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自律走行ロボットによる室内環境モニタリング

山村 真司、鶴見 隆太
日建設計総合研究所 
栄 千治
日建設計 設備設計グループ エネルギー・情報計画部

室内空気環境(IAQ)はワーカーの健康・パフォーマンスに影響

With COVID-19環境下において、いままで以上に室内の空気が人の健康に与える影響に関心が高まっています。テレビなどのメディアではスーパーコンピューター使った飛沫のCFDシミュレーションや、トレーサーガスを用いた換気の可視化実験の様子などが連日報道されています。

室内の空気の環境はIAQ(Indoor Air Quality)ともよばれ、COVID-19の流行以前から人の健康に与える影響が指摘されていました。WHOによると、低中所得の国を中心に毎年380万人が、室内での調理や暖房などの燃焼による、空気の汚染が原因で早期の死亡に繋がっていると報告されています(出典1)。

IAQの重要性は上記のような極端な場合だけではありません。ハーバード大学の研究によると(出典2)、室内の二酸化炭素(CO2)や揮発性有機化合物(VOC)の濃度が低い良好なIAQのオフィスの場合、ワーカーの知的生産性が大幅に向上するという結果を公表しています。

また筆者らも(出典3)、メタアナリシス(※注) という手法を用いて、室の換気量を増やすことで知的生産性の指標のひとつである計算テストの回答スピードが有意に向上することを確認しました。

注:メタアナリシスとは、同じテーマに対して過去に発表された複数の研究結果を統合して、より信頼性の高いエビデンスを構築する研究手法のことで、主に医学の分野で広く活用されています。

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図1 換気量の増加により計算テストのスピードが有意に向上(出典3)

このように、IAQはオフィスなどで働くワーカーの健康や知的生産性の向上にとって重要な指標 であるといえます。

室内空気環境(IAQ)のモニタリング手法

近年安価なセンサやIoT機器が普及して、IAQのモニタリングが広がりつつあります。この場合、センサをオフィスの中に多数配置するという方法がとられることが比較的多く、実際に弊社のオフィスでも約550m2のフロアに対して、約40個の IoTセンサーを用いて室内空気環境や、約30個のサーモパイル型人感センサーを用いて人員密度のモニタリング をおこなっています。

もう一つの方法として、自律走行のロボットにIoTセンサを設置して、センサが自由に室内を移動しこれらを計測する方法もあり、ここ数年大きく注目されています。例えば世界的に有名な論文誌である Building and Environment の2018年のベストペーパーアワードではロボットを用いて室内環境をモニタリングする手法が受賞しています(出典4)。

日建設計と日建設計総合研究所では、リベラ株式会社(出典5)と共同で自律移動ロボットによる室内環境モニタリング手法の開発を行い、実証実験をおこなっています。

動画1 ロボットを用いたオフィス内実測の様子

◆開発したロボットのモニタリングの機能
・温湿度
・平均表面温度(出典6)
・照度
・CO2
・PM2.5
・サーモカメラ
・LiDAR カメラ(画像やレーザー光の認識技術を用いてマスク着用・密状態を検知)

ロボットは、IAQセンサだけでなく、COVID-19感染対策機能も新たに搭載しています。サーモカメラによる体表面温度の検知機能や、LiDARカメラによるマスク着用の有無・人の密集度の検知などを行うことができます。

動画2 LiDARカメラによるマスク・人の密集度の検知の様子

自律移動をするロボットには市販のtemi(出典7)を用い、開発者向けに公開されているソフトウェア開発キット(SDK)を用いて位置情報を取得して、搭載しているIAQセンサと同期しています。

室内空気環境(IAQ)のダッシュボード

またセンサのデータは自動的にサーバーに転送されて、室内の様子を可視化できるダッシュボードをWEB上に構築しています。オフィスワーカーがサイネージや個人のスマホからいつでも室内環境を確認することが可能です。

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図2 作成した室内環境のダッシュボードの例(オフィス内の空間ごとに熱的快適性を表すPMVの他に、CO2濃度やそのエリアの人の密集度を表示)

近年、オフィスにおけるより自由な働き方として「アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)」が注目されています。ABWでは個々のワーカーが、その活動内容(高集中や対話、情報整理など)に応じて、働く場所を自由に選択するようになります。

ワーカーはそれぞれ空間内に好みがある(少し涼しい場所がいい、換気が十分できている場所がいい、静かな場所がいい等)と考えられ、このダッシュボードを確認することで、より自分にフィットする空間を容易に見つけることが可能になります。

おわりに

別稿「Smart Operation Building」でも述べたように、これからのオフィス空間では環境測定に限らず、ロボットの活用が本格化していくと考えられます。本稿ではロボットの様々な可能性のひとつとして、ユーザーの健康や知的生産性の向上の点から重要性が高まっているIAQのモニタリングの取り組みをご紹介しました。


出典1:WHO Web site
出典2:Joseph G. Allen, Piers MacNaughton, Usha Satish, Suresh Santanam, Jose Vallarino, and John D. Spengler. Associations of Cognitive Function Scores with Carbon Dioxide, Ventilation, and Volatile Organic Compound Exposures in Office Workers: A Controlled Exposure Study of Green and Conventional Office Environments Environmental Health Perspectives 124:6. 2016
出典3:東京大学・慶應義塾大学と共同実施、倉持 勇汰、鶴見 隆太、石橋 由基、 換気量が知的生産性に及ぼす影響に関するメタアナリシス。日本建築学学術講演会.2019. 879-880
出典4:Ming Jin, Shichao Liu, Stefano Schiavon, Costas Spanos, Automated mobile sensing: Towards high-granularity agile indoor environmental quality monitoring, Building and Environment, Volume 127, 2018, Pages 268-276
出典5:リベラ株式会社
出典6:佐賀大学 中大窪准教授
出典7:temi

図1:出典3を一部改編
動画2:リベラ株式会社


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山村 真司
日建設計総合研究所
理事
日建設計にて設備設計や環境配慮計画に従事後、日建設計総合研究所で都市の低炭素化やスマートシティの展開に従事。国内及びAPECをはじめとする海外の多数のスマートシティ計画・施策策定・研究開発を実施。

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鶴見 隆太
日建設計総合研究所 環境部門
研究員
2017年日建設計総合研究所に入社。建物の低炭素化やエネルギーマネジメントに関するプロジェクトに主に従事。さんちかのAIスマート空調や、APECのLow carbon model town等を担当。大学院博士課程にも在学し人工衛星の技術を建築に応用する方法についても研究中。

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栄 千治
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ
エネルギー・情報計画部 ダイレクター
日建設計にて電気設備や情報通信設備の設計に従事。大規模開発プロジェクトや複数の建物で構成される街区のスマートシティやスマートエネルギーネットワークのコンサルティングを展開。また建物内における自律移動型ロボットを開発中。



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