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コロナが契機の環境親話 ~第2編 働く場所が変わるとエネルギーはどう変わるのか~

山田 一樹 
日建設計総合研究所 環境部門
主任研究員

STAY HOMEはエネルギー需要を変えるのか?

Withコロナの現状では、新型コロナウイルス感染拡大防止を図るために多くの方がSTAY HOMEを実施しています。在宅勤務を実施する企業も増え、今やWEB会議が当たり前になりつつあります。以前は仕事をするためにオフィスに移動することが普通でしたが、今はIT環境の充実などにより自宅から動かずに仕事をすることが定着してきました。テレワークにより住居や住居近いオフィスで働く生活スタイルは、エネルギー需要にどのような変化を与え、私たちはそれにどう対応すべきかを考えたいと思います。

在宅勤務で自宅のエネルギー消費が1.6倍に!

私は4、5月と2カ月間、在宅勤務を継続する中で送られてきた水道光熱費の請求書に愕然としました。共働きで平日の日中は誰も自宅にいない環境が一変し、毎日家族全員が自宅で生活していたので当然ですが、エネルギー量が大きく増えました。人の行動の変化がエネルギー消費量に反映されることが改めて理解できました。また、同じ家族構成の同僚の家庭のエネルギー消費量と比較(図1)をすると、環境に配慮した新しい家と築40年以上経つ古い家での変化率の違いがあることも確認できました。
住宅で省エネルギーを推進するためには、省エネルギーを意識した行動に加えて、断熱性能向上による熱ロスの低減や機器の効率向上を図ることの効果が大きいことがわかります。
一方、日本の住宅事情に視線を転じると住宅のストックが57億39百万㎡※1に対し、新築住宅の延床面積は約76百万㎡/年※2ですから、環境性能の高い住宅への更新率は多く見積もっても約1%強です。
この結果からも、今後も在宅勤務が併用される状況が続くとすれば、既に建っているストック住宅への環境対策を促進し、就業の場ともなる「住宅」を環境住宅に変えていくことが、環境共生社会の実現のためには避けて通れないと考えられます。
※1:国土交通省 建築物ストック統計の公表について【推計値】(平成30年1月1日現在)
※2:国土交通省 平成30年度 住宅経済関連データ 平成30年 着工新設住宅の床面積の推移

図1在宅勤務中の住宅のエネルギー変化+

図1:在宅勤務中の住宅のエネルギー変化

省エネルギーのためにはオフィスで働くべきか?

エネルギーの面で働く場所を考えると、働く場所と移動のトータルでエネルギー効率が良い場所で働くこと望まれます。働く場所が住宅となった場合、移動によるエネルギーは少なくなることや、太陽光発電パネルを屋根に載せることで再生可能エネルギーの利用を高めることが可能となり、エネルギーが下がる可能性もあります。しかし、住宅に対する省エネルギー化の規制が厳しくないこともあり、家のエネルギー効率を高めるための環境への投資が進むには時間がかかるため、現状ではエネルギーが増える可能性もあります。
一方、オフィスについては働く場所としての環境、省エネ法による規制や支援もあり、既に大規模建物や環境性を意識した自社ビルなど省エネルギーへの投資や環境対策も進められてきています。また都心部のようにオフィスや商業、ホテルなど様々な用途が集積するエリアでは、電気だけでなく空調に必要な熱エネルギーの集約化も可能なため、地域冷暖房施設から街区全体にエネルギーを効率的に供給していることも行われているなど、エネルギー効率が高いという見方もできます。しかし、太陽光発電などの再生可能エネルギー量を増やすには限界があります。
働く場所と移動トータルでエネルギー効率を高めるためには、住宅とオフィスの双方のメリットを活かせる働く場所が求められると考えます。

職住近接のメリットを活かすエネルギーネットワーク

働く場所と移動のエネルギーバランスを考慮すると、都心に集中していたオフィスが郊外に分散され、職住近接の分散型都市に変化していくとバランスがとれると考えました。働く場所の変化に伴い、様々な場所で使われるエネルギー消費量が変化をして、国全体のエネルギー消費を減らすことは可能だと思います。この実現には、個人の行動変容と都市の作り方の両面が大切と考えています。
個人の行動の観点では、活動とエネルギー消費の関係を簡便に意識できる仕組みも必要と考えています。例えば、スマートフォンにある万歩計アプリのように、意識せずに移動した交通手段や建物でのエネルギーが情報として収集され、一人ひとりの消費エネルギーがスマートフォンに蓄積される、省エネ行動に対して何がしかのベネフィットが付与される等が仕組み化されると、普段気にしていなかった働く場所、移動する手段への関心は高まると思います。
図2 移動や生活に伴うエネルギーデータの見える化

図2:移動や生活に伴うエネルギーデータの見える化

一方、都市のエネルギーネットワークの仕組みはどう変わるかを考えてみたいと思います。図3のように、地域の拠点の中心には高密度なオフィス等が立ち並び、その周辺地域に住宅が広がる都市を作ることも考えられます。そうすると、働く場所や移動のエネルギーバランスが良くなる利点だけでなく、再生可能エネルギーの設置スペースの課題解決や地産地消で電気を消費できる利点が生まれます。

図3まち全体でのエネルギーネットワークイメージ図+

図3:まち全体でのエネルギーネットワークイメージ

再生可能エネルギーは、電気だけでなく熱エネルギーも上手く活用することで、化石燃料によるエネルギー依存度を低く抑えることも可能となります。
日建設計総合研究所がエネルギーシステムの立案に協力した「Sport & Do Resort リソルの森」のように、エリア内で電気と熱のネットワークを作り、再生可能エネルギー比率を高める取り組みも進んでいます。
ここでは、発電した電力を近くの施設で消費すると共に、発電が余剰となる時間では太陽光発電システムと蓄電池を協調制御することで安定した電力の需給バランスを保っています。
また、太陽熱による給湯だけでなく、貯湯型の給湯で発電量の多い時間帯に熱を作るなど、電気と熱のエネルギーバランスも調整し、再生可能エネルギー比率を高める取り組みを進めています。

エネルギーの地産地消
本取り組みは新型コロナウイルス対策として実施した事例ではありません。詳細は上記事例をご参照ください。

図4 「リソル生命の森」でのエネルギーネットワークのイメージ図

図4:「Sport & Do Resort リソルの森」でのエネルギーネットワークのイメージ

このように、コロナによる行動変容や都市の変化に伴い、エネルギーや地球環境は大きく変化をすると思います。個人レベルでは生活でかかるエネルギーに対する関心の向上、都市レベルではエネルギーネットワークの仕組みを緩やかに進化・発展させることが必要と考えます。これからも身近なことから一歩ずつ環境問題に取り組み、持続可能な地球の未来を目指して皆さんと共に取り組んでいけたらと思います。


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山田 一樹 
日建設計総合研究所 環境部門
主任研究員
空調設備の最適化制御、大規模ビルの運用最適化などの業務を経て、長崎県庁などコミッショニング業務に取り組む。

TOP画像:michal parzuchowski/ Unsplash 加工
図3:日建設計総合研究所 著者:山村真司 スマートシティはどうつくる? 2015年1月23日
図4:リソルホールディングス 2020年3月31日NEWS RELEASE事業全体のイメージ(当初計画)



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