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医学の"治療"、セラピーの"ケア"【カナダのアートセラピー3】

以前、私がアートセラピー武者修行で、単身バンクーバーへ飛んだ時のおはなしシリーズその3です。(その12はコチラ)

_____________________________________カナダのアートセラピー協会BCATA理事であるミシェルさんが、
職場へ案内してくれました。

バンクーバー市内、バーナビーにある精神保健センター。

余談ですが…

”市内”といっても非常に広く、
ダウンタウンから電車とバスを乗り継ぎ、
1時間かかる場所にありました。

さらに市街地から離れているためか、バス停の間隔が広く、
「一つでも間違えたら、とんでもなく離れた場所に降りることになるぞ…」
という方向音痴の私には、めちゃめちゃプレッシャーのかかる移動。

「カナダは、広い!」と実感…

さて、本題に戻ります。

「Provincial Assessment Centre for Community Living Services」

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広大な敷地に、発達障害や精神疾患に対応する施設と病院が入っています。


ここに来た人々には
医師、ナース、セラピスト、作業療法士などがチームになって考えた
三ヶ月の最善プログラムが提供されます。


訪問すると、にこやかな笑顔で迎え入れてくれた
アートセラピスト ミシェルさん。

まず施設の事務所内に、アートセラピストのデスクがあり、
そこでクライアントのカルテや書類などを管理しています。

そして、「キッチン」や「カウンセリングルーム」の並ぶ廊下を抜けると…

トレーニング器具のある「リハビリルーム」、
ピアノや楽器の置いてある「ミュージックセラピールーム」、

そして一番奥に
「アートセラピールーム」があります。


40㎡ほどはあろうかという広々とした部屋には、
いくつかの机や椅子。

広い場所で創作したい人も、
角のほうで壁に向き合って表現したい人も、好きな場所が見つかるような環境です。

絵具や色画用紙はもちろん、
様々な種類の画材、素材が並んで、さながら美術室のよう。

木工道具、Tシャツに絵が描けるセット、絵本の棚、
療育のための感情カード、などなど。
(写真がなく残念なのですが、雰囲気伝わりますでしょうか?!)


私の目を引いたのは、大量のハギレとミシン。

ミシンは持ち運びも難しく、置くスペースも必要ですが
カナダでは、アートスタジオを構えるセラピストが多いので、
ソーイングセラピーが、日本よりも普及している印象があります。

ミシェルさんは、
「実用的で役に立つものを作りたがる人もいる。
この人はピローカバーを作ったのよ」と一つの例を見せてくれました。

これは、そのピローカバーを使っている時間も、
セラピーが継続する、ということですよね。

私もアートセラピーで表現したアートを、部屋に飾ることを推奨することがありますが、

ただ見るだけでなく、セラピーとして意味を持ったアートが
生活の中で役割があり、手で触れて使うことが出来る、ということは、

日常に違いを作り出せるわけですから、
実生活にセラピーを持ち込めるだけでなく、
非常にパワフルに、実際の人生に影響をもたらしてくれるだろうと思いました。


そして、私がミシェルさんとのお話で一番印象に残った言葉。

「ここでのアートセラピーの目的は
 治療ではなく、”感情のケア”と”自分を好きになること”」


この記事の冒頭に書いたように、
このバーナビー精神保健センターでは、
各分野の専門家が、チームを組んでクライエントに対応します。

・医者&看護師は、医療(薬物治療)
・作業療法士は、日常生活を送れるような機能のトレーニング
・理学療法士は、身体能力の向上のトレーニング
・セラピストは、心のケア

つまり、
”治療”は医療が行なう、
”ケア”はセラピーが行なう。
それぞれの領域の得意分野を、しっかり住み分けして、提供されているのです。


向精神薬などの治療だけでは、
その人の「全体」が健康に向かうことは難しい。
だから、ケアも必要。

”治療”と”ケア”が両輪となって、その人を応援するからこそ、
体の面でも心の面でも、健康へ向かうことができる。

それが本当の回復だし、生きる力になっていくのではないでしょうか?


こんな風に、日本でもチームでクライエントさんへ関わることができれば、どんなにいいだろうか。と、私は思いました。(日本では非常に稀です)

そのためには、まず自分自身が信頼に値するセラピストに成長しなくては、もっと研鑽を積まなくては、と心を引き締めた学びでした。

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(この文章は、私が運営しているアメブロの記事を修正・加筆したものです)

ありがとうございます。サポートは、日本画の心理的効果の研究に使わせていただきます。自然物由来の日本画材と、精神道の性質を備える日本画法。これらが融合した日本画はアートセラピーとなり得る、と言う仮説検証の為の研究です(まじめ)。