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【読書記録】虫眼とアニ眼

おすすめ度 ★★★★☆

宮崎駿と養老孟司の対談集。最初に宮崎駿のイラストがたくさんあって、ジブリ好きは見てるだけで楽しいと思う。

基本的にはおじさんが、昔を懐かしんであーだこーだ自由に喋ってる。
私は、昔は良かったとは言いたくない派なので、全部に賛同できるわけではなかった。
でも、雑談のような会話の中にちゃんと刺さる言葉があって、やっぱり面白い人たちなんだなーと思える。


対談はそれぞれ「もののけ姫」と「千と千尋の神隠し」の映画が出た頃に開かれたらしい。20年以上前か。

以下、面白かったところ抜粋。

宮崎「ぼくなんかは、けっこう批判派のつもりでやってきたけど、実はしっかり経済成長の恩恵に乗っかって、いつの間にかエアコンの中でひたっているし、車転がしてるし、もう何も言えない(笑)。ちゃっかり享受していて、どこかで批判派でいることによって、気分的に楽になっているだけだった。

確かに、あるある。何かに批判的になる時に自覚しておきたい。

宮崎「もちろん僕は下心のある人間ですから、ここで人をどきどきさせようとか、お金を稼ごうとか、あるいは名をあげようとかそういうごちゃごちゃしたものがちゃんと自分の中にあるわけですよ。その下心を満足させる作品を作るには、ここで山場を作って手に汗を握らせ、最後には正義が勝つというような映画のセオリーを踏めば、ある程度できます。
けれどもそれでは、どこかの国のテロリストと正義の味方しか知らない世界に生きている人たちを同じことになる。そういう世界観で映画を作る気はさらさらないんです。」

この対談は2001年の同時爆破テロの時期にされたものだ。
確かに最近のジブリ作品って、ムスカとかわかりやすい悪がいないもんな。

宮崎「映画見て人間が変わるくらいだったら、ヒトラーだって世界を征服していますよ。(中略)一本の映画が時代を動かすきっかけになるとしたら、すでに世の中全体がどこかへ向かおうとしている。

「異論はいっぱいあるようですよ。映画評とかを読むと、本気で殴りに行こうかと思ったりするんで(笑)それも読まないようにしたりしてます」

宮崎駿さんてもっと天才的で不遜なイメージ(偏見)があったので、ちょいちょい出てくる謙虚というか人間らしい言葉が意外だった。良い意味で、普通の人間なんだなと。

最後の養老孟司のあとがきも、ハッとさせられる。

文部省は生きる力を与える教育と言ったが、生きる力のない生き物なんて、そもそも生き物じゃない。そんな変な存在がいまの子どもだと、本気で思っているのだろうか?
現代は先が見えない時代だという。先が見える時代がそれならあったのか。(中略)
子どもが子どもでいられない。そんな変な時代はそろそろやめにすべきであろう。虫とって、アニメ見て、将来の夢を見ていれば、それで良いのである。生きる力なんて子どもははじめから持っている。それをわざわざ、ああでもない、こうでもないと、丁寧に殺しているのが、大人なのである。

こう書かれるまで、私も「先が見えない時代に、生きる力をつける教育」というワードにポジティブなイメージを持っていた。

でも、そうだよな。なんか変だよな。
先なんて見えないものだし、それを脅しみたいにしてせっつくのは嫌だ。

私も子どもたちも、もっと肩の力を抜いてのびのびやればいいのかも。
といったら、「すでにだいぶのびのびやってる方だとおもうけど」と夫のツッコミを受けた。


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