見出し画像

西表島・パーラー美々のマンゴージュースとマンゴーの一番おいしい食べ方

西表島にあるパーラー美々のマンゴージュースは世界一うまい。
一口で黄金色に輝くパラダイスの世界に誘う罪な味わい。太陽のエキスを閉じ込めて一滴残らずしぼったマンゴーの蜜が凝縮している。
日焼けをした肌に染みる美味しさは、ほっぺが落ちるの騒ぎではない。

パーラー美々は西表島の上原港近くにある。
マンゴージュース以外にも沖縄ソバや定食もあり、西表島を訪れるならぜひ立ち寄りたい店の1つだ。

店はマンゴー色の壁色が目印である。
真新しい黄色の壁が眩しいが、私が訪れた10年前は建て替え前で年季の入った小さな小屋だった。
雑貨屋サンタヌネーネのネーネは西表島に来たら絶対飲むべき最高のマンゴージュースと称賛する。
店主の女性のハキハキとした接客はさっぱりして変に仰々しくなくない。彼女の丁寧の中にある気さくさに親しみを感じ、「あれ、私、常連だったかな」と勘違いしそうなくらい気持ちがいい。
マンゴー農園も経営している。言わずもがなマンゴー農家のマンゴージュースがマズイわけがないのだ。

台風が近づく最中に訪れた美々は少々、雰囲気が違っていた。ソワソワした風が店内を駆けめぐる。
彼女はカチカチに凍ったマンゴーをミキサーにかけ、ポッテリ注がれたマンゴージュースを私たちのテーブルに運び終わると、スマートフォンを見て顔がゆがんだ。
「あーっ!台風でかくなってる! 920ヘクトパスカルなんて信じられない!ヤバいよ920は!!今日にでも船は欠航すると思う。何日欠航が続くんだよぉ。
お姉さんたちも帰れるうちに石垣島引き返したほうがいいよ!いつまで足止めさせるか分からないからね。」
沖縄の台風の威力を知らぬ私はキョトンとしてしまい、まるで分かっていない観光客丸出しだ。

彼女は台風で定期船が欠航し旬のマンゴーが出荷できなくなる状況を諦めつつも悔しさをにじませていた。

「すごく出来のいいマンゴーなのに、台風で船が欠航して出荷出来ないからジュース用に刻んで冷凍するしかないの。父には大きすぎるマンゴーは出荷する時に規格外になっちゃうから、ほどほどにしてって言ってるのに、大きなマンゴーが出来ると自慢げなの。大きすぎると売り物にならないから冷凍ね。
こんなに立派なマンゴーを冷凍にするのは忍びないんだけど仕方ないね。」

「そのマンゴー買います!!」
この際、財布に相談は無視だ。
丹精込めた取っておきのマンゴーを首を長くして待つ人に無事に届けられない無念さは計り知れない。
だったら、私が食べる!!
消費者はここにいます!!
迫りくる台風は予定を狂わす厄介者だったが予想外のに台風の恩恵を受け、捨てる神あれば拾う神ありとはこのことだ。

彼女は「買ってくれて嬉しいよぉ、丸々したマンゴーを刻むのって、けっこう切ないの。あのね、冷やして丸かじりしてみて!マンゴーの一番美味しい食べ方は絶対に丸かじりだから!」
特大マンゴーが手に入り、それを丸かじりしろなんて拾う神は何人いるんだ。
今宵は大嵐の中でのマンゴーパーティーである。

画像3



台風対策の為に雨戸も締め切った宿に戻り、真っ赤なマンゴーを両手で包み込み皮付のまま一気にかぶりつく。
太陽の雫が口一杯に広がって、口のまわりはマンゴーだらけ、かまうものか。勢いを増した2口目は果汁が一気に目に飛び散り、目にしみた。その皮膚から感じるマンゴーの糖度はいつまでも私をつかんで離さなかった。

パーラー美々のマンゴージュースが旨いのは西表島の太陽と緑の豊さ、吹く風の豊満さ、栄養が詰まった土の暖かさ、そして何より旨い大きなマンゴーを作りたいという人間のまっすぐな信念があるからだ。

さらにかぶりついた瞬間にバシッと停電になった。
懐中電灯を頼りに暗黒の中で黙々とマンゴーにかぶりつくことを止めない私の信念も負けてはいないだろう。

翌朝、パーラー美々を訪れて太陽を溶かしたようなみずみずしい黄色が輝くこの旅3杯目のマンゴージュースを飲みながら、かぶりつきマンゴーの話をした所、彼女は「皮ごと!やるねぇ!丸かじり最高でしょ?」とせっせとマンゴーを刻んでいた。
かぶりつくことのない、その刻んだマンゴーもいつか人を幸せにする時がくる。
その日のために冷凍庫でしばし息をひそめるのだ。

西表島に行くならパーラー美々のマンゴージュースを飲まずしては帰れないのである。

画像3