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【毎週ショートショートnote(響く礼節をペンペンしてみる)】[ 前座は最後に想いを奏 ]

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うん、なんだか未知なる挑戦って、楽しいかも〜😄


画像:ありなか本舗/illustAC


[ 前座は最後に想いを奏 ]

”ぺんぺん”という楽器をご存じだろうか。
 日本の伝統的楽器”三味線”の別名である。
 ナズナをぺんぺん草と呼ぶのは、実が三味線のバチの形に似ているからで、三味線草と呼ぶこともあるそうだ。
 それにあやかり、我が津軽三味線同好会のトレードマークはぺんぺん草が採用されている。
 因みに、ぺんぺん草の花言葉は「あなたに私のすべてを捧げる」だ。

 僕は高校三年生。後輩たちの前で同好会の一員として、三味線を演奏するのは今日が最後だ。
 ラストステージは我が校の夏フェス。
 僕は舞台袖から、ステージの中央に置かれた椅子に向かって歩く。
 もちろん、手には三年間愛用してきた三味線とバチを持っている。
 高校に入った時に、親が新調してくれたものだ。

 このステージには軽音部やミュージカル部なども上がるので、観客は多い。
 トップバッターに選ばれた僕は、それらの前座のような存在だ。
 当然、僕の登場に会場は殆ど盛り上がっていない。
 いや、一部だけ盛り上がっている場所がある。
 後輩たちだ。
 あの子たちのために、僕はここで三味線を演奏する。

 ステージの中央、椅子に座る前に、客席に向かって深々とお辞儀をする。
 礼節を重んじる同好会の演奏前の伝統だ。
 お辞儀が終わると同時に拍手をしていた後輩たちの手が止まる。
 無言で演奏を聴く、これも同好会の礼節になっている。
 僕は、静かに椅子に座り、三味線を構え、ゆっくりと息を吐く。
 次に、息を鼻から大きく吸い込み、少し溜めてから、一気に吐き出す!

「ハッ!!」

 場の空気を一瞬で変える掛け声。
 半拍おいて弦をバチで叩く!
 力強い三味線の音。
 静まり返った会場に、”ぺんぺんぺん”と三味線の音だけが鳴り響いている。
 奏でているのは僕だ。
 会場が、僕の奏でる三味線の音だけに包まれる。
 この感覚が、たまらなく好きだ。

 やがて、一曲だけの僕の演奏は終わった。
 ステージ横から、そそくさと会場をあとにする。
 もう、僕が参加できる音楽はそこにはないから。
 三味線をしまっていると後輩たちが集まって来た。
 礼節を重んじる同好会は、会員に出会ったら上下関係なく頭を下げる。
 話し始めるのはその後だ。

「感動しました!」
「心に響きましたー!」

 後輩たちが喜んでくれている。
 後輩たちが響いてくれたのなら、それだけでいい。
 僕はさっきのステージで、後輩たちに僕のすべてを捧げた。
 あとは、それを後世へと繋いでくれ。
 僕は、後輩たちの輪の中に入り、この上ない幸せを噛み締めた。


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