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イチカバチカノコイ?

シュバルツ・ベア様宛の手紙を佐伯くんに渡すと、佐伯くんはニヤニヤして、「ラブレター?」と。

「####⁉︎⁉︎&&?!$¥€?‼︎‼︎⁉︎」


ほっぺがヒリヒリしているのか、佐伯くんは、右頰をスリスリ摩りながら、トボトボ1組へ。

佐伯くんの後ろ姿を見送りながら、わたしは、「ちょっと待った!」と声をかけるなら今のうちだよと心の中で何度も思っていた。

だって、あんな誹謗中傷な手紙。なんで、わたしは、あんなことを書いたのだろう? 

あの手紙を読んで、雅哉くんはどう思うかな? きっと怒って、わたしを嫌いになるだろう。

雅哉くんが好きなのに、わたしは、その雅哉くんが辛い思いしてるかもしれないのに、更に傷つけるようなことをした。

取り返しのつかないことになるかもしれない。

佐伯くんを止めるなら、今しかない!!


「雅哉、喜んでたよ!」1組から帰ってきた佐伯くんは言った。まだ中を見てないからね。中を見たら、きっと...フッ...

「本気の手紙?」佐伯くんが、心配そうに言った。ええ、本気よ。本気で、わたしは、自ら破滅の道に突き進んでいくの...

わたしは、この恋で、地獄を見るかもしれないのよ...

ええ、ええ、いいのよ、いいのよ。わたしはどうなったっていいのよ。わたしの身も心も犠牲にして、雅哉くんの命さえ救うことが出来たなら...

わたしは、放課後、メリーウェーブのほとりに咲く、水仙の花たちに、そう、そっと話しかけていた。

甘い香りがする。

「斉藤雪さんてさ、妖怪好きなの?」見上げると、柵の隙間から顔を出して笑っている雅哉くんが?! わたしは、驚き過ぎて、手につかんでいた水仙を引っこ抜いて、後ろに転がった。

「あははははははは!!」雅哉くんが爆笑している。そして、「ほんと、斉藤雪さんて面白いよね!」と言うと、またケタケタと笑った。そして、

「斉藤雪さんて、学校の七不思議信じてるんだね! じゃあ、この四角い石は何でしょうか?」呆気にとられているわたしなど、まったく気にせずに、わたしの横に埋まっている古そうな大きな石を指差して、雅哉くんは話し続けた。「正解は、井戸だよ!! 夜になると、ここに白い着物の女の幽霊が?!」と言いながら、幽霊の真似をしていた。

「斉藤雪さんてさ、水木しげるさんのマンガ好きなの? 僕も好きだよ。同じだね!」雅哉くんは、ちょっと照れながら言っていた。

「斉藤雪さんてさ...」「あの、あのさっ!!」わたしは、少し大きめの声を出した。雅哉くんの大きな目が見開き、口もニッと上がった。雅哉くんは嬉しそうにしている。

あのさ...の後は、バカなの? と言いそうになって止めた。だって、さっきから、一人で嬉しそうにペラペラしゃべってるけどさ。こっちの気持ち、分かってんの?

それに、なんで、そんなに笑ってるの? わたしに怒らないの? あんな酷いこと言ったのに。歌が下手だの、佐藤浩市のがカッコイイ!だの。(佐藤浩市は本当にダンディでかっこいい)

小6にもなって、妖怪信じてる、子どもっぽい雅哉くんは、まだおねしょもしてるし、死んじゃうこと考えてるなんて、弱虫で、きっと泣き虫で、まだお母さんと手繋いで寝てるんでしょっ?!ってバカにしたのに。

もしかして、分かってない???

「あのさ...の後、なに?」と雅哉くんはニコニコしている。わたしの話を楽しみに待っているみたいに。

「あ、あのさ、雅哉くんて、なんで、わたしのこと、毎回フルネームで呼ぶの?」と、わたしは聞いた。すると、雅哉くんは、いっそうニッコリして、

「だって、斉藤雪さん!て呼びたいから!!」

と、言った。

雅哉くんは、その後すぐに、向こうの道に停まった黒い車に乗って、行ってしまった。

「ボンボンの考えていることは、よくわからない...」水仙の花の甘い香りに包まれて、わたしはなんだか、胸がほんわかしていた。

「もうすぐ春が来るのかな?」わたしは、桜の木を見上げた。枝の蕾がまだ固そうに、ぎゅっとしていた。

続く



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