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完璧な読書体験とまつげエクステ

夏木志朋さんの「二木先生」という小説を読んだ。 感動したのは、内容というより、ひと文字も無駄にしないという『ものづくりへの気概』のようなものへかもしれない。 届…

逃げ水
8か月前
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綿の鳥籠b

 この街は穏やかすぎる。  ひんやりとした木の上に寝そべる。俺に合わせて作られたかのようにぴったりと体に合う木のくぼみ。生まれたときからこの場所が決まっていたみ…

逃げ水
8か月前

逃げ水

夏は、死の匂いがする。 噎せ返るようなあつい酸素で肺を満たす時、 冷房の効きすぎた小さな箱に揺られて窓の外を見ている時、 最終バスを降りた素足を舐め上げる生温い風…

逃げ水
5年前
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完璧な読書体験とまつげエクステ

完璧な読書体験とまつげエクステ

夏木志朋さんの「二木先生」という小説を読んだ。

感動したのは、内容というより、ひと文字も無駄にしないという『ものづくりへの気概』のようなものへかもしれない。
届けるために、伝えるために、読む手を止めないために、どの層も置いていかないために、細部まで真剣に推敲され練られたものが面白くないわけがない。

ただ、技巧の『凄い』が先行しすぎてしまって逆に芯から心を揺さぶられなかったのは、多分私自身の問題

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綿の鳥籠b

綿の鳥籠b

 この街は穏やかすぎる。

 ひんやりとした木の上に寝そべる。俺に合わせて作られたかのようにぴったりと体に合う木のくぼみ。生まれたときからこの場所が決まっていたみたいに。でもこの大樹が刻んできた時間は、俺の生きている期間と比べたら永遠のように長い。そして俺がこの世界から去ったあとに紡ぐ時間も。もし俺がよぼよぼのじいさんになるまで生きて、寿命を全うして死んだとしても、こいつにとって俺といた時間は米粒

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逃げ水

逃げ水

夏は、死の匂いがする。 噎せ返るようなあつい酸素で肺を満たす時、 冷房の効きすぎた小さな箱に揺られて窓の外を見ている時、 最終バスを降りた素足を舐め上げる生温い風とじゃれる熱帯夜、 今も、 誰かがどこかで死んでいる。

ピンクと水色の夕焼け。宇宙が近くなる。

真夏の風景はいつも死の気配をスパイスのように孕んで、私を不安にさせて期待させて焦燥させる。 思念みたいなものってないと思う。 そうしたら地

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