オフィスでの「プチ休憩」を促すには?
三浦 梨紗
日建設計総合研究所 都市部門
主任研究員
これまでの取り組み
2021年から2022年に、私たちは『オフィスで野菜を育てると会社に来たくなる従業員が増えるのではないか?』という仮説のもとで、コロナ禍で課題となっていたコミュニケーションの誘発、オフィスという空間に対するエンゲージメントへの影響について調査しました。その結果、野菜を育てることが、意欲向上や行動変容に繋がる可能性を示唆しました。
今回は、オフィスのエンゲージメント向上につながる手段として新たに「プチ休憩」に着目し、その効果・行動変容について調査しました。
そもそもオフィスや周辺での「休憩」とは?
既往研究の包括的なレビュー論文(注1)では、仕事中の休憩(Work brakes)と従業員の幸福・パフォーマンスとの関連が体系的に整理されており、以下のように、休憩を効果的にとることの重要性が報告されています。
休憩を楽しむことで幸福感への悪影響が軽減される
自主的に始めたMicrobreak(短時間の休憩)は健康状態にプラス
社会的休憩(上司・同僚との会話)を強制すると心理的健康を損なう
Microbreakによる効果は、雇用主の介入により引き出すことが可能
そこで、私たちは、オフィスにおける「プチ休憩」の内容を、次のとおり分類し、それぞれの目的に合った場所や行動を社内アンケートで調査しました。
その結果 、図2、図3のように休憩の種類によって求められる空間や行動が異なることがわかりました。この他にも、建築学や不動産関連、経営学関連の論文などを調べてみると、「野菜を育てる」こと(私たちの既往研究でも実践)や、「ペットと触れ合う」「オープンキッチンで料理を楽しむ」というような様々な行動がオフィスでも取り入れられ、様々なポジティブな効果があることが報告されています。
当然ながら従業員の個人特性や業務内容、タイミングによって、オフィスでどのような休憩をしたいのかは異なることが想定されます。そのため、単に休憩のためのスペースをオフィスに作ればよいということではなく、従業員がどのように働き、どのように休憩するのか、ということを考えてオフィス空間や採り入れるサービスをデザインすることが重要であると考えます。
また、代替機能がオフィス外にある場合には、オフィス内にすべての機能を備えることだけに捉われず、近隣への外出も許容することによって補完し、従業員の生産性を上げてもらうなど、柔軟な考えも必要であると考えます。
休憩がとりにくい状況とは?
それでは、休憩するためのスペースやサービスさえ整えば、従業員がきちんと休憩をして生産性向上につながるかというと、そう簡単な話ではなさそうです。
オフィスワーカーの過半数が、思い込みと考えられる「幻の周囲の目」を気にして休憩を控える「休憩忖度」の状態にあるという調査結果もあります。特に休憩を取らない経営層・上司の存在が休憩のとりにくさに影響するというアンケート回答も多いです(注2)。
さらに、「組織風土」が休憩行動や意識と強く関連しているという研究もあり(注3)、「すべての組織に効果的な休憩スペースのデザインやサービスについてただ一つの答えはない」ということが言えます。
プチ休憩を促すためのヒントとは?
私たちは今回、MESHというプロダクト(注4)とLINEを使い、従業員に休憩を促す仕組みを作ってみました。(図4,図5)
【実験概要】
オフィス内の通路部分(コピーをしたり、ゴミ箱に行ったり、会議スペースに行く途中にほぼ必ず通る動線上)にMESHの人感センサーとiPadを設置し、人が通ると音声で通知します。
立ち止まってMESHのボタンを押すとLINE botから休憩を促すメッセージが届きます。
答えていくと具体的な休憩行動について簡単なアドバイスをしてくれます。
【実験結果】
昼食後、15時台、17時台の利用が多く、作業の切れ目・打合せ等前後など一定のタイミングでの利用が見られました。
LINE botにおいて、人の休憩履歴が見られることは、休憩行動を促す可能性が示されました。(休憩忖度の減少)
今回、オフィスに「変化」をつけるものとして「パズル」を設置したところ、「パズルの進捗状況を確認しながら休憩する」といった行動も見られました。
今回の実験では、行動変容を促すきっかけづくりに特化したため、アドバイスシナリオなどが少し物足りないという声もありました。様々なシナリオを考えつつ、持続的に必要な「プチ休憩」のネタを提供するサービス等のニーズは、今後高まるかもしれません。
オフィス内の環境やその周辺環境において、従業員が効率的・効果的な休憩を取得することは、幸福度や生産性に直結しますので、今後の企業経営の観点からも、重要な要素になると考えています。
今後も、より良いオフィス環境の創造と運営に関して、様々な使い方に柔軟に変化できるよう、ハード面・ソフト面の両面から定性的・定量的な評価・分析を進めて発信・ご提案していきたいと考えています。
さらに、一緒に実験や什器導入を進めたいという皆さまとの協働にも積極的に取り組んでいますので、ご興味ありましたらぜひご連絡をお願いいたします。
本研究の主要メンバーはこの3人です
三浦 梨紗(執筆者)
日建設計総合研究所 都市部門
主任研究員
学校や給食センター等、官民連携事業支援業務に従事。
自主研究では、オフィスの使い方、運営がデザインや経営に及ぼす影響について実験・分析を進めています。
大平 達也
日建設計総合研究所 環境部門
研究員
専門はエネルギーマネジメント、省エネルギー事業化支援。
建築の環境・エネルギーを対象とした業務に携わっています。
河野 匡志
日建設計総合研究所 環境部門
執行役員
カーボンニュートラル化に向けた様々なニーズに対して、ビジョン策定、データ分析・評価、可視化など、社内外の知見を活かしながら、新たなアイデア等も添えながら業務を進めています。
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