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【企画物語】教育長×学校長 学校改革生対談 ~自治体と学校ができることを探る~

「自分ひとりが孤独な改革者にならないために」そんな想いで視聴いただいた方々には、おふたりの話をたっぷり伺ったこの1時間半は最高の時間になったであろうと確信する。

「複合連結方発想法」とのコトバをご存じだろうか。孫正義さんの弟、孫泰三さんのプレゼンを聞いた時にお聞きしたこのコトバ。「何かと何かを結びつけることで常識を打ち破り、斬新なアイデアを生む」を意味する孫家秘伝のアイデア発想法だそう。
今回のお二人のお話をお聴きし、そんな話をフと思いだした。やはり何かを組み合わせること、つながりのなかったお二人をおつなぎしコラボいただくことはこんなにも大きな価値を創造した。

学校CHLOOSでは、毎回いろんな方々にご登壇いただく。教育の世界の方、外の世界の方、学校の先生、教育行政の方、特異な分野で秀でた力を持つ方。さまざまな方と出会い毎回その話に感心し感動し熱くなり、想いを新たにする。
今回のお二人にもそれぞれ学校CHLOOSでこれまでご登壇いただき、行政の立場で実現された斬新な改革、学校現場から進められたさまざまな改革をお聴きし、視聴された方々からも大きな反響を呼んだ。
4か月ちょっと前たしかまだ寒かった頃、学校CHLOOSのメンバー同士の何気ない会話「あのお二人に対談してもらったら何が起きるんだろう?」その一言から今回の企画はスタートした。
「そもそも鎌倉の教育長と横浜の校長先生に対談なんてしていただけるものなんだろうか。」この素朴な疑問を一瞬で吹き飛ばしていただいたこのお二人のおかけで、今回の我々の「複合連結方発想法」である『「鎌倉の教育長」と「横浜の校長先生」の組み合わせでの生対談』の場は生まれた。

前置きが長くなった。今回のこのイベントをレポートする。あまりにも内容が濃く、多少長くなったが御容赦いただきたい。

①「さまざまな流行を取り入れながら本質を探し続けるのが教育の誠」


まずは、あの「鎌倉スクールコラボファンド」を実現した鎌倉市 岩岡寛人教育長のプレゼンテーションからスタートだ。

子供たちは、今の社会で大人になるわけではなく20年、30年先の社会で大人にならなくてはいけない。子供たちが将来大人になったときの社会を想像して、その時から逆算して考える。大人が考える社会像ではなくて、子供が考える社会像、これを子供の視点で想像して考える。こんなお話からスタートし、さらに具体的な取組みが紹介される。

「社会に目を向けてほしい」iPhoneを作ったApple社の例に触れる。その価値を全部ひとりで作ろうとしたか、違う。社会に開かれた教育課程を実現するための大きな壁のひとつは「学校や先生の経験の壁」。自分たちだけの力で作れないならいろんな人から貸してもらい他の力を使って作る。これは、人間が人類の歴史上蓄えてきた知恵だ。
教育も同じ。学校の外、企業、大学、NPO、さまざまな知見を持った人たちとのコラボレーションでそれを実現させればいい。ふるさと納税の仕組みを使ったクラウドファンディング「鎌倉スクールコラボファンド」は魅力的な教育実現、コレボレーションの資金源として作られた。払ってもらっても住民税から引かれ払う総額は増えていない。魅力的な教育に対して自分の税金の使い方を選ぶ持続可能な資金源となりうる。
鎌倉市はこの仕組みにより3年間で1500万円の資金を調達しこれを原資にさまざまな教育活動を実現した。学校がやりたいことをそのままその年に使うことができる環境を作り且つ教師自身の教育観も広がり次の教育実践につながるいいサイクルも生まれた。さらにはこれにより実現した探究型学習により「自分の行動で国や社会を変えられる」と思う子どもが増えたことが数値でも証明された。

今「本質」と思われるものはあるときの流行に過ぎない。今の流行の中から将来の本質が生まれる。さまざまな流行を取り入れながら本質を探し続けるのが教育の誠なのだ。
"If we teach today as we taught yesterday,we rob our children of tomorrow"
「もし昨日の教え方で今日も教えたら、私たちは子供達の未来を奪ってしまうことになる。」
日本の教育施策を作ってきた精神的支柱であるジョン・デューイの言葉が最後に紹介され最初の15分が幕は閉じた。

②「点と点の有機的なつながりが未来につながる大きな森に。豊かな未来、学校のHappyに」


数えきれないぐらいの新しい取り組みを学校現場で実現されてこられた横浜市立山内小学校 佐藤正淳校長先生のプレゼンテーションが続く。

冒頭、正淳先生が着任された2019年春に思い描いていた想いが紹介される。
・みんな(子ども・保護者・教職員・まち)をHappyに!
・前例なんてブっつぶせ。ファーストペンギンになろう。
・参画共創型の学校にしたい。情報と覚悟を発信したい。
この想いの実現に向けて(ここでは割愛するが)数え上げたらキリがないぐらいそれはそれはたくさんのチャレンジ・改革が紹介される。

それらに共通するのは「いろんな登場人物が学校にクロスして大きな円やスパイラルを描く」であり「子どもたちだけではなく、先生も保護者も誰一人取り残さない」、この想いだ。
一例を挙げれば、学校運営協議会での戦略的な委員選出。学校評価アンケートの集計をデータ分析の得意な保護者に担当してもらうことで客観性の担保も実現し、先生の働き方改革にもつながる。
また、山内小といえば同校のインスタによる日々の学校の様子の積極的な発信。みんなが学校のことを知ったから見えたから先生ががんばってるのがわかるから、学校協力したいとの人が続々増える。どんな素晴らしい取り組みをしても、発信しなければ伝わらないのである。
「モンスターペアレントなんていない」こんな言葉も紹介され「他者の靴を履く。エンパシーを大切にしてスタートラインにすればボタンの掛け違いは起きない。」そんな想いも強く語られる。
その結果、学校の満足度は上がり、「自分によいところがある」と考える子どもも増えた。人の役に立ちたいと考える子どもも増えた。先生のストレスも減った。数値上でも着実な成果が表れる。

同校は今年創立150周年。でも実行委員会は立ち上げないそう。それにより、さまざまな協力の声がそれぞれの方から自ら寄せられている。実行委員会のハコを作ったらこうはいかない。
多くの取り組みは全てがつながっている。点と点を有機的につなぎ土壌に関わる参画者を増やすことで、学校・地域・横浜の域を超え、日本・地球・そして未来につながるような大きな森につながる。より豊かな未来、学校のHappyにつながる。
そんな話で正淳先生の熱いプレゼンテーションが締められ、いよいよメインの生対談に続く。

③「対話とリフレクション」「学校の中と外のつながりから生まれる学校の未来」


学校CHLOOS代表星野達郎のファシリテートで進行したおふたりの生対談からも多くのキーワードが生まれた。

まずは岩岡教育長からのキーワード「対話とリフレクション」
自分自身を振り返り、今までの自分を変えるリフレクションを校長先生や先生はできているか。そこにつながる対話はできているか。そんな話から、鎌倉市の具体的な取組みも紹介される。
学校を変えるにはまずは自分たちから。教育委員会の中も変わるための勉強会が開催し、また教育長自身も学校を積極的に周り校長だけでなく教員と保護者とも直接話す。「決まった対話ルート」を取っ払い「多様でゴチャゴチャした対話ルート」を自らが作る。
「忙しい中どうやって実現を?」との問いには明確な答えが示された。
『「先生と対話する。そこからアイデアを収集する」は一番の付加価値が生まれる業務。付加価値業務を忙しい中からどうやって生むか、はどの仕事にも共通して追及しなくてはいけない。価値ある仕事をするために忙しさをどのように解消するかとのマインドを持つ。働き方改革が目的ではなく、いかに価値あることワクワクすることを生むかを先に見つけ、そのためにやらなくてよいことをやめる。』

正淳先生からのキーワードは「学校の裁量」と「外とのコラボによる学校の未来」
横浜市のような大きな規模の自治体では鎌倉市のようにはいかない。その半面、学校の判断でやれること、学校に任されることも多い、と捉える。それにより学校それぞれにさらなる独自性や強みを生む。
実際に校長同士のコミュニティにも改革は生まれている。「GIGA校長会1.0」が宣言され100%ペーパーレス、デジタルツール活用により学校を越えた日々のさまざまな相談をリアルタイムで可能としいた「ちょこっと相談」。それぞれの現場で具体的な改革は進む。

さらには、現場の先生自身の変化についても。
「愚痴の言い合いは同じ価値の再生産。若い先生にも校長先生にも、やりたいことを言い合い心理的安全性を保ちながら議論したり学ぶ場がなかった」と振り返る岩岡教育長。
鎌倉市では、ワクワクすることを引き出す研修を任意の自主的な勉強会として立ち上げた。「対話とリフレクション、学習する組織作り」の勉強会であり学びたい人だけが参加でいい。安全して議論できる場所を作ることで挑戦していいことを学ぶ。自分でやるのではなくみんなでやればいいと気づく。
「自分の仕事の動機の源と組織のミッションが重なった時に先生はワクワクし、自分で動き始める。」そんな場創りにも力を込める。

「外とつながる活動とマッチングし先生のキャリアにつながることを見つけ先生に企業とのコラボに積極的に参画させる。それにより自分で価値を感じ、子どもたちの変化も感じる。」学校現場でのそんな取組みに力を入れる正淳先生。
ひとりひとりの先生がベストパフォーマンスを発揮できる機会、適材適所を作り学校の外とのつながりの中で何かを生むチーム作りが管理職としてのやるべきゾーンだ、と熱く語られた。

最後の問いは「学校の未来の姿は?」

「学校がいろんな人と関わり一緒にやる。いろんな面白い人が学校に出入りしそれにより先生も教育観をアップデートし、子どもたちも加わりワチャワチャしていく。先が読めないゴチャゴチャした学校を目指し、応援したい。」
7月に任期を終えられ文科省に移られる岩岡教育長からは「鎌倉の取組みは不滅」との言葉で締められる。

正淳先生からは「学校にどんな登場人物、参画者、協力者応援団がいるかは子どもは見ている。それが原体験・原風景になり子どもたちの未来につながる。かっこいい大人、想いや覚悟を持った大人たちが行き交いクロスする学校を一緒に創っていく」

おふたりのそんな宣言に対し星野達郎からの「AppleはiPhoneをさまざまな企業とのコラボで作った話」「山内小のさまざまな企業や外部の人とのコラボ」を聞き、学校CHLOOSも素適な人たちとつないで学校をHappyにしたい。と想いを新たにした。との言葉で今回の熱い対談は幕を閉じた。

その後参加いただいた全国の方との和やかな交流の時間も。
校長先生同士でお互いの強みを発揮したりちょっと弱音も吐いてみたり、でも前に進める学び場となる「校長ホットカフェ」のお話、教委に一度はダメと言われたチャレンジに実現の道を見出したお話。校長会でもICTツールを活用し担任の先生と同じ想いでトライされているお話。インスタ発信で地域や卒業生とのつながりが拡がったお話。そして学校CHLOOSのイベントには珍しい先生以外の参加者、組織風土改革にチャレンジする行政職員さんからの「今までにない仕事も自分が参加してみてわかることがあり、難しいと思ってても飛び込むことのだいじさを感じる。今日のお話に自分の仕事にも活かせそうなエッセンスをいただいた」との声には、まさに行政職員の岩岡教育長、行政職経験おありの正淳先生それぞれから共感とアドバイスが送られる。
「おふたりにエネルギーの源は何か?」の問いには、岩岡教育長からは「愛」、正淳先生からは「止まれないマグロ」の楽しいキーワード。最後はお二人から「一人で戦わない。仲間を作ってみんなでスイミーになろう。」「仲間で未来を創ろう。」の言葉で今回のイベントは感動のフィナーレを迎えた。

イベントを終えて

今回この企画に携わらせていただいた私には2か月前のあるシーンが思いだされた。
4月に初めておふたりを交えリモートで行った「イベントの前打ち合わせ」である。この場がすでに「おふたりの学校改革・教育改革談義」の場となりこの時間のおふたりの会話そのものがもうすでにひとつのイベントのようであった。
この会話の中で、私が発した「きっといろいろ乗り越えられたであろうお話を」の一言に対し岩岡教育長の口から出た『今回のキーワードは実は「乗り越えない」』かもしれません』があの時強烈に心に残ったのを覚えている。
「学校がやりたがってることや子どもが学びたがってること、保護者が求めてること教育委員会がやりたいことが接するストーリーは必ずある。真ん中にある、みんながこれいいねってワクワクできるストーリーや共通点は必ずある。そこにしっかり手を打たれていれば抵抗もなければ軋轢もない。スルッといく。学校がやりたいこと、教育委員会がやりたいことがそれぞれあるというよりも、みんながやりたいと思えることを探す"対話"が出発点になるべき。」たしかそんなことをおっしゃった。
「乗り越えない」の意味するところ。今回おふたりのお話を学校CHLOOS初の生対談形式で直接伺い、その答えはそこにあった。

ご登壇いただいた岩岡寛人教育長、佐藤正淳先生。このイベントが生まれたヒントをくれた学校CHLOOS代表 星野達郎。このイベントの実現に力を貸してくれた学校CHLOOSの仲間たち。視聴いただいたすべてのみなさんに感謝したい。
最後に今回このイベントにご参加いただいた視聴者のみなさんからのお声を紹介し、この文章を締めたい。

(視聴者の方々からのお声)

校長と教員、教員と教育委員会や教育長との関係は職務の身分上、上下関係で終始しがちで、なかなか「~したい」という想いがあってもこの組織なら無理だと諦めてしまうことも多いです。校長や教育長から教員のやる気や思いを前に出させるように気をまわしていただかないとなかなか厳しい面も現実にはまだあると感じました。
また、教員間でもこの先生はどんな思いで仕事をしているのか何で話す機会が本当に全くありません。ただレジュメを読むだけの無意味な職員会議なんてやめて、対話の時間をもっと取ったら素晴らしい組織になっていくのになあなんて思いました。

社会に開かれた教育課程の本当の理念とその実際がよく分かりました。ありがとうございました。

やりたいことはいっぱいあるのに、「今言い出したら、みんなは面倒だと思うかも」「これを発信したら批判がくるかもしれない」とブレーキを踏みまくっている私です。「チャレンジを楽しむ」ということを合い言葉にした4月だったのに、最近失速していた自分に改めて気がつきました。「わちゃわちゃ、ごちゃごちゃを許さない学校の雰囲気」を「自由度の高い学校」へじわじわと変えられるように、まず自分から一歩踏み出していこうという勇気をいただきました。ありがとうございました!

岩岡教育長さんのお話も正淳先生のお話も、どちらもお聞きしたことがありましたが、何度聞いてもわくわくしてくるお話で、いつも「スイミー」になれそうな気がしてきます。加えて、本日は対談という形でお二人のお話を聞くことができ、また新たなヒントを頂けました。対話とリフレクションは、本校でも大切にしていることで、年度当初の最初の職員会議は、「なぜ先生になったのか?」を語り合い、「子どもが月曜日でも来たくなる学校とは?」を対話しながら、これまでの教員人生や学校をアンラーンしたうえで、組織のミッションとの共有化を図りました。その中で出てきたキーワードは「うきうき・わくわく・いきいき」。おかげで、子どもたちも職員も、みんながうきうき、わくわく、いきいきしながら学校生活を送れているように感じています。岩岡教育長さんのことや山内小学校のことは、これまでも本市の教育委員会に伝えているのですが、なかなか取り入れてはくれないので、まずは本校でできることをやっていこうと動いているところです。本日は素敵なお話をありがとうございました。

本当に、刺激的で、心が元気になるセミナーでした。このような企画が実現することも素晴らしいと思います。管理職として、子どもたちの未来のため、今できることに果敢にチャレンジしていきたいと思います。
教育長様との飲み会、実行委員会立ち上げなしの周年行事、お二人のファーストペンギンの姿に、感激し、パッションをいただきました。本当にありがとうございました。

/written by 田中光太郎@学校CHLOOS

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