2】様々に解釈可能なところの自分流解釈
▼同じ顔の男たちは何なのか
まず、あの同じ顔の男たちがハーパーに対して行う行為についてですが、あれはハーパーが過去にいろいろな男たちにされて嫌だったことが再現されているのだと思いました。
(異界に入り込んで精神攻撃をくらっている状態)
神父?がさりげなく膝の上に手を置いてくる。初対面では明らかに失礼な物言いをしてくる。
嫌だと言っているのに強引に酒をおごろうとしてくる。
頼んでないのに男らしく助けようとしてくる。
ストーカーされる。その犯人を警察が軽く扱う。
等々…。
で、同じ顔で見えている理由は、これらの元になっている過去にされた行為をハーパーは鮮明に覚えているけど、誰にされたか、その顔は覚えていないからだと解釈しました。
それで、行為自体は再現されるが顔は再現されず、適当な男の顔が見えていたのだと思いました。
私自身も、男女間に関わらず、理不尽に暴力を振るわれた事だとか、もっと小さいことでも、嫌だった事辛かった事は鮮明に覚えています。ですが、やった人の顔はおぼろげにしか覚えていないです。
ハーパーも似たような感覚だったのかもしれません…。
▼男が男の出産を繰り返すみたいなシーン、あれは何なのか
後半にある、男が男の出産を繰り返すみたいなシーン。ジェフリーがジェフリーが産むのを繰り返して、最終的にジェームズが産まれます。
あれは、イヴに拒絶され子供を作ることができないアダムが、エデンの園的な異界の中で異常進化して、生まれ直しを繰り返していたのではないかと思いました。
そして、生まれ直しを繰り返している中で知恵を付けたのか、あるいは途中で落ちていた林檎でも食べたのか…。いずれにせよ最終的に、林檎を食べていないアダムであるジェフリーから、林檎を食べたアダムであるジェームズに変化したと…。
それにしてもあのシーン、あんな恐ろしい状況なのにハーパーが悲鳴を上げたりせず、うわ何それ引くわ~勘弁してよ…みたいな表情をしているのが最高ですね。
※あと、全裸男がタンポポの種子を吹きかけてハーパーの口に入るシーン。なんとなくですが、あれがあの異界ルールにおける妊娠させる行為なのかなと思いました。しかしそれには失敗。林檎を食べていないアダムと林檎を食べたイヴの差異によるものか何なのか…。
▼終盤、ハーパーとジェームズの対峙から、ラストまでの空白に何があったのか
ジェフリーからジェームズが産まれた後、ハーパーが「私に何を求めているの?」と訊いて、ジェームズ「愛だ」と答えるシーン。
その後、親友が屋敷に辿り着くシーンになり、その間に何があったかは明かされておらず、色々と解釈が可能です。
親友が屋敷に辿り着けているということは、ラストシーンは異界から戻って現実になっていると思います。後は想像です…。
過去の回想では、ハーパーとジェームズは感情に任せまともな会話ができておらず、ハーパーはジェームズを問答無用でシャットアウトしているような感じでした。
そして、ここで初めてハーパーとジェームズが冷静な状態で対峙します。
しかし、関係性が完全に壊れた後なのに、ジェームズは言うに事を欠いて、ほしいのは「愛だ」と。
観客としては「何言ってんだこいつ」って感じでした。ハーパーも同じ感じだったと思います。
正面から向き合ってはみたけれど、やっぱりないわ~ということがはっきりと分かった。手には斧。
「しゃらくさいわ!」
すかさず斧を一閃!
怪異を撃破して現実に戻る。
ついでにトラウマと正面から向き合って粉砕することでトラウマも克服!
そんなストーリーを想像しました。
【3】まとめ:自分流解釈での『MEN 同じ顔の男たち』の話の流れ
ここまでを踏まえると『MEN 同じ顔の男たち』は以下のような物語だと私は解釈しました。
主人公ハーパーと夫ジェームズの夫婦関係は完全に破綻する。
二人は感情に任せまともな会話ができない。
ハーパーはジェームズのことをシャットアウト。
ジェームズは関係を終わらせるなら自死するとハーパーを脅す。ジェームズはアクシデントで死ぬ(足を踏み外して転落)。
ハーパーは夫の死による傷心を癒すため田舎街を訪れ、屋敷を借りて宿泊する。
ハーパーは屋敷について速攻で林檎を食べる。
(ハーパーに”林檎を食べたイヴ”の属性が付く)ハーパーは屋敷の周りの森を散策するうち、エデンの園的な異界に迷い込んでしまう。
(風景は現実とほとんど変わらないが、同じ顔の男たちがいる異界)ハーパーの前に全裸男や神父などの同じ顔の男たちが現れる。
(みな、屋敷の管理人のジェフリーと同じ顔をしている)
この異界の怪異である同じ顔の男たちは”林檎を食べていないアダム”の属性を持ち、イヴ属性のハーパーを狙う。同じ顔の男たちは、ハーパーが過去に男性にされて嫌だった事、辛かった事の記憶を再現する形で精神攻撃を仕掛ける。
ハーパーは過去に男性にされて辛かった事、嫌だった事の行為自体は鮮明に覚えているが、やった人間は通りすがりとかの関係の薄い連中で、その顔はあまり覚えていない。そのため、この再現現象では相手の顔は再現されず、ハーパーには同じ顔に見えている。全裸男がタンポポの種子(綿毛)をハーパーに吹きかける。
これは異界ルールで妊娠させる行為のようにも思えるが、失敗している。
(林檎を食べていないアダムと林檎を食べていないイヴという不均衡のせいなのか、なんなのか…)同じ顔の男たちの精神攻撃がエスカレートしていく。
ハーパーは車で屋敷を去ろうとするが、ジェフリーに妨害される。
(林檎を食べたイヴがエデンの園を去ろうとし、林檎を食べていないアダムがそれを妨害した構図のようにも見える)異常なほどめちゃくちゃ綺麗な夜空が見える。
ここやっぱり異界だなと思えるシーン。ジェフリーがジェフリーを出産するのを繰り返す奇妙なシーン。
イヴを妊娠させ子供を作ることができなかったアダムが、エデンの園的な異界の中で異常進化して、一人で生まれ直しを繰り返している。生まれ直しを繰り返しているうちに知恵を付けていったのか、それとも途中で落ちていた林檎でも食べたのか、最後には”林檎を食べたアダム”属性のジェームズが生まれる。
このジェームズもハーパーが過去にされた嫌な事の再現存在であるが、さすがにジェームズのことは覚えているので、はっきりジェームズとして見えている。
以前(ジェームズが死ぬ前/回想シーン)の二人は感情に任せまともな会話ができていなかったが、ここに至り冷静に対峙する。
ハーパーは「私に何を求めているの?」と訊き、ジェームズは「愛だ」と答える。
(劇中あえて描かれていないシーン)
冷静になって正面から向き合ってはみたけれど、やっぱりないわ~。関係性は完全に壊れており理解し合うことはできないとハーパーには明確に分かった。そして、手には斧。
「しゃらくさいわ!」斧を一閃!
怪異を撃破して現実に戻る。
ついでにトラウマと正面から向き合って粉砕することでトラウマも克服!親友が屋敷にやってくる。
親友が屋敷に辿り着けているので、現実に戻っている。
親友と目が合い、ハーパー笑顔。
THE END。
【4】余談
いやあ面白い映画でした『MEN 同じ顔の男たち』。
奇妙な世界観に、映像美。
物語にも(ここまで執着して解釈する人もそんなにいないと思いますが、そこまでしなくても)感じることが結構あると思います。
あと、この映画って構造的には『N号棟』に似ていますね。
(異界に入ってトラウマを克服して現実に戻る流れと、様々に考察・解釈可能な要素の数々)
よいN号棟ライク映画でした(ソウルライクみたいに言うな)。
※追記
アマプラで観たのに、気に入ったのでブルーレイも買いました。
(ポストカード付き!)