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「山猫とレッテル。」/ショートストーリー

かつて。

彼女は不良少女と呼ばれていました。

本当は。

名前ばっかりでカッコつけていただけにすぎません。

悪いことはしてなくて。

警察に連行されるなんてこともなかったのです。

特に、良いこともしていなかったかもしれませんが。

でも。

名前だけは有名になってしまって。

美人だったせいもあるかもしれませんね。

それ以来。

ずっと彼女には「不良」というレッテルが貼られたままです。

彼女は後悔しました。

レッテルが剥がれず、そのままだったからです。

「不良少女」というレッテルが誇らしかった時もありましたが。

誰ひとり、本当の彼女を知ろうとはしなかったのです。

ラベルと同じで「赤ワイン」とラベルが貼ってあるのに。

わざわざ中身を確認しないのと同じです。

大人と言ってよい年になったとき。

彼女は自責の念に駆られました。

不良というラベルを一番最初に貼ったのは。

彼女自身だからです。

泣きながら彷徨っている彼女に。

なんでも屋がどうぞと言って、シール剥がしのスプレーに。

よく似た缶を彼女に渡しました。

「どうすればいいの。」

「ああ。ふりかければいいんだ。」

「これは売り物ですよね。おいくらですか。」

「お金は良いから。その涙を代わりにください。」

「それでいいんですか?」

「悔恨の涙を欲しがる好事家がいるので大丈夫。」

好事家がいるのは本当ですが。

実は泣いている瞳の輝きが。

昔、仲良かった山猫に似ていたので。

懐かしい想いから声をかけたのです。

そういう俗ぽっいところもあるなんでも屋です。

「注意書きがあるから、よく読んでね。下手すると体中がベタベタとかぱさぱさしてしまうから。」

注意書きを真剣に読む彼女になんでも屋が言います。

「後悔先に立たずっていうからさ。事前に誰かに相談してね。」

後悔をすることをしてしまうのが人間なんですがね。






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