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完璧な読書体験とまつげエクステ

夏木志朋さんの「二木先生」という小説を読んだ。 感動したのは、内容というより、ひと文字も無駄にしないという『ものづくりへの気概』のようなものへかもしれない。 届けるために、伝えるために、読む手を止めないために、どの層も置いていかないために、細部まで真剣に推敲され練られたものが面白くないわけがない。 ただ、技巧の『凄い』が先行しすぎてしまって逆に芯から心を揺さぶられなかったのは、多分私自身の問題な気がする・・。 しかしとにかく、拍手したくなる作品だった。 次回作も絶対読む〜

    • 綿の鳥籠b

       この街は穏やかすぎる。  ひんやりとした木の上に寝そべる。俺に合わせて作られたかのようにぴったりと体に合う木のくぼみ。生まれたときからこの場所が決まっていたみたいに。でもこの大樹が刻んできた時間は、俺の生きている期間と比べたら永遠のように長い。そして俺がこの世界から去ったあとに紡ぐ時間も。もし俺がよぼよぼのじいさんになるまで生きて、寿命を全うして死んだとしても、こいつにとって俺といた時間は米粒にも及ばないのだ。  いつものように、ゆっくりと瞼を下ろしていく。曖昧な暗闇の中

      • 逃げ水

        夏は、死の匂いがする。 噎せ返るようなあつい酸素で肺を満たす時、 冷房の効きすぎた小さな箱に揺られて窓の外を見ている時、 最終バスを降りた素足を舐め上げる生温い風とじゃれる熱帯夜、 今も、 誰かがどこかで死んでいる。 ピンクと水色の夕焼け。宇宙が近くなる。 真夏の風景はいつも死の気配をスパイスのように孕んで、私を不安にさせて期待させて焦燥させる。 思念みたいなものってないと思う。 そうしたら地球は悲しみと絶望でいっぱいになってとっくに爆発してるんじゃあないかしら。 流れ

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      • 逃げ水
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