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激動する世界、各国の立ち位置は……~日経記者が語る最新アジア情勢 《第28回アジアの未来》見どころ解説

2023年5月25日(木)、26日(金)の2日間に開催される第28回国際交流会議「アジアの未来」に先駆けて、参加国現地で取材にあたる日本経済新聞社の記者らによる「見どころ解説」のオンラインイベントが開催されました。

米中対立やロシアのウクライナ侵攻の長期化など、激動する世界情勢の中で、各国はどのような状況にあるのでしょうか。藤原豊秋アジア編集総局長をモデレーターに、現在アジアで取材を進める日経の駐在員などから、イベントに参加するパネリストの各国の最新情勢、パネリストの最新の状況と想定される発言など、当日の注目点を紹介しました。本記事ではその内容の一部をお届けします。

また、記事の終わりにはプロモーションコードのご案内があります。ぜひ最後までお読みください。

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■シンガポールの次期首相候補が登壇

ー佐藤シンガポール支局長 兼 クアラルンプール支局長
現状のシンガポールについて、まず解説します。今回登壇するローレンス・ウォン副首相は2022年11月、与党である人民行動党で序列2位の副書記長に昇格しました。リー首相に次ぐポジションのため、この抜擢はローレンス副首相が次期首相の最有力候補になったことを意味します。

また、リー首相は2004年から20年近く首相を務めており、2025年までに実施されると言われている総選挙を前に、首相職を返上すると考えられます。

続いて、ローレンス副首相の印象についてお話します。現在50歳のローレンス副首相は政治家一族ではなく、一般の家庭に生まれました。官僚を経て、2011年に政治家になりました。

政治家になってからは国家開発相や教育相を経て2021年、財務相に就任しました。2020年からは新型コロナウイルス対策共同責任者として手腕を発揮しました。ローレンス副首相は次世代のリーダーとして、同世代からも支持を集めています。

佐藤 史佳
シンガポール支局長 兼 クアラルンプール支局長

ー藤原アジア編集総局長
ローレンス副首相は最近、SNSにも積極的に投稿しているようですが、どのような狙いがあるのでしょうか。

ー佐藤シンガポール支局長 兼 クアラルンプール支局長
政治家一族であるリー首相のような知名度やカリスマ性がない分、今までとは異なる手法を取ると見られています。その一つが、FacebookなどのSNSで国民に親しみやすい投稿をすることで、一般家庭出身というバックグラウンドをアピールすることです。また、多様な能力を持つメンバーで集まり、補完し合う統治を目指しているとも語っています。

シンガポールは独立して50年ほど経ちますが、まだ3人の首相しかいません。今回のアジアの未来では、4人目の首相になると言われているローレンス副首相がどのような考えを持っているのか、何を語るのかを知る貴重な機会です。


藤原 豊秋
アジア編集総局長(モデレーター)

■タイの総選挙が日本企業に与える影響

井上 航介
バンコク支局

ー藤原アジア編集総局長
タイと言えば、日本の自動車メーカーが拠点にするなど、日本のビジネスや経済において重要な存在です。今回の下院総選挙は日本の企業にどのような影響があるのでしょうか。

ー井上バンコク支局
タイ政府は産業構造高度化「タイランド4.0」を掲げ、人工知能や医療、環境と言った先端分野の育成を目指しています。タイ東部では「東部経済回廊(EEC)」と呼ばれる政策を実施し、産業誘致を図っています。しかし、タイ貢献党の支持者はタイの東北部や北部にあることから、仮にタイ貢献党が政権を獲得したら、外資企業などをこれらの地域に誘導する可能性があり、経済特区の効果が薄まるという懸念も指摘されています。

■物価上昇続くラオス 経済立て直しに注目

ー藤原アジア編集総局長
井上記者は、タイの隣国であるラオスも担当しています。ラオスからは、トンルン・シスリット国家主席が登壇予定です。トンルン国家主席はどのような人物なのでしょうか、

ー井上バンコク支局
トンルン国家主席はラオスで初めて、軍歴を持たない文民出身のトップとして、2021年3月に国家主席に選出されました。英語やベトナム語、ロシア語を話し、堪能な語学力が買われて、過去には外相なども務めました。

社会主義国であるラオスにおいて、経済開放の推進派としても知られています。首相時代は、国内外の投資促進や開発計画の策定などを指導してきました。ただ足元では、ロシアのウクライナ侵攻による原油高や、自国通貨安などを背景に、物価の上昇が続いており、悪化する経済をいかに立て直すのか、経済通としての手腕が試されています。

■難易度上がるベトナムの「しなやか外交」

ー藤原アジア編集総局長
次は、ラオスの隣国であるベトナムについてお話しいただきたいと思います。ベトナムからはレ・ミン・カイ副首相が登壇します。(注)登壇者はチャン・ルー・クアン副首相に変更になりました。

ー新田ハノイ支局長
レ・ミン・カイ副首相は4人いる副首相のうちの1人で、経済を担当しています。また、ベトナム共産党では、日々の政策実施を監督する書記局のメンバーでもあります。南部の出身で農家に生まれました。大学で経済を学び、ホーチミンにある民間企業で働いた経験もあります。昨今のベトナム経済は足元で景気減速が鮮明になっており、景気対策に注目が集まっています。

ー藤原アジア編集総局長
ベトナムは隣国に中国があったり、米国と関係性があったりなど、竹のようにしなやかに大国の間を渡り歩く外交を繰り広げています。

一方、ベトナムでは昨年から、「汚職・不正撲滅運動」という名の下、国を率いている共産党の中で、人事をめぐる動きがありました。2023年1月には国家主席が解任されるという大きなニュースもありました。このような動きは、ベトナムの「しなやか外交」に、どのような影響を与えているのでしょうか。

ー新田ハノイ支局長
今年に入り、共産党ナンバー2のグエン・スアン・フック国家主席が辞任に追い込まれました。フック氏は今まで、欧米との関係構築を指導してきたメンバーです。彼が不在の中で、欧米とどのような関係を築いていけばいいのか、というのが一つの焦点になっています。

また、ベトナムはこれまで、中国や米国、あるいはロシアとの間で特定の国に依存したり、対立をしたり絶妙なバランスを保ってきていました。一方、近年では韓国との結びつきが強くなっているほか、今後は経済成長が著しいインドとの関係性もますます重要になってきています。そのため、「しなやかな外交」の難易度は上がってきているといえます。


新田 祐司
ハノイ支局長

■7月のカンボジア総選挙の行方

ー藤原アジア編集総局長
新田支局長はカンボジアも担当しています。カンボジアといえば、今年選挙を控えています。欧米を含め、世界各国から注目が集まっていますが、解説をお願いできますか。

ー新田ハノイ支局長
7月23日に総選挙が行われますが、今注目されているのは、フン・セン首相の長男であるフン・マネット氏の出馬です。フン・セン首相は40年あまり、そのポジションに在籍しており、フン・マネット氏を後継者としてすでに指名しています。フン・マネット氏が当選した後、どのようなタイミングで首相の座を譲るのかが焦点になっています。

■スリランカと日本の意外な関係

ー藤原アジア編集総局長
最後は南アジアという大きな地域について岩城ニューデリー支局長にお話を伺います。南アジアからは、スリランカのラニル・ウィクラマシンハ大統領が出席します。ウィクラマシンハ大統領の人となりを教えてください。

ー岩城ニューデリー支局長
ウィクラマシンハ大統領はベテラン政治家で、今まで首相を6回経験しています。その経験を生かして、昨年来、経済危機に陥ったスリランカを立て直そうと、自ら各国との交渉を行いました。

スリランカというと、日本にとってあまりなじみにない国ですよね。でも実は、それほど縁遠い国ではないんです。例えば第2代大統領のジュニウス・リチャード・ジャヤワルダナ氏が、サンフランシスコ講和条約のときに「日本に対する賠償請求は行わない」と宣言し、世界的に大きな注目を集めました。

スリランカの債務不履行によって起きた債務問題に関して2023年4月、日本が債権国会議を主導して立ち上げたことは、個人的にはサンフランシスコ講和条約のお返しのようなものだと思います。

岩城 聡
ニューデリー支局長

■等距離外交で存在感増すインド

ー藤原アジア編集総局長
岩城ニューデリー支局長は普段、インドの政治経済を担当しています。そこで、インドについてもお話を伺いたいと思います。今年インドは「G20」という大きなイベントを率いています。ホストであるモディ首相は「グローバルサウス」というキーワードの下、途上国に声をかけ、国際的な秩序作りに反映したいと意志表示をしています。「グローバルサウス」という考え方も含め、インドのプレゼンスはどのように変化しているのでしょうか。

ー岩城ニューデリー支局長
個人的な感想を言うと、インドは「モテ期」に入ったと思います。G20には先進国もいるなかで、インドはグローバルサウスの代弁者として存在感を高めています。また、2023年5月に開催された中国とロシアが中心となる地域協力組織「上海協力機構(SCO)」では、インドが初めて議長国を務めるなど、等距離外交が際立っています。

■パネル討論にもご注目ください

今回の「アジアの未来」では、各国リーダーのキーノートスピーチだけでなく、パネル討論「『戦後』の終わり 漂流する秩序とアジア」「世界を変えるアジアのGX」「文化交流が育てるアジアの次世代」なども予定しています。また、5月25日(木)には、岸田文雄首相による晩餐会スピーチを配信予定です。ぜひご注目ください。

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「見どころ解説」のこの記事を最後まで読んでくださった皆様にお知らせです。第28回「アジアの未来」の受講料金ですが、来場パス69,800円(税込)、オンラインパス12,800円(税込)のところ、下記プロモーションコードを入力していただくと、来場パス66,000円(税込)、オンラインパス12,000円(税込)になります。ぜひこちらをご入力のうえお申し込みください。

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