医者が病院を辞めた後⑩

人間の発明したものなら、人間に解けないはずはありません。

シャーロック・ホームズ 踊る人形

私が欲しいものはあなたには絶対出せない。

千と千尋の神隠し

僕は今、医業としてはわずかに仕事を趣味として行っているにすぎません。
ほとんどは、物思いに耽ったり、運動や読書や勉強や散歩をしながら、人生のパートナーである鳥と過ごしています。

今回お話しするのは、病院を辞めた後、身に起こった変化についてです。

デタラメレーダーが備わった、

です。

インセンティブをもとに作られた、中身のないサービス、お誘い、オファー、要望に対して、
敏感になったという経験についてお話しします。

知り合いのバンドマンの方がこんなことを言いました、
「ライブとなったら、ビジネスとしてやらないといけないからね」

僕の知り合いにはエンタメ界で仕事している人が何人かいますが、
ライブ、映像作品、音楽も一つのビジネスで、
一発当たれば巨額の利益が手に入るため、
どうすれば人を感動させられるのか、惹きつけられるのか、お金を出してでも手に入れたいのか、
といったことはものすごく研究されています。

なので、私たちが感動する多くの作品にも、ビジネスの要素が強くあります。
ただ、業界の方々に実際聞いた話の中を総合すると、質の低いものを作って、お金を払ってもらうように誘導しているわけではなく、一生懸命いいものを作ろうとして、広く対価を得たいそうです。(でないと生き残れないようです)

一方、病院の中で下っ端の医者は、目の前の患者の訴えに対して、医学的な知識をどう使うかを考えていればとりあえずはOKです。

となると、世の中がインセンティブによって動いていることに、控えめに言ってちょっと疎いです。
ぶっちゃけていうと、頭の中がお花畑です。

世の中には、中身なくても金だけ稼げればいいという人は山ほどいます。
医療を謳う、そういった人間が行うサービスに対して、「エビデンスがない!」などと言って、喚き散らしていますが、そんなの当たり前なんですよね。

単純な医者も、同レベルの醜い行動に出る人間が多いです。

僕は、自分の欲望をむき出しにして、フェアじゃない取引を仕掛けてくる人間たちに出会いました。

そんなデタラメ人間たちについて、紹介しましょう。

まずは、当時、私立医科大の准教授で、僕と人づてに食事をしました。今は教授です。
初対面で早々に、一緒に仕事をしようと誘われました。
医局(各大学にある組織で、よくいうと組合、悪くいうとマフィア、シンジケートみたいなもの)に属していなかったからだと思われます。
他の医局の構成員を自分の医局に引っ張ってくるのは、喧嘩を売っていることになります。
僕みたいに無所属だと問題ないわけです。

ポイントは主に以下です。
・いきなり役職のオファー(会って数分)
・自分個人のサイトに、学会発表、論文から細かい活動までありとあらゆることを載せている
・給料を聞いても答えない
・最初は、「週1回でもいいから」との話が、やがて「週2回で!」と向こうの都合のいいように変わっている
・今どんな問題があって、どんなことが必要か?僕のできることで役に立てるかだろうか?に対して、何も困っていない、君のやりたいことはなんでもやらせてあげると。
・酒が進むと、「人が足りないんだよな。。」とボソッとコメント。
・「お前は何がしたいんだ?」「何かやりたいものはないのか?」と何回も質問。

自分の意図を隠そうとして隠せておらず、僕の希望を叶えてあげる代わりに、人手として使いたいという魂胆が見え見えです。
サイトに載せている業績の数は、度が過ぎています。

要するに、このケースでのインセンティブは、人手、言い換えると他人の時間が欲しい、です。

次のケースは、不動産会社のオーナーで、病院をいくつか買収するので、その理事(理事長?院長?)になってほしいとのことでした。
がんの病院を作りたいから、精通した若手の責任者をおきたかったそうです。

ポイントは以下です。

・初対面なのに履歴書を送れとの要求。
・事業のプレゼンは一方的で、僕の立場や、意向などの質問はなかった
・数回しか会っていない人間にいきなりポストをオファーしてきた
・そのポストで、具体的に何をしてほしいのかが、全く説明がなかった
・事業のプレゼンでは、患者のためにと謳っていたが、診療報酬のシステムをデータとして取れば儲けられるとわかった、と強く主張していた

履歴書が一番引っかかりましたね。
自分より立場の下の人間として接するやり方ですよね。

確かに、医局に属さず立場が自由な人間はハマったのかもしれないですが、あって2回目ですからね。

このケースでは、自分の命令を聞いてほしい奴隷がほしいと言ったところでしょうか。
その代わりに、理事といった箔?を与えてやるということですかね。

理事とかは、名前こそ立派ですが、問題が起こった時の責任、人事の諍いなど、面倒なことがたくさん起こるのは目に見えています。
仕事の内容もわからないのも不気味でした。
おそらく金を出しているオーナーには逆らえないはずです。

最後に、人づてでお会いした精神保健福祉士の方からのオファーでした。

自分の親(医者)の持っているクリニックをたたむため、その跡地に貸しビルを建設する予定で、
テナントとして、開業するなら入ってもらえないだろうか、と言うオファーでした。

開業はしないというと、知り合いで開業する人を紹介してほしいとのことでした。

ポイントは以下です。

・まもなくビルが完成するのに、まだテナントが決まっていない。
・今後両親を収入面で安心させたいのが目的とのこと。
・テナントは立地が問題なのに、情報がない。
・とにかく誰かいないかと、完成直前にも連絡が来た。

つまり、金です。
欲しいのはわかりますが、多分焦っているのでしょう。
クリニックはテナントとしては優良です。自分の希望ばかりでした。
テナントのメリットや、入居者の事情などのやり取りがなかったです。

このように金、名声、人手が、代表的な取引材料です。
インセンティブがあっても、お互いうまくハマればWinWinになります。
相手のニースや状況などは想定せず、一方的なものは、注意すべきですよね。

僕は時間ができたので、会社の経営に時間をかけ、契約書の作成や交渉などで、徐々に学んでいきました。

やがて、医療に限らず、人間が意図を持って作ったような、プロモーション(例 クリスマスセール)、賞(モンドセレクション)などに対しても、背後に金儲けや名声を得たいなどの思惑が見えてしまい、冷めた目で見るようになりました。

一方で、
利益にならないのに、患者のために持ち出しで追加のケアを行う開業医、

新型コロナウイルス感染症の患者を自分が最初に診察する院長、

何処の馬の骨かわからなくても、意欲あれば積極的に経験や知識を教える医者、

といった人たちからは、欲望を超えた行動原理が垣間見えます。

自身にとって、利益がなかったり、不都合な行動をとる人間は、特に光って見えるようになりました。

続く