見出し画像

【読んだ】学力の経済学

おすすめ度 ★★★★☆

数年前に買った本の読み返し。やっぱり面白い、好き。
経済学者である著者が、データを元に教育を分析していくのだけど、これまで経験で語られてきた子育てや教育論とは全く違う切り口に、目からウロコがポロポロ落ちる。
文章も読みやすく、ユーモアも効いているので目からウロコを出したい人は是非読んでほしい。


この前読んだ「やりすぎ教育」と正反対の本だな、と思いながら読んだ。
「やりすぎ教育」は、現在の教育の、なんでも点数化(データ化)し、子どもを経済的商品としてみなすような考えに否定的だった。
しかし引用される文献や根拠は、ガンジーの言葉など観念的なものが多く、経験や主観が強すぎて、個人的にはイマイチに感じた。

一方の「学力の経済学」はもう、徹底してデータである。
「子どもにご褒美をあげてはいけないのか?」「どういうあげ方が効果的か?」といった内容の根拠はすべて実験データに基づいている。
実験に次ぐ実験、データに次ぐデータ。科学、明快!

残念なことに、こういったデータはほぼ全て海外のものしか無い。日本では教育を科学的に見ることに否定的な考えが強く、オープンデータ化も遅れている。

「あなたの研究は、子どもはカネやモノで釣れるということを示すためのものなのか」
「教育は数字では測れない、教育を知らない経済学者の傲慢な考えだ」

これらは、著者が共同研究を持ちかけた自治体や教育委員会、学校で実際に言われてきた言葉だ。
そういった人達が、教育の方針を決めているのが現状なのだ。

例えば、2014年に財務省が「35人学級をやめて40人学級に戻すべき」という議論がなされた。結局は少人数学級を推進する文科省が勝利し、低学年の35人学級は継続された。

私もこの時のニュースを見て「そら少人数のほうがいいやろ、財務省は何もわかってないわ」と思ったのだが、データから見ると見方が変わってくる。

要は「少人数学級はコスパが悪い」のだ。少人数学級にすると、教師の数を増やす必要がある。人件費がかかる。それに対して上げられる学力の大きさが少ないらしい。
日本の数少ない研究では、少人数学級の因果効果は、小学校の国語に限り、学級規模が1人減ると偏差値が0.1上昇することが確認されているだけだという。他の科目や中学生以上には効果がなかった。

国内外の研究蓄積を見る限り、少人数学級を積極的に推し進める理由は見当たりません。巨額の財政赤字を抱えている日本で、「少人数学級になるときめ細かい指導ができる」という根拠のない期待や思い込みで財政支出を行うのは極めて危険だと言わざるを得ないのです。

信頼できるデータも分析に基づくエビデンスもないままに、大事な施策が決められていたのかという事実にショックを覚える。
日本の官僚なにしてんねん。


こうなっちゃう原因の一つが、教育や子育てを「神聖視」することにあると思う。
教育を聖域のように捉えて、科学的に分析するとか、経済的に考えるとか、そんな下卑なことはおやめなさい。みたいな。

「やりすぎ教育」からもその気配を感じた。(ちなみに「やりすぎ教育」で指摘されてたデータは子供の成績には使われるが、分析データとしてほとんど活用されていない。宝の持ち腐れ状態にあるらしい)


経験知が不要というわけではない。
子育てしていても、保育士や教員にはいつも助けられてきた。
友人の教員にもよく相談に乗ってもらっている。
だけど、考えてみると確かにそこには「現場から得た経験」であって「客観的なデータによる根拠」はほとんどない。
その人に、ではなく、日本全体に無いのだと思う。

要は、経験知も客観的なデータも、どっちも欲しいのだ。
他の分野にだってあるじゃん、職人の技と最先端技術を組み合わせた伝統工芸とかさ。
そういう感じで、現場の経験もデータ分析も、両面から補完しあって、より良い教育施策、できませんか?
やってくれー!

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?