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インクルーシブデザイン:すべての人とともに実現する社会環境デザイン

日建設計は、社会の価値観が多様化し変化を続ける現代において、「新たな社会課題に対応する多様な価値の創出」を目指しています。
日建設計 ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)推進宣言 | NIKKEN SEKKEI LTD
そのためには、人種、国籍、宗教、性別、年齢、身体や心の状態、性自認、性的指向などにかかわらず、多様な価値観、経験、才能、ライフスタイルを持つ人が、それぞれの能力を十分に活かし、自分らしく活動ができる社会環境が必要です。
私たちは、このような、社会環境の実現を目指し、すべての人と共に考え、デザインしていくことを進めていきます。

多様性を包括的にとらえる

写真1 日建設計PYNTでの視覚障害体験の様子

私たちが日々利用している建築や都市空間は、私だけでなく、もちろん、あなただけでもなく、私たちが想像する以上に、多様な人種、年齢、身体や心の状態、ジェンダーアイデンティティなど、あらゆる側面をもつ方々に使われています。そして、その中には未来の自分や家族、友人も含まれます。
このような多様性を建築や都市空間の中で尊重するために重要になるのが、包摂性を重視したデザインプロセスであるインクルーシブデザインです。自身が知っていることや想像できることの範囲を広げ、想像の外にいた人々と共に環境を考えることで、これまで気づかなかったニーズに目を向けることや、到達できなかったデザインを実現することができるようになります。
建築や都市空間に多様性を取り入れるためには、このプロセスを理解し、それを実践しながら、魅力的なデザイン、環境、サービスへと転化させる必要があります。

なぜ建築や都市にインクルーシブデザインが必要か?

図1 ユニバーサルデザインとインクルーシブデザイン

私たちは建築物や都市空間の中で日々を送り、様々な活動を展開しています。平日に家から学校やオフィスへと往復する際にも、駅や商業施設の利用が含まれますし、休日にはショッピングや観光でさらに多くの施設や交通機関を利用するでしょう。このような日常生活は、すべての人に公平に提供されるべきものです。そのためには、私たちが利用する建築物や都市が、誰もが自由にアクセスできる場所でなければなりません。

この目標は、SDGsの「住み続けられるまちづくり」にも関連しています。私たちは、この目標を実現するために力を尽くさなければなりません。

SDGs目標11. 包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する。

11.2 2030年までに、脆弱な立場にある人々、女性、子ども、障害者及び高 齢者のニーズに特に配慮し、公共交通機関の拡大などを通じた交通の安全性改善により、すべての人々に、安全かつ安価で容易に利用できる、持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する。
11.7 2030年までに、女性、子ども、高齢者及び障害者を含め、人々に安全で包摂的かつ利用が容易な緑地や公共スペースへの普遍的アクセスを提供する。

我々の世界を変革する:持続可能な開発のための 2030 アジェンダ p.22|外務省

誰もが利用しやすい建築や都市を構築する重要な手法として、ユニバーサルデザインが挙げられます。ユニバーサルデザインはすべての人を対象に、汎用性が高く、誰にとっても便利なデザインを目指すものです。しかし、特定のニーズを充分に満たせず、一部の方々を取り残してしまうことも少なくなくありません。想定の利用者の特性や施設の使用目的にあわせたニーズに応えつつ、完璧なユニバーサルデザインを実現することは、非常に困難です。

一方で、インクルーシブデザインは、個人の違いや特性に寄り添い、それぞれの能力や可能性を拡げることを目指したものです。そのため、市場やニーズの量を追求するのではなく、ニーズを持つ当事者にデザインパートナーとしてプロジェクトに参画をしてもらうプロセスをつくることで、これまで以上に一人一人の特性に応じたデザインを創出することが可能です。この方法により、これまで見過ごされがちだった人々へのサービス提供が可能になり、新たな発見をデザインに昇華することができます。

図2 インクルーシブデザインの取り組み方

したがってインクルーシブデザインプロセスを取り入れ、ユニバーサルデザインを堅実に進めることで、より包括的で創造的な建築や都市空間を実現することができるはずです。

奈良女子大学アドバイザリーボードメンバーであり、日本におけるインクルーシブデザインの第一人者であるジュリア・カセム氏は、

エクストリーム(周縁)の人たちを理解することでメインストリーム(主流)に革新をもたらす(「インクルーシブデザイン」という発想~排除しないプロセスのデザイン)

と述べています。これは、「排除しないプロセスのデザイン」としてのインクルーシブデザインの考え方を示しています。

また、都市デザインとアクセシビリティの専門家であるVicot Pineda氏は、インクルーシブデザインを次のように説明しています。

インクルーシブデザインとは、自分とはまったく違うであろう人々と関わることであり、それは可能性に対する想像力を豊かにしてくれます。効果は少しずつですが、インクルーシブデザインは人々を変えるとともに、ある意味では社会を変えるという点で、何倍もの効果があるのです。なぜなら、デザイナーがユーザー層を広げることにより、かつて無視されていた人々に社会が目を向けるようになったからです。(Microsoft Inclusive Design

日建設計の取り組み

日建設計のインクルーシブデザイン研究チームは、日建グループ内の建築設計・都市計画に関わる専門家や、障がい等の特性を持つ当事者で構成されています。加えて、社外の方とも協力をしながらユニバーサルデザインとインクルーシブデザインの実践を通して、「当事者とともに、すべての人のための社会環境をデザインする」ことを目指していきます。
具体的には、次の4つの取り組みを進めています。

  1. インクルージョンをサポートするポリシー、規制、ガイドライン、基準の策定と支援

  2. 事例やデータの集約と、多くのデザイナーやユーザーが利活用できる環境づくり

  3. インクルーシブデザインの理論と実践の普及

  4. インクルーシブなデザインの開発や実践

図3 日建設計インクルーシブデザイン研究チームの4つのアプローチ

建築や都市空間をより公平な参加と活動が可能な環境していくためには、デザインの様々な段階でこれまで見過ごされてきたユーザーを包括していく必要があります。私たちの取り組みは始まったばかりですが、取り組みを進めていく中での学びを広く共有していきます。様々な特性に対する障壁や悩み、その解決に向けた情報収集や試行錯誤を社会の集合知とすることで、建築や都市空間の包摂性が高まると考えるからです
建築や都市空間をデザインする多くの方々とともに、インクルーシブデザインプロセスの実践を通して、これからの建築や都市空間の進化を促進していきます。

<クレジット>
TOP:株式会社グーチョキパース

[NIKKENインクルーシブデザイン研究チーム]
日建設計:石川貴之、高野恭輔、飯田和哉、西勇、中川一晃、岩永文英、車戸高介、青谷 瑞紀
日建設計総合研究所:児玉健、岡万樹子、今枝秀二郎

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