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#35 シワが続出した一コマから考えたお話し

NPO法人にいまーるの理事・臼井です。
にいまーるは、障害福祉サービス事業を中心に手話普及活動も行なっている団体であり、ろう者と聴者が一緒に働く職場です。
障害福祉サービスの利用者は全員耳が聴こえません。
しかし、スタッフの比率は、ろう者2割:聴者8割と、聴者が多いので、双方の文化の違いが垣間見え、時には食い違うことも多々あります。
そんな職場から生まれ出る、聴者とろう者が共に仕事をする中での気づきを連載していきます。
今回は、音声認識ツールについて書いていきます。
シワを使ってお話しいたします。
シワが多いですが、このまま進めてもいいでしょうか。
初めてシワを学んだ時、ろう者の文化があるんだって衝撃受けました。

ここまで書いたらもうお分かりだと思いますが、このシワは単なるシワではなく、シュワ、しゅわ、手話、なんですね。

どうして手話がシワになってしまったの?という方のために少し解説いたします。

先日、手話での報告会がありまして音声認識ツールを使ってみたのです。
手話が分からない参加者がいたので、手話通訳士による「読み取り通訳」の声を音声認識ツールで文字に変えて、それを読んでいただく、というスタイルです。

あ

写真:透明ディスプレイRælclear™(レルクリア)
https://www.j-display.com/product/transparent_display.html

そこで「手話」という単語がなぜか「シワ」になってしまいました。

参加者は普段から手話を使うコミュニティにも関わっているので
「これは、私の顔にあるシワではなくてシュワなのよね〜」と笑い飛ばしていました。

ろう者・難聴者は音声認識ツールによる誤変換を見るたび、「今のは○○かな?」と脳内で修正作業を行います。
文脈や場面の状況、パワーポイント等の視覚的な情報を元に「もしかしたらアレちゃうか?」と仮説を立てつつ、瞬時に修正作業を行いながら、話者の内容を理解する作業も同時に行なっています。

これは、電話をしながら長距離マラソンを走るようなものです(走ったことないけど)。

走り切った後に「ああ、今日の音声認識は良かったね」と感想を口にすると、「いや、もう少し何とかならんのかね?」という反応がしばしばあります。
なんとその反応をするのはほとんどが聴者で、音声認識ツールを必要としていない立場から見ると、誤変換がどうしても気になるそうです。

全体の2〜3割くらいの確率での誤変換であれば、それなりに良かったなぁと思っても、起点言語が耳に入ってこないので実際の誤変換の割合は、もう少し高いのかもしれません。
とはいえ、情報保障が全くない場面で感じる不快感に比べたら何十倍も「ありがたや〜助かるわぁ」と思ってしまいます。

一方で、起点言語が分かる聴者から見ると、誤変換が起きるたびに不快感が増していくみたいです。
より快適に読めるよう、何度か言い直したり、単語の部分だけを繰り返し話したりする場面が見られます
文字による情報保障を、より正確に伝えたいという聴者の想いからくるこの行動に、「本当にありがとう!でも、ちょっとした誤変換は気にしないで次に進んでほしいな」と思うろう者難聴者もいます。

意味がかなりズレてしまうような誤変換はケンカの元に(!?)になるのですぐに言い直したりする修正作業はとても大事です。
その上で、たいしたことのない誤変換に対してはおおらかに「あ〜またシワが出とるわぁ」と割り切って、お互いに心地良く使えたらいいなぁと思うこの頃です。

最後に、音声認識ツールによる誤変換に対して以前、研究された方がいらっしゃったので論文を探しているのですが、心当たりある方がいましたら教えてくださると嬉しいです。

今日も読んでくださってありがとうございました。
また来週よろしくお願いいたします。

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文:臼井千恵
Twitter:@chie_fukurou
Facebook:@chie.usui.58

編集:横田大輔
Twitter:@chan____dai

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