第5回:学び場を軸にした幸福度の高い地域デザイン〜保育園編〜
本プロジェクトは、小学校という学び場を軸に、地域のコミュニティと経済を再生していくことを思い描いています。
今回の記事では、立ち上げメンバーのこれまでの活動もご紹介させていただきながら、その限りない可能性を考えていきたいと思います。
まずは、設立準備中の私立新留小学校の近隣エリア(鹿児島県)で、共同代表の古川が取り組んできたお話から。
自分の事例を自分で語ると自慢っぽくなるからいやだ!とのことで、共同代表の丑田の目線からお届けします。
ひより保育園
古川・白水が運営する「ひより保育園」は、2017年に鹿児島県霧島市に開園しました。
「食べることは生きること」であると掲げ、0歳から食を通して生きるための力を育む保育園です。
まずはこちらの動画をご覧ください。
園児たちがみんなで遠足に行くお金をつくるために、園内にレストランをオープンした一日の風景です。
メニュー考案から価格設定、当日の調理、配膳、接客まで見事に自分たちでこなし、10万円以上を調達。
彼らは自力で稼いだお金で大型バスをチャーターし、遠足へ行ったとのこと!
園児のおごりで遠足に行く園、面白すぎます。
この園では、0歳から食材と触れ合う機会をつくり、2歳で大人と一緒に包丁で切ってみる、4歳で火を使った調理をはじめ、5歳になる頃には魚を捌き一通りの料理ができるようになります。
余談ですが、クック◯ットなどのレシピ通りに料理をすることに慣れきっていたわたくし。季節ごとの旬のものやありあわせの食材で適当に料理をしてみる(ブリコラージュする)ことを修行中なのですが、完全に園児たちの方がはるか先を行っています(笑)
単に料理上手な子どもを育てたいのではなく、「料理を通して、様々なものの解像度をあげたり、ものごとの全体を想像する力を身に着けてほしい」という思いから、こうした取り組みを行ってきたと古川は語ります。
地元の顔の見える生産者が育てた食材を使った給食を毎日食べていると、農家さん達と子どもたちも自然と顔見知りになります。
地域の方々との関係性が深まる中で、次第に様々な活動が生まれていったとのこと。
例えば、子どもたちが給食の生ゴミを発酵させて堆肥化し、それを生産者へ還元したり、近隣の耕作放棄地を再生する活動もはじまっています。
そらのまちほいくえん
翌年2018年には、鹿児島市最大の繁華街である「天文館」の通りの中に、ビル一棟をリノベーションして「そらのまちほいくえん」を開園。
この園でも、給食の食材や園の活動に必要なものは極力地元で購入し、園児たち自身が買い物に行くこともあるといいます。
保育園開園時には、1階の一角に園の給食と同じコンセプトの総菜店を併設、3階の一部を地域交流スペースとして地域の方たちにひらきました。
給食で出る料理を総菜店で買うこともできて、道端で商店街の人たちが子どもたちと「スタミナレバー美味しかったね!」なんて会話を自然とするシーンもあるのだとか。
普段の散歩や季節行事なども含めて商店街とのつながりは深まっていき、まちの多様な大人に囲まれながら子どもが育つ、安心安全な環境が育まれていきました。
事業的な視点では、こうした一見儲からなさそうな活動は見過ごされがち。ですが、まちに開かれた共有地(コモンズ)の存在が、地域のつながりの資本を豊かにしていくことで、その土壌の上で行われる教育や経済活動も持続可能性を高めていくのだと感じます。
実際、数十組の親子が毎日商店街を徒歩で2往復することも手伝って、商店街にも活気をもたらすように。
なんと、開園当時、通りにあった10店舗分ほどの空きテナントも、2年後にはほぼすべてが埋まったといいいます。
日当山無垢食堂
2019年には、ひより保育園から車で2分の位置に、レストラン併設型の物産館「日当山無垢食堂」を開設。
ひより保育園と取引のあった若手生産者が中心となって組合を作り、農産物を安定供給していく体制が出来上がりました。
鹿児島で一番新鮮で美味しい食材が揃う場所でありたい、という願いとともに、いつも賑わいをみせています。
レストランで使う食材は常に鹿児島県産率90%以上。食材の旬にあわせて全てのメニューは2週間ごとに入れ替わります。
またまた余談ですが、キライな野菜が結構多いわたくし。無垢食堂の持つ魔法の力で、和解してトモダチになった野菜もいらっしゃいます。
この場所で最近はじまったのが、「ただ朝ごはんを食べる会」。
羽釜でご飯を炊き、具だくさん豚汁を作って食べる、一汁一菜の朝ご飯。
大人500円・子ども250円で、誰でも気軽に参加可能。ただそれだけ!
エプロン、まな板、包丁を持参した方は、調理にも関わることができます。
日曜の朝に集った見ず知らずの人々が、食べるために話し合い、協力し合い、文字通り同じ釜の飯を食う。
田舎においてもコミュニティの希薄化が進んでいる昨今。こうして生まれていくゆるやかなつながり(=疎で多なコミュニティ)は、「食べる」という行為とその幸せを感じ直したり、地域の自治機能を高めていくうえでも、とても大事なインフラになっていくと感じます。
薩摩ピーカンファーム
2024年には、地域で積み重ねてきた活動の先に、霧島市の耕作放棄地をピーカンナッツの森へと再生させる構想も本格スタートしました。
その多くを輸入に頼っているピーカンナッツ。
苗木の第一人者が鹿児島にいるというご縁と、ピーカンナッツの生育に鹿児島の気候条件が適しているということで、古川と長らく交流が深かった京都のサロンドロワイヤル社の子会社として「薩摩ピーカンファーム」が誕生。
地域の方々と協力しながら地道に耕作放棄地を取りまとめていき、この3月には、ついに計800本・合計16種類のピーカンナッツを植樹。
3年後には80haまで拡大予定ということで、近隣の耕作放棄地が全てなくなってしまうことも現実的な未来となってきています。
学び場を軸にした幸福度の高い地域デザイン
ここまでの活動をまとめてみます。
保育園という学び場が起点となり、生産者や商店街をはじめとした地域コミュニティへと波及していきながら、自分たちの暮らす場所に根ざした小さな経済圏を生み出しつつあります。
そして、地域のつながりと経済が再生されていき、まちの幸福度があがっていくほどに、学びの環境もさらに豊かになっていきます。
こうした小さな循環は、霧島市のような田舎の自然豊かな環境でも、鹿児島市(中心部)のような都市の環境でも、形は違えど成り立ち得るものであると実感します。
また、小さな地域の一事例も、そのエッセンスを形式知化していくことで、国内外の様々な地域へと広がりをみせていくこともあります。
例えば、ひより保育園の活動をベースに出版したレシピ本『ひより食堂へようこそ 〜小学校にあがるまでに身につけたいお料理の基本』(グッドデザイン賞金賞、グルマン世界料理本アワードchild部門1位等受賞)も一つのきっかけに、食を軸にした保育園が各地で生まれていたり。
今回小学校をつくる姶良市の蒲生地区は、霧島市と鹿児島市それぞれから約45分ほどの距離。県本土で唯一人口が増加している姶良市の中心部からは、約25分ほどの中山間地域に位置しています。
新留小学校を新たにひらくことで、蒲生地区に加えて、姶良市の中心部に暮らすご家族、近隣地域である両保育園を卒業した子どもたちの通学や、教育移住・教育留学といった域外からの移動も生まれていくと考えています。
適度な新陳代謝が起き続けることで、地域の生態系に良い変化が生まれていくという視点については、また別に書きたいと思います。
本プロジェクトでは、小学校をつくることを起点として、学び場を軸とした自立した地域コミュニティを育み、その実践から生まれる知見をどのような場所でも活かせる形で共有し続けることで、各地の学校と地域が変容していく触媒となることを目指していきます。
第1回:「ふつうの学校」作ります。設立趣意のようなもの
第2回:「小学校」の概念を見つめ直してみる
第3回:食とことば とは
第4回:ランチルームとライブラリーの可能性
第5回:学び場を軸にした幸福度の高い地域デザイン〜保育園編〜(今回の記事)
第6回:学び場を軸にした幸福度の高い地域デザイン〜小学校編〜
第7回:「ふつう」という言葉のこそばゆい感 〜これであなたもふつう通!〜
第8回:ご存知ですか、教育基本法?
第9回:小学校とは地域にとってどういう役割の装置か?
第10回:【インタビュー】なぜ、このドキュメンタリーを撮るのか
第11回:「これが教育の未来だ」というコンセプトを手放してみてもいいのかもしれない
第12回 まちづくりは人づくりから
第13回:ことばによって世界の解像度を高めよ 〜国語の先生との対話から〜
第14回:第14回:早期外国語教育は必要か?
第15回:第15回:子どもたちの「やりたい!」を実現できる学校を、地域とともに創る
第16回:学校をめぐる地の巨人たちのお話〜イリイチ、ピアジェ、ヴィゴツキーなど
第17回:コンヴィヴィアリティ、イリイチの脱学校から
第18回:これまでのプロジェクト「森山ビレッジ」
第19回:現役中学生たちの、理想の小学校
第20回:理事紹介1・このプロジェクトにかける思い