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わたし、あなたの彼女です。

卒業式の練習が始まった。卒業式では、4年生以上の在校生と卒業生とで、『呼びかけ』というのをやるんだけど。

先生が考えた台本を、1行や2行やで区切って、一人一人が、そのセリフを大きな声で言うっていう、そういうのなんだけど。

わたしが言うのは、「いつも、お兄さんお姉さんに教えて頂いてたのに」というセリフ。どういう意味かと言えば、自分が小さな1年生や2年生の頃は、いつも、高学年のお兄さんお姉さんに色々教えてもらっていたけど、6年生になったら、今度は教える立場になったよ、お兄さんお姉さんになったよ、という、そういう内容のセリフが、わたしのセリフの前後にあり、わたしは、その真ん中のセリフを言うことになったというわけ。

今日は、体育館で、その練習。

「斉藤さん、声ひっくり返っちゃってるから、もう一度」島田先生がマイクで言った。みんながドワっと笑った。マイクで言うことないじゃんかよ!! わたしがふてくされながら、やり直した後に、蚊の鳴くような声が聴こえてきた。

え?! え?! 誰??

みんながドヤドヤし出した。そのうちに、「雅哉くん、どうしたの?」「雅哉くん、大丈夫?」という女子達の声が聞こえて、島田先生がマイクで、「静かに!!」と一喝すると、体育館が一気に静まった。

島田先生は、「次の人、続けて」と言った。え? 雅哉くんは、あれでいいの? まったく何言ってるか聞こえなかったんだけど、、、


練習が終わると、雅哉くんは、体育館の端っこにいて、島田先生に何か言われているけど、ずっと首を横に振っていた。

いったい、どうしちゃったんだろう? 雅哉くん...


「雪ちゃん、今日はおかわりしないの? 雪ちゃんが大好きなわかめご飯なのに」咲ちゃんが、わたしの横で言った。「うん、食欲ないから...」わたしは箸を置いて、ため息をついた。「珍しいよな、斉藤さんがおかわりしないなんて」「うん、珍しいな。いつも一番におかわりしに行くのにな」鈴木くんと遠藤くんが後ろで話している。

わたしは、グルンと振り向き、「あのね!! わたしは、そんなにいつもいつもおかわりしてないから!!」と、しかめっ面で言った。

「白玉フルーツもーらいっ!!」わたしの前に座っていた佐伯くんが立ち上がり、手を伸ばしてきた。わたしも立ち上がって防御。佐伯くんが、そっと、「大丈夫だよ、雅哉は」と耳打ちした。


掃除の時間に、ゴミ捨てで靴箱に行くと、雅哉くんが靴を履こうと座っているのが見えた。わたしは、そうっと雅哉くんに近付いて、「まーさーやーくんっ!」と、思いっきり笑顔で、うつむいていた雅哉くんを覗き込んだ。

雅哉くんは、ビックリした顔をしたけど、すぐにいつもの笑顔で、「斉藤雪さん!!」と言った。

雅哉くんは、ランドセルを背負っていた。「早退するの?」わたしも靴を履きながら雅哉くんに聞いた。雅哉くんは、またうつむいてしまった。

「どうしたの? 雅哉くん?」わたしは、また雅哉くんを覗き込んだ。雅哉くんは、ぜんぜん笑っていなくて。でも、泣いてもいなくて。。

「雅哉くん?」雅哉くんは、わたしを見ると、無理して笑ってるような顔で、「斉藤雪さんは、いいな!」と言うと、「じゃあね!」と手を振って走って行ってしまった。

わたしの胸がキュウッてなった。

雅哉くん、わたしは、雅哉くんの彼女じゃないの? 違うのかもしれない。 彼女じゃないのかもしれない。

だけど、わたしは、雅哉くんの彼女になりたいよ。

続く


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