見出し画像

TOD型都市開発手法の環境価値向上と環境負荷低減効果の評価システム開発

ビタノバ リディア
日建設計総合研究所 研究員

共同研究者
山村 真司:日建設計総合研究所
日下 博幸、ドアン グアンヴァン:筑波大学計算科学研究センター 

日建設計総合研究所(NSRI)では、社会課題解決のために自主的・戦略的に研究を行うことが出来る仕組み『自主研究』に取り組んでいます。
その自主研究の中からピックアップしてご紹介する第3弾です。興味がある、協働したい、という方からのご連絡をお待ちしております。

TOD型開発と都市環境についての検討

公共交通指向型開発(Transit-oriented Development:TOD)は、過密化する都市域において生活の利便性と質の向上のために、自動車交通の抑制と集約的な都市構造を実現するための開発手法です。鉄道駅等の公共交通拠点を中心に、コンパクトで効率的な土地利用による都市環境改善や低炭素化が期待されています。しかし、TOD型開発の実態と都市環境との関係については、まだ十分な調査が行われていません。
本研究では、首都圏高密集地、及び多様な人口密度と都市構造をもつ郊外地域を接続する、つくばエクスプレス(TX)沿線の都市開発前後における地域温熱環境の変化を、数値モデルを用いて検討しました。

TX沿線を対象とした気候シミュレーションの実施

対象地域として、都市の密集度合いや土地利用の特徴を考慮して、戸建住宅街区である流山おおたかの森(mid-urban)、郊外TOD型開発柏の葉キャンパス(mid-urban)、研究学園(suburb)の3つの駅周辺地域を選びました(図1)。

図1 研究対象。以下のソースから図を修正。
Source: www.mir.co.jp/en/about_tx/

シミュレーションには、気候地域モデル(Weather Research and Forecasting:WRF)を使用しました。これは、お天気ニュースで目にする気象予測などに使われるシミュレーションモデルで、世界レベルから街区レベルまで、気候や気温等の予測が可能なモデルです。WRFによって、期間:2005年と2015年の8月6日から8日、解像度:250mメッシュにて、3つの駅周辺を含む全てのTX沿線エリアの都市気候を再現しました。
建物のエネルギー消費量と人工排熱量については、各メッシュ内に含まれる建物を抽出し、ゼンリン建物ポイントデータを用いて各建物別に設定しました。交通については、国交省のパーソントリップ調査結果等を使用し、人口排熱量を道路別・車種別に設定して、2005年と2015年の排熱量分布を作成しました(図2)。
3つの駅周辺対象市域で、特に図2の赤い円の範囲では、2005-2015年で、建物と交通による人工排熱が80 W/㎡以上増加する傾向にありました。

図2 a)流山おおたかの森、b)柏の葉キャンパス、c)研究学園駅、TX線周辺の 2005年から2015年まで人工排熱熱変化。 左右の各図は、それぞれ交通と建物から放出される排熱を示す。(対象範囲:約3.75x3.75km)

併せて、都市化の様子を可視化するため、国土交通省のデータをもとに土地利用図を作成しました(図3)。

図3 2005年と2015年のつくばエクスプレス沿線沿った土地利用の変化。桃色が都市を示し、それ以外は都市以外。

都市化による土地利用変化と気温上昇を確認

まずは都市化の様子:TX沿線の土地利用変化
2005年から2015年のTX沿線での土地利用の変化を図3に示しました。また、図4に示すように、2015年は2005年に比べて80%以上の都市化率となったことがわかります(農地・畑などが建物・道路等になった)。流山おおたかの森、柏の葉キャンパス、研究学園駅周辺など緑化の傾向や街区構造が異なるものの、いずれも顕著な土地利用変化が見られる結果となっています。
環境価値に係る緑化や街区構造の変化の傾向が、同一地区及地区同士で比較できるようになりました。

図4 a)流山おおたかの森、b)柏の葉キャンパス、c)研究学園駅、TX線周辺の土地利用の変化。

都市化による気温上昇:地表近傍の気温分布の変化
気候シミュレーションの結果、流山おおたかの森、柏の葉キャンパス、研究学園駅周辺では、TX敷設前後の都市化進捗と建物や交通による人工排熱の増加によって、2005年から2015年で、いずれの対象エリア全体で1.2℃、1.4℃、1.7℃の気温上昇が確認できました(図5の18時)。

図5 2005年から2015年までの水平温度分布(ºC)の変化。a)流山おおたかの森、b)柏の葉キャンパス、c)研究学園駅、TX線。 左から、それぞれ05、14、18時の温度分布が示されている。

精度検証
シミュレーション結果と観測値の比較を行ったところ、平均モデルバイアス(予測結果と観測結果の差異)は、2005年と2015年に各々-0.3ºC~0.1ºCに収まっており、相対比較に資する精度であることを確認しました。ただし、東京駅周辺では2005年に-1.0ºCの差異でした。

環境に優しい都市開発のためのアプローチ

この研究は、特定の領域におけるTOD型開発の効果と影響を定量的に把握するというもので、本研究で得られた成果は、先進国にも発展途上国にも応用が可能です。このシステムは、ミクロからマクロスケールまでのさまざまな分野に適用できます。 さらに、対象領域にTODを導入するシナリオと導入しないシナリオを、広域かつ総合的に比較できます(どのようなTOD型開発をするべきか、併せて取るべき環境配慮型施策も検討できます)。
今後、各都市でのデータプラットフォーム整備の動きを考慮するために、このようなアプローチは、開発・運用に伴うエネルギーと温室効果ガスを削減するためのガイドライン整備など、環境に優しい都市を開発するために重要な手法だと考えられます。

参考文献
1) 建築物エネルギー消費量調査報告【42報】、平成30年4月~31年3月)、一般社団法人 日本ビルエネルギー総合管理技術協会


ビタノバ リディア
日建設計総合研究所 研究員 
2019年日建設計総合研究所に入社。カーボンニュートラルの実現、持続可能な開発、気候変動に関連する問題を解決するための包括的なプラットフォームを開発し、スマートシティ・環境に関するプロジェクトに主に従事。APECのLow carbon model town等を担当。筑波大学大学院博士課程で博士(理学)を取得した。

共同研究者
山村 真司:日建設計総合研究所
日下 博幸、ドアン グアンヴァン:筑波大学計算科学研究センター 


この記事が参加している募集

企業のnote

with note pro

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?