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空を飛ぶカメ・その①

ある日、カメは空を飛んだ。
その距離は1.700㎞と言う数字を叩き出した。
カメは傷つくことなく無事に我が家に飛び込んで、今でも一緒に生活をしている仲間だ。
カメのいる生活は平和で良い。

カメが飛んで来てからというもの、メダカが増え、エビも増えた。ついでに水草も増え、あまり増えなくても良いカタツムリも増えてしまった。
カメが飛んで来て一番側に感じたことは、大好きな沖縄だった。

カメはカメでも甕の話である。

沖縄県の久米島にある古民家ダイビングショッププラスアルファのオーナーの寺井さんは、記念すべき私のファンダイビング一本目のインストラクターだった。甕は寺井さんの家にあったものだ。

ある日、寺井さんはSNSで古民家を改築してオープンしたダイビングショップの片付けをしている時に発見した甕の写真をあげていた。
発見したというか出土したような並べ方と、いかにも歴史を感じる黄土色の甕の質感がおかしくて笑ってしまった。
しかし土にまみれた甕を見ていたら、久米島で長年眠っていたこの甕の中には何か楽しいモノが詰まっていそうだと想像してしまった。

沖縄の甕は沖縄の方言ではカーミと言う。口がキュット狭くなっているカーミは主に穀物の保管用であった。蓋はやちむんのマーカイ(茶碗)が使われていたということを何かで読んだことがある。
口がぽっかり大きく広がったカーミは雨水などを溜める水甕である。

琉球の生活に寄り添った一辺に触れてみたい。甕の中に楽しい何かが詰まっていないか確かめたい。
久米島と共に生きた甕のある暮らしは面白そうだ、魚でも泳がせたら楽しそうじゃないか。
目が離せない甕だった。

輸送中に割れるかもしれないし、なにせ梱包する寺井さんの負担は大きい。もろもろ心配は尽きなかったが無理を承知で「その甕が欲しい。」と相談すると、寺井さんは快く私のワガママを聞いてくれた。
寺井さんはダイビングの時も私のワガママを聞いてくれていた事を思い出した。
やれギンガメアジの大群をを見せろだの、大物を見せろだの柄の悪い、否、好奇心旺盛なダイバーをいつも満足させてくれた。
時々、リクエストを外しましたけど、外した時の肩の落とし様は見事でした。

そうして甕は久米島を飛び出した。
久米島の青い空気と風を甕の中にふくよかに蓄えたまま私の前に現れたのである。

空を飛んだ甕は想像以上に重くでかかった。
口の部分はおちょぼ口が過ぎて、これでは魚を放しても、のどかに鑑賞なんて夢のまた夢だ。
活用されぬまま今度は我が家の倉庫で眠るのかと良からぬ考えが浮かんでは消える。
甕にしてみれば飛んだ損だ。
やれやれ、どうなる久米島のカーミ。

つづく