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#6 音がない日常

NPO法人にいまーるの理事・臼井です。
にいまーるは、障害福祉サービス事業を中心に手話普及活動も行なっている団体であり、ろう者と聴者が一緒に働く職場です。障害福祉サービスの利用者は全員耳が聴こえません。
しかしスタッフは聴者が多いため、双方の文化の違いが垣間見え、時には食い違うことも多々あります。
そんな職場から生まれ出る、聴者とろう者が共に仕事をする中での気づきを連載していきます。
今回は、ろう者と聴者が共に働く場の「日常」を、ろう者目線で書いていこうと思います。

まずは下記をご覧ください。

近くにいた人が階段を降りていった。どうやら誰かが来たみたい。
今日、来客の予定あったっけ?とスケジュールを確認。
あ、宅急便だったのね。そういえば、昨日Amazonで注文したものあったな、と。

このような場面が日常茶飯事なのが、にいまーるです。

1番目に登場した場面は、「ピンポーン、ピンポーン」という呼び出しベルに反応した人が玄関に向かったもの。
この音が、私は全く耳が聴こえないので気づけません。
そんな私のような人のために、フラッシュで知らせる機器が世の中にはあります。

ベルマンビジット フラッシュ受信器 (自立コム)は、聞こえの不自由な方の自立を助ける機能商品を、厳選してお届けする専門のショップです。

とはいえ、たまたまこれを付けていない部屋にいるときは「あ、今なんかあったらしい」程度の気づきしかできないものです。

全ての部屋に設置すればいいじゃん、という話ですが、ろう者が多い職場でもあるので来客があるたびに「ピカッ!ピカッ!」と光るのも何だかな、と躊躇してしまいます。
ろう者全員に用事があるわけではないお客様にとっても、全員がお客様を一斉に見たらびっくりしてしまうわけです。

ろう者のための設備を突き詰めた結果、聴者が不利益を被るのはいただけません。これはユニバーサルデザインという視点もありますが、何より我々にいまーるの理念に反します。

さて、聴こえる人の場合は、耳に入る情報を取捨選択できるみたいですね(この感覚は私自身、実感できない部類に入ってます)。
聞こえ方の程度や個人差はあるものの、「あ、誰かが来たみたい。確か、理事長の予定表に入ってた気がするわ」でシャットアウトできるとか。

ろう者の場合、「ピカッ!」と光った時点で、「今何か起きたのか!?」と身体が反応してしまうような気がします(私だけ?)。
非常事態が起きたときは赤い光でお知らせできるようにしているのですが、商業施設や他の場所によってはピカッ!と光る白い色で「警報機が鳴っているらしい」と判断することがあります。

色が統一されていないのがややこしいですが、ランプがあるだけマシといっったところでしょうか。



続いてはこちらの場面。

「誰かが来たみたいですよ」と聴者が言う。ドアの向こうに誰かがいるらしい。まだドアは開いてないけど。あ、君だったのか、待ってたよ。
扉を開けたらぶつかりそうになった。同じタイミングで、同じ地点に行こうとしていたのね。私たち。

こちらも日常茶飯事です。

ガラスのドアであれば、誰かがいるという視覚的な情報があるので安心できます。

しかしながら全てのドアがそうではないため、どうしても開けるまでの間に「人がそこにいる」という情報を得ることができない状態にあります。

「人がいるかも!」と思っていれば、ドアを開けた瞬間に「ぎゃー!」と叫ぶ必要もなくゆっくり開けられます。しかし「人がいるかも!」って思うのは大抵、余裕があるときですよね。

特に私なんかは、考え事をしたり次の仕事の段取りをシミュレーションしたりしながらドアを開けるので、毎回のことながら「うわっ!」と驚いてしまいます。歩きスマホも然り(先日、スタッフに注意されてしまいました、気をつけます)。

日常茶飯事の場面の中で、私のことをよーく知っているスタッフは「ちょっと待って。今。電話来た(指差し)」「そこに誰かがいますよ」「誰かが来たみたい」と教えてくれます。教えてくれる度に立ち止まれるし、「ちょうど美味しいお酒…じゃなくて、お茶が入ったので準備しよっか」と判断材料の一つになります。



そして、こんなバージョンもあります。

ろう者の側を通りかかる時です。

ろう者は手話で話をしているため、通りかかる人の存在に気づいていない。このままだとぶつかってしまうので、手元にあるワイングラス(!?)を落としてしまいそう。どうしよう。
どうしたらいいか分からないので立ち止まって、ろう者が気づくまで待ちます。
それでも、会話に夢中になっているのでなかなか気づいてくれない…早くテーブルについてワインを飲みたいんだよ、と心の中でつぶやく。

個人差はあれど、後ろから近づいてくる足音に気づいて何気なく身体をズラす。
足音が、耳から入る情報の一つになっているわけで。
確か、韓国の最新映画で殺人鬼がろう者の背後に立つシーンがありました(良い子の皆さんは真似しないでね、心臓が飛び出てしまいます)。

ろう者は耳が聞こえないので、気づきようがない(会話の相手が、こちらを見て気づいて、身体をズラすよう教えてくれることはあります)。

別の道へと迂回する方法もありますが、そんな面倒くさいことをしなくても済む方法があります。

ろう者の肩または腕をチョンと叩きながら通る。

これだけです。これだけで、ろう者は自然に動きます。道を空けてくれます。

耳が聞こえないことによって身体に染み付いているものを、日常茶飯事の中から見つけていくことが職場の楽しみ方の一つ。当然、仕事はしっかりやって、休むときは休みましょう。今日もお疲れ様でした。

運営:NPO法人にいまーる
HP:http://niimaru.or.jp/

著:臼井千恵
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編集,デザイン:吉井大基
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