見出し画像

好きな人のことが不安症候群

こんな時は、春の歌をぜんぶ歌いたくなる。

例えば、福山さんの「桜坂」とか。あれ? あれは失恋の歌だっけ? そんなら、やっぱ、実に面白い「恋の魔力」がいいかな。あれは別に春の歌じゃないや。えーと、なんかこう、心がホカホカしてるんで、そんな歌を歌いたくなるんだよな。

「アイス溶けてっぞ! おいっ! アイスが!!」兄のうるさい声が遠くの方で聴こえている。うるさいから無視しよう。どうせまた文句言うんだし。

昨日だって。


「あいつはやめとけ。身分の差があり過ぎて、おまえが不幸になる。シンデレラだって、王子様と結婚した後苦労したんだぞ! 嫁姑問題とか、小姑がうるさくてとか」「美女と野獣は幸せになったわよ」「あれは架空の話だ」「シンデレラだってファンタジーでしょうよ!」

わたしの横で、兄と昭子さんが夫婦喧嘩。

「とにかくは、あいつはどっかの金持ちのボンボンなんだから、おまえのことはからかってるだけなんだから、傷つくのはおまえなんだから、やめておけ」兄はさっきからずっと、わたしが雅哉くんに恋することについての反対論を繰り広げていたが、

昭子さんの「あんたね、かわいい妹の恋路を邪魔したい気持ちは分かるけどもね。いい加減にしないとブッ飛ばすよ!!」という一言で、兄は黙った。


「あーあー、アイス落ちたじゃないか!!」「え?」

床に落ちたアイスをティッシュで拭き取りながら考えていた。身分の差のこと。雅哉くんとわたしの身分の差。

雅哉くんは、ラーメン屋さんでラーメンを食べて、目をキラキラさせていた。

電車に乗ってる時の、あのはしゃぎよう。生まれて初めて電車に乗ったのかな? 

庶民にとっては雲の上の存在の将軍様が、町人の姿になって、庶民の生活を見に来たような、そんな感じなのかな?

確かに、大岡越前に出てくる将軍吉宗は、庶民にとても関心を持っていて、時々変装して、町中に出てきてしまう。そんな将軍を見つけた大岡越前が、心配して後をつけて行って、将軍様を叱るという場面が、確かあったな。

雅哉くんが吉宗で、あのおばさんが大岡越前?!

いったいナニモノ? 雅哉くんて。

わたしも庶民だから、将軍の雅哉くんにとっては、興味のある存在? ただそれだけ?

確かに、わたしを面白いと言って笑っていた。

「斉藤雪さん!て呼びたいから!!」という雅哉くんの言葉を、わたしは、「斉藤雪さんが好きだから!!」と、勝手に自分に都合よく、差し替えてしまったのかも。

雅哉くんは、いつも、たくさんの雅哉くんファンに囲まれて、幸せそうな顔をしてる。あの中に、いいなづけがいるかもしれない。

いや、政略結婚の相手は、雅哉くんの親が、もうとっくに決めていて、もしかしたら、もうすでに城では、婚礼が執り行われていて。そのいいなづけは、公家の出のお姫様で。

あの日、水仙の花の甘い香りに包まれながら、あんなに幸せを感じていたのに。雅哉くんの笑顔を見れて、まるで春が来たみたいに、胸がホカホカしていたのに。

わたしの胸はいま、不安に満ちている。


続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?