海斗お兄ちゃんありがとう。
わたしは、ギターを弾く兄を、じっと見ていた。兄のギターを弾く指とわたしの指を見比べて、母の手を思い出していた。兄は母の手に似ている。指も爪も細長くて、きれいで。
わたしの指は...
丸っこい。きっと父に似たのだろう。
兄の優しさは? 母似なのかな? だけど、わたし達は、父と母の子ども達。きっと父も優しい人だったに違いない。きっと...
兄の部屋で、アゴ肘ついて寝転がって、兄のギターを聴いていた。「なんだよ」兄がふいにギターの手を止めた。
「もっと弾いてよ」わたしは言った。兄はまたギターを弾き始めた。これは、兄が作った曲。ギターだけの前奏で始まり、昭子さんの優しく力強い歌がそこに重なり...わたしは目を瞑る。
「海斗お兄ちゃんありがとう」兄のギターのメロディーに合わせて、そう小さく囁いてみた。兄は気付いていないようだった。
続く
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