二軒茶屋餅もの語り【3】 受け継ぐ生餅
茶屋の縁台でお餅をいただく最高のひと休み
成宗さん:
せっかくですから、どうぞ、うちのお餅を召し上がってください。
―――ありがとうございます。いただきます。
成宗さん:
柔らかいんで、楊枝だと食べにくいですよね。手づかみのほうが食べやすいと思うんです。
宗一郎さん:
昔、梅宮辰夫さんが取材に見えた時、お話しながら食べられたもんで、きな粉を吸い込んでむせましたんさ。梅宮さんが「この餅はむせる餅ですな」って言うもんで、「手でこう半分に折ってキュッとして、両側へこう持って、こんで食べやすいですよ」って教えたんさ。
―――お餅が柔らかくて、上品な甘さのこし餡と、香ばしいきな粉があいまって、たまりません。
宗一郎さん:
お茶もどうぞ。このお茶も、親戚にお茶を作っとるところがありますもんで、良い物を出しとるはずです。田舎のお餅ですけど、茶店ですから、そのお茶がありふれた物ではいかんと思うもんで。
―――やはり、伊勢茶ですか?
宗一郎さん:
そうです。北勢のほう。鈴鹿山脈あたりのがよろしいんや。
―――茶屋の縁台で、お餅と伊勢茶をいただくなんて、最高です。
宗一郎さん:
時々「縁台の上へ座布団に正座して、おいしいお茶とお餅を食べさせてほしいんや」っていうお客さんが来るんです。
伊勢参りの旅人を支えた、茶屋の力餅
―――二軒茶屋餅は、創業時から変わらないのですか?
宗一郎さん:
いやいや、私の推量ですけど、最初の頃は、ここで休憩なさる方にお茶出して、四季に応じて近くで採れるものを加工して出してたんではないかと。
今みたいに物流が盛んやありませんので、同じ原料で一年中作るっていうのはとても考えられませんから。
―――確かに、安土桃山時代の創業ですものね。
宗一郎さん:
それでいろんなことをやりながらお餅が残ったんかなと。
庶民はアワ、ヒエぐらいしかよう食べんときに、お米の加工品といえばとてもとても贅沢です。その時代にお餅を出しとったということは、参宮客が「一生に一度のお伊勢参りの思い出に、ご馳走のお餅を腹いっぱい食べたい」っていうので、二軒茶屋餅というのが残ったのかなと思うんです。
―――そういえば、三重県には老舗の餅菓子が多いですね。
宗一郎さん:
やっぱりこの伊勢方面は、米が比較的楽に手に入ったんかなと。ほかの地域は、お米じゃなくてお饅頭やきび団子ぐらいしかよう作れんだけど。
成宗さん:
要するに、ここは藩の土地と違って神領やったで、比較的年貢は緩かったみたいですね。藩の土地やったら、米はかなり厳しく取り立てられたでしょうし、なかなかそんな口にできなかったと思います。
―――神宮の神領だったおかげで、貴重なお米が手に入りやすかったと。
宗一郎さん:
米なんて最高の原料ですやんか。伊勢の思い出に、伊勢参宮して、普段なかなか味わえない米から作ったお餅を腹いっぱい食べて、古市でどんちゃん騒ぎして。
―――旅の贅沢、幸せな思い出ですよね。
成宗さん:
それに、餅は腹持ちが良くてエネルギーも高いし、古い時代はお菓子というより食事やったんやろうなと思うんです。
うちも今は一皿2個ですが、昔は一皿に7、8個出していた時代があったんです。お菓子の量じゃないですよね、もう食事です。
―――さっぱりとした甘さですし、たくさん食べられそうです。
宗一郎さん:
一皿8個で一人前。昔の若い人なら、2皿も3皿も食べよったもん。
成宗さん:
私の子どもの頃、近所の高校の先生が、部活動の生徒たちをここへ連れてきたんです。うちの親父がそんな話たら、その先生「おまえら、負けとったらあかんやないか。全員食べろ」って、高校生たちが山のようなお餅を食べていたのを覚えています。
あくまで“生餅”の、昔ながらの風情を貫く
―――このお餅、本当に柔らかくて、味わい深いですね。
成宗さん:
角屋伝来の生餅です。もち米を水にひたして蒸して、臼でつく昔ながらの作り方で、つき立ては柔らかくて、餅本来の美味しさがあります。
ただ、時間をおくと硬くなりやすいのが欠点でして。
―――ということは、あまり日持ちがしないのですか?
成宗さん:
もち米をいったん粉にして、砂糖を混ぜて練り上げる「求肥」のような作り方で日持ちさせる方法もありますが、うちは伝来の生餅の作り方を貫いていまして。
宗一郎さん:
今日の餅は今日限り。元々茶屋の餅ですから、お土産用につくったわけやないもんで。
それともうひとつ。きな粉も付けたすぐが一番よろしい。コーヒーも挽きたてが美味しいのと一緒で、香りが違います。
―――友達へのお土産で持って帰るには、もう少し日持ちしてくれたらとは思うのですが。
宗一郎さん:
あなたの気持ちも分からないでもないですが、茶屋でお茶飲みながら食べるのが本来の姿やっていうような形でやっとるで、遠くへのお土産には不向きだったんです。
―――茶屋の餅として、でき立てを召し上がっていただきたいと。
宗一郎さん:
そやけど、店で食べていただくお客さんは少ななって、「うちで食べるんや」って持ち帰られる。本当にお土産物にしようと思ったら、もう一日持たんことにはいかんけど、そうなると昔ながらの生餅を貫くことができない。どこで線を引くかずっと悩みながら守り抜いて、息子に引き継いだわけです。
〈続〉