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天気がいい日に行きたいオフィス

青柳 光、稲本 佳奈
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ

はじめに ~ウィズコロナの一年間~

コロナウイルス感染拡大対策の一環としてリモートワークが定着し、働く場所を選べる環境がこの一年で整いました。アフターコロナの日常では、毎朝気軽にその日の働く場所を決める人も増えるのではないでしょうか。在宅勤務でも働くことができるという実感を手にした世の中で、オフィスに行く理由とは何でしょうか。

例えば、「今日は天気もいいし、いいアイデアが生まれそう!そうだ、オフィスに行こう!」
オフィスがそんなポジティブなワーカーの集まる場所になればいいなと考え、半屋外型オフィスでの働き方を想像してみました。

働く場所の多様化

現在の働く場所の選択肢はオフィス以外にも在宅勤務、シェアオフィスなど多様化していますが、それぞれのメリットについて考えてみます。

在宅勤務は、ウィズコロナではコロナウイルスの感染拡大防止の目的が大きいですが、アフターコロナでは通勤時間の短縮によって、育児や介護など家庭での時間を増やすことができるという利点があります。

シェアオフィスは、駅近にあるため、会社や出先、自宅のそれぞれへの移動時間の短縮はもちろん、自宅よりもパブリックな場所で作業に集中することができます。

ではオフィスでしか得られない価値とは何でしょうか。その一つは社内の人との偶発的なコミュニケーションだと思います。打ち合わせの合間に雑談をしたり、ふと話し始めた仕事の話が思わぬ方向に盛り上がったり、その場の空間を共有しているからこそ生まれる会話があります。そのような豊かな空間の共有から生まれるコミュニケーションの場としてのオフィスが今後は求められるのかもしれません。

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図1:オフィスに求められる価値

半屋外のオフィスをつくる

一方で、これからは働く場所の広がりと反比例してオフィスの人員密度が低くなることが予想されます。これまでのオフィス面積の考え方を変えて、一部を半屋外化し、自然を感じる豊かな空間をつくることもできるようになるのではないかと思います。

“働ける半屋外(バルコニー)”を実現するには、“快適“な環境を再定義することが必要です。これまでの建物設計の考え方では、半屋外空間は温熱環境や光環境を制御することが難しく、屋内よりも屋外に近い環境のため、1年間の中で利用できる期間が限られていました。そこで年間を通して均一な温熱環境を整えることにこだわらず、多少の温度や光のムラを許容することで多様な場所を作ります。具体的には従来カーテンウォールだった部分を一部開閉可能な開口部に置き換え、外壁ラインを室内側に下げて室内の一部を半屋外化します。(図2参照)

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図2:従来のオフィスから半屋外空間を持つオフィスへのアイデア

次に、図3の環境ゾーニングのイメージのように、オフィスを次の3つの環境に分けます。
“Nearlyそと”は屋外の環境を積極的に室内に取り入れ、最も半屋外を演出するゾーンとします。パッシブ制御を行い、ある程度の外乱を許容します。対して”そとOriented”は執務環境として空調・光制御を行い、アクティブ制御を行います。さらに”そとReady”を”Nearlyそと”(パッシブ)と”そとOriented”(アクティブ)の中間に位置づけ、”そとOriented”からの環境を利用しながら全体としてグラデーショナルなゾーニングを目指します。

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図3:環境ゾーニングイメージ

また、3つのゾーンの比率を1年間の季節の両方のパラメーターで変えることで空調・照明エネルギーを増やさずに、1年を通して半屋外空間を作ることができると考えています。

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図4:“Nearly そと“ 自然換気で春秋に屋外に近い屋内として

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図5 “そとOriented” アクティブ制御で夏冬に適度な空調室として

人と環境が相互に影響を与えるオフィス空間
~アフォーダンス・ナッジ~

オフィス空間全体をあえて完璧に”快適”制御しないことで、時間や季節ごとに快適を求めて移動する人が現れるでしょう。反対に少しひんやりするから体を動かしながら働くなど、場所に合わせてワークスタイルを変える人もいるかもしれません。人が環境に影響を与え、環境が人に影響を与える、そんな人と環境の相互作用が自然と生まれると考えています。生態心理学ではこの関係をアフォーダンスと呼び、行動経済学ではナッジと呼ばれ、年々期待が高まっています。建築分野においても様々な温熱・光環境をオフィスで演出することで、様々な仕掛けが期待できるのではないでしょうか。

おわりに ~建物の外と中の境目をあいまいに~

これまでは「天気がいい」ということに、昼休みに初めて気づいたり、作業に没頭するあまり気づかなかったりする日もありました。良くも悪くも外と中が完全に切り離され、外部環境に左右されずに働ける場所が整った現代ですが、建物と外の境目を曖昧にすることで、その日の気分によって屋外、半屋外、屋内等環境の取捨選択ができるような場所になればよいなと考えています。


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青柳 光
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ
2018年日建設計入社。機械設備設計に携わりながら、省エネルギーや環境配慮をキーワードに、建物の使われ方にまでアプローチする新しい建物の形を模索中。

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稲本 佳奈
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ
2019年日建設計入社。機械設備設計担当。建物が使われている姿を想像しながら快適で居心地のよい空間になる事を第一に設計を行っている。


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