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四年に一度の命日に。

わたしの祖母の命日は、四年に一度来る。今日はその日だった。

祖母のお墓は、うちから電車に乗って1時間くらいの都心にある。祖母の墓の寺にはお不動さんがいて、お不動さんまで行く道が商店街になっている。わたし達家族は、墓参りを終えると、毎回、その不動通り商店街を散策して帰る。

商店街の入り口には、床屋さんがあって、今日は、そこで家族3人で散髪してから、墓参りをすることにした。

わたしを担当する理容師さんは、金髪サラサラヘアのイケメンお兄さん。「おまえ、デレデレしてんなよ!」と横から兄。

「うるっさいなぁ! あっ! これから大事な用事があるので、かわいくしてくださいっ!!」わたしは、兄にイーッダッ!!をしてから、鏡に映るイケメンお兄さんに向かって、とびきりの笑顔で言った。イケメンお兄さんは、わたしの髪を手ぐしでとかしながら、「とびきりかわいくしようねっ!」と鏡の中でニッコリした。

数分後、鏡に映ったわたしは、まるでお姫様。「ちびまる子!」と兄は言うけど、髪型は確かにまるちゃんに似ているけど、前より可愛くなったのは確か。

少しだけ軽くなったような気がして、お不動さんまでの道々、わたしはスキップして歩いた。途中のお花屋さんで、お墓にお供えするお花を買った。

お不動さんの入り口には、お地蔵さんがたくさんいる。昔、ここらへんで災害があって、たくさんの子ども達が犠牲になったらしく、その供養なんだって。わたし達は、そこで手を合わせてから、お寺さんへ。

「よくお参りくださいました」と、ここの和尚さんの奥さんが出てきて、お線香に火をつけてもらった。わたしは、煙を思いっきり吸っちゃってゲホゲホ!!井戸で水を汲んで、斉藤家のお墓を目指した。

「おばあちゃん来たよ」と、祖母の墓に話しかけた。兄は、墓石の脇に書いてある戒名や命日を指でなぞって読んでいた。母は、買ってきたお花を袋から開けて、「もうすぐお雛様だからね」と言いながら、桃の花や色とりどりの花をお供えした。

みんなで手を合わして、わたしは心の中で、祖母にこう話しかけた。「おばあちゃん、わたし、幸せになりますっ!」

「なんつって、なんつって」とわたしは、右手でおでこをピンピンッとやりながら、お不動さんのおみくじを引きに行った。100円入れると、おみくじの箱から、ピンポーン!と家のインターホンみたいな音がして、ポトっとおみくじが出てきた。わたしは、それをポケットにしまった。「後で見ようっと!」

お不動さんから出ると、向こうまで、ずーっと続く商店街を歩き出した。「コロッケ食べよう!」お肉屋さんで、コロッケ3つ買って、3人で食べながら歩く。これが楽しいんだ!

「あっ!! チョコいちご大福だ!!」和菓子屋さんには、いろんな味の大福やおだんごや。「チョコ大福くらさいっ!!」わたしは、お財布から170円出した。と、その時、

「斉藤雪さん!!」と後ろで呼ばれた気がした。振り向くと、道に停まっている車の窓に、雅哉くんがいた!!雅哉くんは、わたしを手招きしている。

わたしは、チョコ大福を受け取ると、雅哉くんに駆け寄った。「斉藤雪さん、髪切った?」雅哉くんは、相変わらずニコニコしている。そして、「斉藤雪さん、唐揚げ食べる?」と、手に持っていた唐揚げの入った袋を差し出してきた。

「か、からあげ?」「そこのお肉屋さんの唐揚げ美味しいんだよ!」雅哉くんは、自分の口にも唐揚げまるごと入れてしまうと、モグモグ美味しそうに食べていた。

「どうも、雪の兄です。こんにちは」と、いきなり横から兄が出てきた。雅哉くんの顔がちょっと緊張ぎみになり、「か、唐揚げ食べますか?」と兄にも唐揚げを差し出した。兄は「どうもありがとう」と言って、唐揚げを1つつまむと口に入れた。

兄は「これ、うまいな! さすが高いだけあって、味が上品というか...」と味わいながら食べていたけど。「それ、そこのお肉屋さんの唐揚げだって」わたしは、すぐそこのお肉屋さんを指差した。兄は、「ボンボンなのに、こんな庶民的なもの食べてるんだな!」と、わたしにコソコソ言ってきた。

「斉藤雪さん、あのね、さっきね、そこの道でおみくじを拾っちゃったんだよ! ほらっ!」雅哉くんは、嬉しそうに大吉のおみくじを見せてきた。「待ち人来る。健康は病治る。学業励め。旅立ち良し。縁談目上の人の助けにより整う。ねっ! 全部いいことばっかり!!」

「ま、雅哉くん、あのね、わたしね、あのね!」わたしは、急に慌て出した。手に持っていたチョコいちご大福を、雅哉くんに差し出しながら、「雅哉くん、あのね、わたしね、雅哉くんがね...」わたしのあまりのテンパリ様に、兄も慌てて、「おいっ! おまえ、い、いま言うのか?」と、わたしの腕を抑えた。

その時、後ろで「どうも、いつもお世話になってますぅ」という声がした。振り向くと、あの、雅哉くんといつも一緒にいるおばさんが、わたしの母に挨拶をしていて、母も「こちらこそ〜」と。

そして、おばさんは、わたし達にも、「いつもありがとうね」と笑顔で言うと、「ごめんね、これからこの子用事があって」と申し訳なさそうにして会釈してから、運転席に乗り込んだ。

雅哉くんが「斉藤雪さん、またね! バイバイ!」と手を振ると、車の窓がウィーンと鳴って閉まってしまった。窓の中は見えないようになっていて、外からは、中で雅哉くんがまだ手を振っているかどうかも分からなかったけど、わたしは、車にエンジンがかかっても、車がゆっくり走り出しても、手を振り続けていた。なんだか、雅哉くんが、わたしとはぜんぜん違う世界に行ってしまうような気がしてたから。

「母ちゃん、あのおばさんと知り合い?」兄が母に聞いた。「いや、ぜんぜん知らないけど、向こうから挨拶してきてくれたから」と母。「ふーん」と兄。

「ないっ?!」わたしは、コートの両ポケットをガサゴソしていた。「なにが?」兄がまた慌てたように聞き返した。「おみくじ!!」わたしが、コートの両ポケットをどうやってかき混ぜても、おみくじが見当たらない。

「おまえは、まったく!!」兄は呆れたような声で言って、前を歩き出した。「おまえは、いつも、そうやってポケットにいっぱいものを突っ込んでおいて、出したりしまったりやってるから、落とすんだぞ!」兄は振り返って言った。

「誰かが拾ってくれてるわよ! きっといいおみくじだったのよ。幸せのおすそ分けができたと思えばいいじゃないの」母は、わたしの肩に手を乗せ、そう言った。ガックシ...

だけど、雅哉くんに会えて嬉しかったな。雅哉くん、なんでこんなところにいたのかな? もしかして、おばあちゃんが、雅哉くんに会わせてくれたのかな? 

しかも!! わたし、チョコいちご大福、雅哉くんにあげちゃった!! 少し遅れたけど、雅哉くんにバレンタインあげられた。

きっと、わたしが落としたおみくじは、大吉だったんだわ。きっと、そうよ。


続く


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