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パルシステムのおじさん

私は小学校の教員をしています。小学生の下校時刻には学校にいるため、子どもたちの帰り道の様子を見ることはあまりありません。

ところがこの前、小学生の下校する時間帯に街を自転車で通ることがありました。息子が発熱し、小学生の下校時刻に私も帰宅することになったのです。そこで、見かけた出来事について今日は書きたいと思います。

パルシステムのおじさん

ランドセルを背負った女の子が、パルシステムのおじさんに近寄って話しかけています。パルシステムは食品や日用品を家庭に配送するサービスを行う会社で、私の住む地域では利用する人がたくさんいます。(我が家でも利用しています。)

女の子は、トラックを駐めて発泡スチロールの箱を整理しているおじさんに近寄っていき、「これ、ドライアイス?」と話しかけました。おじさんは「そうだよ。冷たいよ。」などと仕事をしながら応答しています。おじさんはニコニコしています。女の子は、しゃがみこんで発泡スチロールの箱の中をおもしろそうに覗きこんでいました。

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私が見たのはこれだけです。すごくいいなぁと思ったワンシーンでした。みなさんは、こういうシーンって普通に見かけますか?もしそうだとしたら、まだまだ日本も捨てたもんじゃないなと思います。

知らない人には話しかけないで

小学校では、警察と連携してセーフティ教室というのが定期的に行われます。その中には、不審者対応の指導が位置づけられています。また、毎月行われる安全指導でも年に何回か不審者に関する指導が計画されています。地域に不審者情報があれば、直ちにメールが流され、子どもたちにも気をつけるよう指導します。

「優しそうな顔をして近寄ってくる不審者もいるよ。気をつけて。」「女の人やお姉さんでも不審者かもしれないよ。」こんな声かけがされることもあります。
何だか世の中不審者だらけなのでは?という気持ちになってきます。もちろん、世の中には危険人物もいるでしょう。でも、割合から言って、ごく小数です。

「不審者」という言葉

自分が子どもの頃は、「不審者」という言葉はあまり使われてはいなかったように思います。
一番よく使われていた不審者の代わりとなる言葉は「露出狂」でした。よく出没していました。先生からも帰りの会で「気をつけなさいよー。暗くなる前に帰ること。1人にならないようにね。」と言われていました。確かに、露出狂は紛れもない不審者です。それでも、先生に言われたことに気をつけながら、毎日遊びに行っていました。

大人になり教員として働くようになった私は「不審者情報」を共有するシステムに、時代の変化を感じました。子どもが安全に過ごすために、すぐ不審者情報が来るのはいいなぁと思いました。

でも学校に寄せられる不審者情報には、「本当に不審者?」と思うようなものも混ざっています。
「公園で遊んでいたら不審者に写真を撮られた。」
(話を聞くと、めちゃくちゃ迷惑な遊び方をしていて注意されたけど無視していた。しばらくしたら写真を撮られた。その不審者(?)はその写真を持って学校にクレームを言いに来た。)
「校庭解放で遊んでいたら、フェンスのところからおじいさんがじっと見てくる。不審者では?」
(何かされたわけじゃないし、子どもが遊んでるのを散歩の途中で眺めるおじいさんいるかもしれない…。やめてくださいとは言いづらいなぁ。)

子どもたちだけでなく保護者も、不審者を警戒するあまり「家族や先生以外の知らない人とは話しちゃだめ」というような声かけをする人が増えているのかも知れません。大事な子どもが、不審者の被害にあったら取り返しがつきません。何かあってからでは遅いし、警戒するに越したことはないのです。

そんな雰囲気が広がり「外の世界は怖いところだ」というイメージが子どもたちに植え付けられてしまったらどうでしょう。地域のつながりは薄れ、挨拶は無くなり、家庭の中に閉じていってしまうことが危惧されます。

パルシステムのおじさんと会話を交わす意味

安心できる相手としか会話を交わせない子どもは増えているように感じます。また、大人もそうなのかも知れません。コロナ禍を経て、より一層、外の世界への恐怖心は高まってしまったようにも感じます。

そんなふうに感じていたときに見かけたパルシステムのおじさんと女の子の微笑ましい光景は、私を少し勇気づけてくれました。

街の人の大半は、子どもたちのことをあたたかい眼差しで見守ってくれているよ。

私はそう子どもたちに伝えたいです。街で子どもたちが歩いていたら、かわいいなぁと思いながらウキウキします。パルシステムのおじさんも、きっと話しかけられて嬉しかったんじゃないかと思います。眼差しが温かかったですから。(もしかしたら、話したのはこの日が初めてじゃなかったのかも知れません。)

街の人との温かな交流が増えることは、困ったときに助けてくれる人が増えるということです。考えてみれば、我が子も近所の人に助けられてここまで大きくなりました。人とのつながりが増えることで、世の中に対する安心感が高まります。

怖い目に遭わないために、「不審者がいるかもしれないよ」と子どもに教えることは必要です。でもそればかりではなく、世の中を安心できる場所として認識できるようにしていくことも必要です。

地域を安全な場所にするには

さて、ここまで読んできてくださったあなたに尋ねます。
「あなたの地域は子どもにとって安全な場所ですか?」

絶対に安全とは言えないと思います。世の中、絶対はありませんよね。怖いニュースに触れると心配になるのも頷けます。
でも、治安が悪くて小学生を1人で歩かせることはできない…ということもないはずです。

地域を安全な場所にするのは、街にかかわるたくさんの人達です。パルシステムのおじさんも確実にその1人です。この文章を読んでくださったあなたも。

今、不安を抱える子どもたちが増えています。世の中に対する漠然とした不安が渦巻いています。そんな中、見知らぬ人の小さな優しさに触れることが子どもたちを救うことにつながると私は思います。

もちろん、「子どもたちにどんどん話しかけて」という意味ではなく、子どもたちを温かい眼差しで見守って欲しいということです。そして、この女の子のように話しかけてきたら、にこやかに優しく返答してほしい。

(ちなみに私は、知らない子どもでも危険なことをしていたら注意します。これは職業病かもしれませんが、いけないことをいけないと教えるのも愛情だと思うからです。親だけがその責任を負うわけではありません。)

街のみんなが子どもを大事にする。そういう社会になればいいなと思います。みなさんはどう思いますか?

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