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二軒茶屋餅もの語り【4】昔ながらの風情

二軒茶屋餅に出合ったことがきっかけで伊勢の郷土史の面白さにはまった筆者。この面白さを皆様にもお伝えしたくて、二軒茶屋餅角屋本店の会長・鈴木宗一郎さんと社長・成宗(なりひろ)さんに取材したことをnoteで綴っていくことにしました。

前回に続き、二軒茶屋餅に貫かれた生餅への思いのお話をお聞きします。

なぜ毎月25日は「黒あんの日」なのか

宗一郎さん:
変な話やけど、うちの親父(19代・藤吉さん)は厳しい人で、お客さんから「おいしいな。これ東京に持って行くから、もうちょっとくださいな」って言われたら、「いかんもん。東京へ持っていくんやったら、返してくれ」って言って。「そんな遠くに持っていくもんと違う、腹へ入れて持って行ってくれ」って。お客さんとけんかしとった。

―――厳しいですね!でも、できるだけ美味しく食べてほしいという思いだったのでしょうね。

茶屋の餅ですから、ぜひ本店の縁台で

宗一郎さん:
生餅づくりは変わっとらんけど、こし餡の砂糖だけは変えたんです。
今は白いお砂糖を使っていますが、太平洋戦争前までは黒砂糖ばかり使っていました。昔は白いお砂糖はお上への献上品が多くて、平民は色のついた砂糖やないといかんというぐらいだったんです。

―――白砂糖は贅沢品で、黒砂糖が庶民のお砂糖だったと。

宗一郎さん:
戦争中の昭和18~19年頃から戦後の昭和21~22年頃まで、砂糖の顔を見たことがなかった。餅づくりは10年間お休み。
やっと再開するときに、白いお砂糖が先に回ってきたもんで、そのまま白いお砂糖を使うようになってます。

―――白いお砂糖の方が上品な味になりますよね。

宗一郎さん:
そやけど、「あの昔の黒砂糖のも良かったなぁ」っておっしゃるお客さんがあるもんで、昭和50年代から毎月一回黒砂糖の餡を作ろうかと。そやで、明治5年5月25日に明治天皇が上陸なさったことにちなんで、毎月25日に黒あんを使った二軒茶屋餅をお出しするようになりました。

―――黒砂糖なら、コクがあってワイルドな味わいになりそうですね。

宗一郎さん:
最近は、田舎風というか古風というかそんなんが珍しがられますけど、若いお方には「ちょっと味は甘味がくどいわ。いつものやつのがええわ」っていわれます。

成宗さん:
俺らはコクのが好きやけどな。白砂糖を使うとお菓子らしくなるけど、僕はどっちかと言うと黒砂糖のほうが食事という感じがして好きですけどね。

―――黒糖の二軒茶屋餅を食べてみたいです。25日、伊勢に行かなくては!

二軒茶屋餅ならではの風情を、これからも

竹皮に包まれた二軒茶屋餅

―――明日食べるので、お土産用に買って帰ってもいいですか?

宗一郎さん:
もちろんです。お持ち帰り用の包みもありますよ。昔から竹の皮で包んでいます。

成宗さん:
昔は、竹皮に包んどいて食べたいときに食べるっていう、そういうものだったんだろうなっていう。最高のファーストフードやったと思います。
竹は抗菌作用が強いですし、すぐ食べられて、持ち歩けますし、そういった性質が強かったんかな。

―――竹皮は、昔から天然の包装紙でしたよね。

包装で使う竹皮とい草の紐

宗一郎さん:
そやけど、竹の皮で包んだら、形が変わりやすいですから。お餅をそのまま持ち帰って召し上がっていただくような包装にしたいと、一時期、箱にしようと思ったの。手持ちもいいし。そしたら、お客さんから「いや、あの竹の皮の風情がいいんや」って言われて。

成宗さん:
そう、うちも昔、箱入りがあったんですわ。結局出る数が本当にわずかで、お客様が100人おったら97人ぐらいは竹皮を選ばれたんです。

―――お客様は、二軒茶屋餅の風情を持って帰りたいのですね。

成宗さん:
昔の良さが残っているので、原点回帰をしていってやっていったほうがいいのかなと思っています。そこをやっぱり残していくことのほうが、遥かに意味があるんかなと思っていましてね。時代の中で古くて良いものが見直されていると思うんです。

一包みずつ、丁寧に包んでいく

―――昔ながらの姿があるということに、価値を感じますよね。

成宗さん:
今は何でもある時代なので、必要なニーズを満たすだけやったら、うちのお餅がなくても別にいいかもしれません。
だからこそ、ここ二軒茶屋まで来てもらって、この古い建物の中で、出来立てのお餅を召し上がってもらったりお買い求めいただいたりすることで、お客様が感じる世界観が全然違うと思うんですよね。

〈続〉

お二人のお話をお聞きして、私は角屋が貫いてきた生餅への思いと、昔ながらの風情に惹かれていたのだと気づきました。
次回、二軒茶屋餅もの語り【5】角屋の昔ばなしでは、角屋・鈴木家のお話をお聞きしていきます。

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