見出し画像

ポストコロナにおける都市・地域の展望

都市・地域に求められる変革、これからの社会デザイン
〜両社ワーキングメンバーによる研究と提言〜

2021年2月18日、日建設計とパシフィックコンサルタンツは共催イベント「ポストコロナにおける都市・地域の展望」を開催しました。
渋谷駅周辺など東京都心部の「駅まち一体開発(TOD)」で、都市が抱える課題解決に共に従事してきた2社が、「都市・地域に求められる変革、これからの社会デザイン」と題し、研究と提言を行いました。これは、両社の若手・中堅社員がポストコロナの都市像について昨年夏に意見交換会を行い、その後、混成ワーキングチームにて活動を行ってきたものです。
ここでは、建築・都市・社会基盤などの専門領域を超え、さらにエネルギーやスマート化など多角的な視点で都市・地域を総合的に捉え、8つのテーマについて行われた発表の概要をご紹介します。

01 都市の魅力再考——まちの個性を活かした自律分散型の都市構造へ

コロナ禍での生活変化に関する国の調査結果から、都心での活動が減少し、自宅周辺での活動が増加していることがわかりました。場所の選択性が向上し、公園や広場など、身近な屋外パブリックスペースの利用ニーズが高まっています。
また、仕事上のコミュニケーションでオンラインが増加した反面、リアルな人とのつながりを望む割合が多く、人や機能、情報が集積する都市の魅力は普遍的であると分析しました。
そこで提案するのが「まちの個性を活かした自律分散型の都市構造」です。都心にすべてのものが集積するのではなく、周辺に自律分散化し、それぞれが個性をもったまちとなることです。
そのためには、既存のアセットやインフラを生かし、可変性、柔軟性、多様性、選択性、持続性を備えた新たな集積をマネジメントする必要性があります。過密になりすぎず、資源、施設、サービスをマネジメントして最適化すること。そうした「生活圏の集合体が今後の都市をつくる」と考えています。

01_都市の魅力再考

図1:まちの個性を活かした自律分散型の都市構造

02 働き方・住み方——“人中心のニューノーマル”を支える3つの拠点へ

「人が中心のニューノーマル」をキーワードに、これからの働き方・住み方への展望を考えました。
まず、民間の統計データを利用し、コロナ禍での都心と郊外の人の動きを比較したところ、都心2駅周辺(丸の内・新宿)は35%減、郊外2駅周辺(橋本・立川)は12%減という結果でした。
また、コロナ収束後のテレワークに関するアンケート調査では、7割がテレワークを拡大・維持し、サテライトオフィスなども利用したいという実態がありました。
それらの調査から、働き方は空間共有と遠隔のハイブリッドとなり、ライフスタイルに合わせ、拠点を使い分けていくと予測しました。そこから「都心」「郊外」と「その間に位置する最寄りの拠点」の3つに分類し、以下のような将来像を描きました。
1)都心:よりオープンに、クリエイティブなコミュニケーションができる場として進化。オフィス機能に特化しすぎず、居住環境もよりよくしていく。
2)郊外:自宅内部や、共用部などで働く場所を整備していく。
3)最寄り拠点:自宅ではできない人との交流ができる施設を、都心と郊外の間に整備していく。

02_働き方・住み方

図2:“人中心のニューノーマル”を支える3つの拠点

03 パブリックスペース——「生活目線」で「自分ゴト」として使いこなす空間へ

コロナ禍において、まちなかにはゆったりと過ごす屋外空間がより必要であることが顕在化してきました。そこで都市でのQOLを高めるパブリックスペースの可能性を考えます。
空間・主体・時間の3つのフレキシビリティを高めたらどうなるか―。駅前空間を対象に以下のように描きました。

1) 空間のフレキシビリティ:土地がもつ価値を最大限に生かす
駅前広場を立体化して上空を利用したり、公民連携で目抜き通りの歩道を解放したりするなど、空間利用の多様性が高まります。

03_パブリックスペース (1_差替え)

図3:実現方法①「空間のフレキシビリティ」

2) 主体のフレキシビリティ:地域とつくる、管理する、運営する
駅前の目抜き通りに面した店舗の路面利用を可能にすると同時に、運営や管理も行うことで、利用の柔軟性と維持管理の効率性を高めることができます。

03_パブリックスペース (2_差替え)

図4:実現方法②「主体のフレキシビリティ」

3) 時間のフレキシビリティ:必要なときに、必要なだけ使う
さらにラッシュアワーはモビリティ中心、休日は公園として道路を利用するなど、時間帯に応じた空間利用、つまりタイムシェアで、より豊かなパブリックスペースを生み出します。

03_パブリックスペース (3_差替え)

図5:実現方法③「時間のフレキシビリティ」

04 移動・モビリティ——多様な連携による「モビリティ・エコシステム」へ

日本では、コロナ禍前の2018年の時点で、人の移動が10年前に比べて10%減少し、モノの移動は1.5倍になっている調査結果があります。IoTやDX化が人の行動や物流に変化をもたらす一方で、民間の意識調査によると人々の外出意欲は高く、心身の健康のためにも移動はなくならないと考えられます。
そのような社会の動きに伴い、今後のモビリティはMaaS(Mobility-as-a-Service)がより浸透し、異業種連携によりサービスが深化していくと予測しました。
その時、モビリティは、どう進化するのか―。
サブスクリプション化された「進化する定期券」が誕生することで、移動以外にもさまざまなサービスを提供し、新たな移動を創出する可能性が考えられます。それに伴い、移動だけではなく飲食や医療など多目的化した車両が登場したり、それと同時に、交通空間が多様なニーズに対応して柔軟に変化することを想定しました。
「進化する定期券」、「車両のマルチユース」などを効率的に運用するためには、従来の移動サービスの枠を超えた多様なステークホルダーと連携し、それらを最適にマネジメントする「モビリティ・エコシステム」を生み出すことが、モビリティの進化に寄与すると考えました。

04_移動・モビリティ

図6:モビリティ・エコシステムの仕組み

05 防災・リスク管理——災害リスクと共生し、レジリエントで価値創造できる都市へ

大きな災害リスクを抱える日本の都市は、どのような方向性を目指すのでしょうか。
日本の大都市は災害リスクの高い地域に分布しています。さらに、世界経済フォーラムの調査結果から、気候変動による災害の激甚化など環境要因に加え、感染症など社会的要因などによりリスクが複合化している実態があります。
そこで、さまざまなリスクがあることを前提に、災害をいなし、共生していくことで、レジリエントで価値を創造できる都市になるのではないかと考えました。

05_防災・リスク管理

図7:コンセプト「災害をいなし、共生する街」

具体的には、都市、街区、拠点・施設、地域コミュニティの4スケール毎の構想を描きました。

1) 都市のレジリエンシー向上:防災を考慮した立地の適正化やインフラの整備、アプリを活用した災害情報の提供・避難誘導など多角的な視点でビッグデータを活用した新たな手法の提案。
2) スマートインフラマネジメント:都市のデータを一元的に管理することで、インフラや施設の適切な予測保全・維持管理に有効活用し、安全安心な街区を形成。
3) スペースのマルチユース化:平常時の賑わい空間を、非常時には避難場所や医療施設に転用するなど、状況に応じて可変性をもつ空間の提案。
4)地域コミュニティの防災力向上:平常時からの防災意識の啓発に向けたワークショップや多様な産業創出などを図るコミュニティ形成の支援。

さらに、近年の災害を踏まえた「Build Back Better(よりよい復興)」をキーワードに、日本の防災・復興の知見をロールモデル化し、海外への技術提供の可能性を考えました。

06 環境・エネルギー——エコオリエンテッドで選ばれる都市へ

コロナによる生活の変化は、都市のエネルギー最適化やグリーンリカバリーのきっかけと捉えることができます。
コロナによる在宅勤務の増加により、自宅のエネルギー消費が変化しました。緊急事態宣言直後の4月は築年数の古い住宅のエネルギー消費量が高いものの、冷房が必要な夏期では、新築の環境住宅の方が、エネルギー消費量が多いという結果がありました。
一方で、現在の新築住宅は既存ストックに対して延床面積でたったの2%のようです。都市全体の環境性能を高めるためには、建築物だけでなく都市インフラの新陳代謝も着目する必要があると考えました。
そこで、需要側のHuman Activityと供給側のUrban Planningの両面から、新しいライフスタイルに合わせたエネルギー利用の最適化を考えます。

06_環境・エネルギー

図8:エネルギーマネジメントの必要性

エネルギー利用の最適化のための具体的な提案は以下の2つです。
1) 個人の行動変容を促す環境整備
環境性能の高い都市や建物に誘導するためのインセンティブを与えるなど社会的な取り組みや、画一的な環境調整ではなく人の行動に合わせるなどの技術向上が必要です。
2) 官民一体で地域のエネルギーマネジメント
地域間での電力融通など、複数事業者のノウハウ・技術、自治体の公共インフラ・スペースを活用しながら、貯める機能(蓄電池・蓄熱)と配る機能 (ネットワーク)を最適化 することが求められています。

国内では2050年に向けたカーボンニュートラルが加速し、世界的にも環境性能の高い都市が求められています。都市間競争も高まる中、需要側と供給側の両者による取り組みで、「エコオリエンテッドで選ばれる都市」を目指すことを考えました。

07 スマート・デジタル——都市マネジメントによる適密の「Hiking City」へ

携帯電話の位置情報などで、人の動きがより詳細にデータ化され、可視化される現代。こうした情報技術を、エネルギーや空間の利用、インフラの維持管理まで最大限に有効活用する提案です。
ここで掲げるまちづくりのコンセプトは「Hiking City(ハイキング・シティ)」。これは、これまでの都市を局所的な目的地に向けて限られたルートを進む「Climbing(登山)」に例え、それとは対比的な、ユーザーにとって空間利用の選択性が高い都市「適密都市」を目指すものです。

07_スマート・デジタル

図9:適密都市「Hiking City」

都市から得られるビッグデータを利用し、より快適に過ごすための都市サービスの創発を目指します。具体的には、パブリックスペースの柔軟な活用、道路空間のタイムシェアやマルチユース、移動を楽しみ回遊性を高める情報提供などを行う都市像を描きました。
将来的には3D都市モデルを活用し、データの共有・統合化や都市サービスの全体最適化を図ることで“適密都市”の形成を進めます。また、地下にあるインフラ情報も3D都市モデルに加えていくことで、都市を包括的にマネジメントしていくことも考えました。

08 新しい都市の担い手——地域マネジメントプラットフォームの構築へ

「自律分散型の都市構造を実現する担い手」とは、どのような存在なのでしょうか―。
その結論は「地域マネジメントプラットフォーム」であると考えました。これは、地域固有の遊休資産などを利用しながら経済を回していく、サステナブルな地域運営を行う基盤組織です。その組織づくりにあたっては、官民連携によりさまざまな境界を取り払い、有機的にマネジメントしていくことが求められると考えます。
さらに、組織だけではなく、都市に関わるさまざまなデータも官民の枠を超えて共有し、そこから最適解を検証する主体とプロセスも重要です。
多くのステークホルダーの連携によって都市の新たな担い手となる「地域マネジメントプラットフォーム」は成立し、それぞれの役割を担うプレーヤーが、個々のまちを個性的で魅力的にしていくことで、自律分散型の個性あるまちが実現していくと考えました。

08_新しい都市の担い手

図10:地域マネジメントプラットフォーム

以上のように、コロナによる生活の変化をひとつの契機とし、都市と地域、都心と郊外といったこれまでの枠組みを再考した結果、自律分散型の魅力ある都市というひとつの方向性が導かれました。それを実現していくための具体的な方法論・試論を提言としてまとめました。

日建設計・パシフィックコンサルタンツの各社ホームページでは、この提言を踏まえた両社社長の対談記事・動画を掲載しています。ご興味があれば、是非、こちらもご覧ください

[ワーキングメンバー]
日建設計

01 伊藤雅人、柄澤薫冬/02 平下貴博、和田雅人/03 仁井谷健、黄ジュン儀/04 鈴木一樹、金智華/05 吉田雄史、馬場由佳/06 堤遼、山田一樹/07 吉本憲生、姜忍耐/08 横瀬元彦
パシフィックコンサルタンツ
01 松本雅俊/02 岩田糧/03 佐々木涼子、三井亨保/04 渡邉健、田鶴彩/05 中川考介、アルベスルーカス/06 長谷川美佳、池本玄/07 坂井健一、河野健/08 中川貴裕、久野恭平

図1~図10 作成:日建設計・パシフィックコンサルタンツ



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?