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ハイキュー!!は人生(の物語)である

昨日、ジャンプの大人気バレーボール漫画「ハイキュー!!(集英社 古舘春一作)」が完結した。

ハイキュー!!に対してあまりに多くの感情を持て余しているので、書き記しておきたい。

※連載で追っていたので、最終話までのネタバレを含みます

1.ハイキュー!!のコンセプトは人生そのもの

ハイキュー!!のコンセプト(テーマと言うべき?)はたくさんあるが、私が特に惹かれた3つについて。

●強いって自由

「強いって自由」というフレーズは作中で何度か登場する。

ここでの「強さ」は2種類あると思っている。1つはバレーボール自体のうまさ、そしてもう1つは「精神的な強さ」。

前者の「強さ」はわかりやすい。バレーボールに限らず、経験と努力を重ねある一定のレベルに達すると…「取り組むことに必死」というフェーズを脱し、楽しむ余力が出てくる。一度でも何かに真剣に取り組んだことのある人なら分かるだろう。

個人的には、後者の意味の「強いって自由」が特に好きだ。私は「精神的な強さ」は「自分をどれだけ正しく信じているか」と同義だと思っているのだけど、私の最推しキャラクター「西谷夕」はまさにこのコンセプトを体現している。

西谷は登場時から強かった。3巻で旭さんと揉めた時は「他の奴がどう思うかなんて関係ねえよ!」とブチ切れ、5巻では”ワイルドになりたい”と言う旭さんに「いいじゃないスかどう見られるかなんて!自分でカッコイイと思ってれば!!」と朗らかに笑う。

西谷は強豪校の選手たちに一目置かれ、チームメイトからは「西谷は全日本ユースでもおかしくない」と評されるほどハイレベルなリベロだった。

しかし彼は(おそらく)高校でバレーを辞めている。

彼はなんと数年後、イタリアでカジキを獲っている。

何を言っているのか私もわからない。

しかしこれぞ西谷!!と感嘆した。

彼をよく知らない人から「バレーをやめるなんて勿体無い」と言われたかもしれない。でもそんなもの、彼にとっては取るに足らないことだろう。

西谷は誰よりも自分を信じている。だからこそ自分が「やりたい!」と思ったことに躊躇なく挑戦するし、進路に悩む先輩に「(宮城から)東京なら新幹線でビュン!ですもんね!」と言える。

人生で唯一、「自分」という人間とは一生付き合っていかなければならない。人生は選択の連続というが、自分を信じることができたら・自分を味方にできたら、自分のどんな選択でも肯定できるだろう。西谷はなんのしがらみもなく、軽やかに人生の選択を続ける。最高で、最強に自由だ。

一方、「旭さん」は登場時から明確に西谷と対比的に描かれていた。ヘタレぶりを後輩の西谷からも弄られるほどだったが、彼は40巻の鴎台戦でついに自分を味方につけた。

そのシーンの「仲間が重荷だったことがあるか」という旭さんのセリフ。これまでは自己肯定感の低さゆえに、周りから「エース」と頼られても「なんで自分なんかを信頼してくれるんスか…?俺にはどうせ無理だよ」と心のどこかで思っていただろう。けれど、彼は鴎台戦で「仲間の信頼に応えてきた自分」「仲間の信頼に応えたいと思う自分」をやっと肯定できたのだ。

40巻でついに肯定できた、というのもリアルで重みがある。西谷のような「歩く自己啓発」みたいなひとが身近にいても、長年染み付き癖になっているネガティブ思考や自己不信は早々変わらない。旭さんは40巻分の練習と試合を経て、自分を味方につけた。

私は、最終話で旭さんが西谷と世界一周旅行している事実に泣いた。だって高校生の旭さんは明らかに西谷にコンプレックスを感じていたから。12巻の番外編で、烏野メンバーが「西谷はなぜモテないのか」と談義していたシーン。そこで旭さんは何と言っていたか。「西谷の近くにいると自分が小さな人間に思えてくるからかな…」とおずおず意見し、大地さんから憐みの目を向けられていた。

そんな旭さんがいまや、西谷と北極に現地集合して、エジプトでイケイケなツーショットを撮っているなんて。四六時中行動を共にする世界一周旅行に、コンプレックスのある相手と行けるわけがない。旭さんはかつてコンプレックスさえ感じていた後輩と対等な、強くて自由なひとになったのだ。

古舘先生は、押しつけがましさなんて一切感じさせず、「自分を味方につけられた人の強さ」「強さとは自由」と言い切ってくれた。

西谷推しなので語りまくってしまった。白鳥沢のチームスローガン「強者であれ」もこのコンセプトに絡んできそうだけど、このあたりは読み込みが足りないので今後考えてみる。何回通し読みしても、新たな解釈課題が出てくるのもハイキュー!!の凄さ。ダイレクトでキャッチーな面白さと、噛めば噛むほど楽しめる味わい深さを併せ持つ、バケモン漫画である…。

●人生は「運命」と「偶然」の出会いの連続

ハイキュー!!では多くの「出会いの化学変化」が描かれる。

主人公の日向と影山をはじめ、烏野の3年生たち、及川さんと影山を筆頭に”出会いの化学変化”のオンパレードである。

「運命」または「偶然」の出会いから、お互いに影響を与え合い(=化学変化)、人生が形成されていく。

アニメのオープニングテーマ「Ah Year!!」(スキマスイッチ)に、こんな歌詞が出てくる。

運命と偶然 問いかけと答えが交わって 合図が鳴る


「運命と偶然の交わり」、そしてそれによる「変化」が人生を形成していく。

自分にも思い当たるものがある。

あの時、偶然手に取った本をきっかけに進学先を決めた。

あの時、友達の何気ない一言から今の仕事に就いた。

昨日から今日にかけて、SNS上では最終話を読んだファンたちの興奮冷めやらぬ感想や古舘先生への労いにまじって、「自分とハイキュー!!の出会い、それによる人生の変化」を明かす投稿をいくつも目にした。

ハイキュー!!と出会ってアニメーターになった、ハイキュー!!を読んでバレーボール部に入った、ハイキュー!!の演劇に出演して役者人生が変わった…

「ハイキュー!!」は”出会いの化学変化”が人生を形成していくさまを描いた漫画であると同時に、「ハイキュー!!」もまた、誰かの人生に化学変化をもたらしているのだ。エモすぎてつらくなってきた。

●敗者は弱者ではなく、明日の挑戦者

終章では、メインキャラからライバル校のサブキャラまで、数年後の姿が描かれる。未来の彼らは「バレーボールを続けている人」「選手以外の形でバレーボールに関わっている人」「バレーボールを辞めて全く関係ない仕事に就いている人」など千差万別だ。

バレーボールを通じて得た経験やつながりを糧にしながらそれぞれの人生を歩む彼らを見て、たとえ作中では脇役でも一人残らず「自分の人生の主役」なのだと実感する。

作中、全国大会で優勝するのはその時初めて名前だけ出てきた学校だ(私の記憶が正しければ)。

烏野もライバル校も、どこかで必ず「負け」を経験している。

烏野が敗退したあとの、彼らを見守る大人たちの台詞すべてが素晴らしい。

「負けは今の力の認識であっても 弱さの証明ではない 君たちの何も  ここで終わらない これからも 何だってできる!」(武田先生)
「挑む者だけに 勝敗という導と その莫大な経験値を得る権利がある   今日 敗者の君たちよ 明日は何者になる?」(雲雀田監督)

全てを捧げた高校バレーが終わろうと、人生は続く。

古舘先生は、終章で「敗者の今日」を乗り越えた先の彼ら・彼女らを描きってくれた。

ハイキュー!!はまさに人生の物語だと私は思う。

他にも好きなコンセプトがたくさんあるので、またいつか書きたいな…!

2.古舘先生は!とにかく!!漫画がうまい!!!!!

漫画って、大変なマルチスキルを要すると思う。

画力、構成力、言葉のキャッチーさ、演出力、魅力的なキャラクター、ストーリーの面白さ、心情描写の豊かさ(作者の感受性や洞察力)、etc…

特に「ハイキュー!!」はバレーボールという競技の特性上、選手のローテーションやボールの動きなど、読者を置いてけぼりにしないよう分かりやすく描くだけでも至難の業だろう。「ハイキュー!!」は様々な工夫により、バレーボールのルールを知らない私でも難なく展開についていけた。それどころか、恐ろしいことに古舘先生は常に「新しさ」を追求していた。

例えば、

・「キュッ」という擬音語の「キ」の横棒を「→」にして選手のスイッチを表現
・ボールの軌道をコマとコマをまたいで描くことで、立体的な描写に

などを筆頭に「こうくるか~!天才なの!?」と悶絶する魅せ方が随所にある。

週刊連載ってめちゃくちゃウルトラ激ヤバにハードだと思う。それでも「新しい表現」に挑戦し続ける古舘先生は、「常に新しい」主人公・日向であり、主人公チーム・烏野そのものだと思う。

そして、第400話の、見開きページを生かしたあの天才的な演出。

あれは古舘先生がバレー漫画を400話描き続けたからこそ生まれたものだろう。

作者自ら「ハイキュー!!」のコンセプトを体現していて、ジャンプ発売日の月曜早朝から目頭が熱くなった。その日は、いつもより仕事を頑張れる気がした。

「強いって自由」の前者の意味にも通じるが、ハイキュー!!のコンセプトには「日々の積み重ねが未来の血肉になる」もあると思う。北さんの「ちゃんとやんねん」や鴎台のチームスローガン「習慣は第二の天性なり」などに象徴されるように。

古舘先生自らが、400話にもわたるバレー漫画を真摯に、1話ずつ積み重ねてきた境地で生んだ成果だ。

古舘先生、マジでマジでマジで最高です。五体投地で感謝しています。

恐ろしいことに、まだ書きたりない(震え)。

2編に分けることにします。


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