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16才は自由な世界の入り口(13)

中学を卒業した私は地元から離れた定時制高校に通うこととなりました。昼間は鉄工所で働き、夜は定時制高校に通う生活をスタートしました。

鉄工所では主に鉄を削ったりプレスするなどの作業をしていました。指先には削った鉄クズが刺さり、鉄を削った熱での火傷もよくしました。この指先に刺さった鉄クズですが、これが中々取れないんですよ。刺さったままだとずっと痛いので、仕事が終わる度にピンセットで鉄クズを自分で抜くんです。油での手荒れもひどくて鉄工所は手へのダメージが大きい仕事です。油を落とすための手洗いも石鹸を砕いたような特殊な石鹸で落とします。不思議なものでこの石鹸で手を洗わないと油は全然取れません。鉄工所は軍手をすると機械に巻き込まれてしまうため素手での作業が基本となります。そのことも影響しているように思います。今でも腕には鉄で切れた傷がいくつかあり、作業の関係でやむなく軍手を使って機械に巻き込まれかけ小指も曲がってしまっています。指が無くなってしまう方もいらっしゃるので、曲がってしまっただけで済んで本当に良かったです。

昼休みはいつもコンビニで買って外で座って食べていました。いつも油まみれで作業着も汚れていて、たまに高校生とすれ違うと同じぐらいの年齢なのに遠い世界の人間と感じました。かっこいい制服を着て友人と楽しそうに話しながら歩いている高校生を見て

この後カラオケにでも行くのかな

など考えていました。

そして、自分は昼休みが終わるとまた鉄を削るのかと隔たりを大きく感じました。

鉄工所を夕方に上がった後電車で1時間ほどかけて定時制高校に通学します。定時制高校には色々な人が居ました。年齢も通うことになった事情も様々で本当に不思議な空間でした。ただ、辞める人も多く2ヶ月ほどで10人以上がクラスから居なくなっていました。かく言う私も2学期が始まる頃には学校に行かなくなっていた1人でした。鉄工所での仕事で精一杯で両立がうまく出来なかったのです。それが原因で高校を留年することとなりました。定時制高校では珍しいことではなく、留年した新しいクラスには5人ほど私と同じく留年したクラスメイトが居ました。鉄工所との両立は難しいと考え、留年して新しいクラスになった時鉄工所は辞めました。そこからのアルバイトはビラ配りやテキヤをしていました。

定時制高校に入学してすぐの出来事で今でも覚えていることがあります。国語の時間漢字のプリントをやっていた時のことです。私は「家」という漢字を書くことが出来ませんでした。3年間中学にもほとんど通っていなかったのもあり、漢字をほとんど忘れていたのです。書けないことが心底恥ずかしくて変な汗が沢山出てきたのを覚えています。その時私の様子に気付いた国語の先生が私に近づいて来て一言こう言いました。

「先生もな〜漢字忘れる時あるで。」


その言葉を聞いて私の肩の力が抜けたのを今でも覚えています。

何も言ってないのになんでわかったんやろうか


私は不思議に思いました。今自分が学校で働く立場になっても思いますが、この国語の先生の対応は素晴らしいと思います。私の様子の変化に気づいて下さったこともですが、さりげない一言が特に素晴らしいと思います。色々と言い方は沢山あったと思いますが、その中で私のプライドを傷付けずなおかつ肩の荷が降りるようなそのような言葉です。定時制高校の先生は親身になって下さる先生が多かったです。今となっては定時制高校に行って良かったと心から思えます。

この経験は私が子どもたちと関わる現在でも大切にさせて頂いております。面と向き合って時間をかけて話しをすることもとても大切なことですが、さりげない一言などが人の何かを変える可能性も大きくあり私は大切にしています。子どもたちが聞いている聞いていないは気にせず1人ですれ違い様や勉強覗いた時になど

「めっちゃうまいな」

「だいぶいい感じやな」

「これ90点はいけそうやな」

「うん。さっきより全然ええな」

「これちょっと後から担任の先生に見せなあかんな。見てもらわな勿体無いわ」

「姿勢がこの間と全然違うな。めっちゃ伸びてるな」


などぶつぶつぶつぶつ永遠1人で言っています。もう本当無限に引き出しがあるのでぶつぶつぶつぶつ永遠に言ってます。

ただウソの独り言は1度も言ったことはありません。どれも私が本当にそう感じた本当の気持ちを呟いています。

狙いは色々ありますが、子どもたちが

自分は90点取れるんだ

前より姿勢良くなったんだ

今の自分は担任の先生に褒めてもらえるんだ


っと気付いてもらうことです。もう1つは

ちゃんと大人は見ているから


という安心感を持ってもらうためです。私が言語化しているだけで、思っているだけの大人は保護者や先生含め沢山いらっしゃります。そこに希望を持って欲しいと考えています。

働くことの大変さや定時制高校で色々な方々に出会えた16才。私にはとても大きな意味のあることでした。

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