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お兄ちゃんは心配症(あーみん先生大好きです)

「焦げてっぞ!! おいっ! 焦げてるって?!」「え?」

わたしの目の前で、満月が焦げていた。「俺のお好み焼きを台無しにしやがって...」

今夜は家族でお好み焼き屋さんに来ている。「雪ちゃん、どうしたの? さっきからボーッとして」母が心配そうに、わたしの顔を覗き込んだ。兄が「ったく、俺のお好み焼きが...」とブツクサ言いながら、丸焦げのお好み焼きにパクついている。

「わたし、もんじゃが良かった!」わたしは、ホッペを膨らまして、ブサイク顔で兄を睨んだ。兄は、「もんじゃなんか、すぐに腹が空くだろ!」と、わたしに焦げたお好み焼きの4分の1を渡してきた。

「家で、大岡越前見たかった!!」わたしはまた、ブサイク顔で兄を睨んだ。「大岡越前は、先週で最終回でした〜」と兄は、焦げたお好み焼きの、もう4分の1をわたしの皿に無理くり置いた。

「お兄ちゃんのアホ!! うえーん!!」わたしは、いきなり泣き出した。兄も母も、いきなり過ぎて呆気にとられている。「雪ちゃんどうしたの?」母が慌ててハンカチで、わたしの涙を拭ってくれた。

「だって、お兄ちゃんがさ、雅哉くんは吉宗だから、あのおばさんは大岡越前だから、身分の差があるから、諦めろ!って言うからぁ!! うえーん!!」わたしは、さらに泣いた。「そんな意味不明なこと言ってねーよ!!」「あらあら、雪ちゃん、そんな大声で泣いたら恥ずかしいわよ」

わたし達は、お好み焼き屋さんの店を出た。「まだ食いたかったのに」兄は不満そうにわたしを見た。わたしは、兄に、あっかんべー!をした。

「そんなに好きなら、好きって言ってみれば?」兄が言った。驚いて兄を見ると、兄は空を見上げていた。今夜は、たくさんの星が瞬いている。

「どうなるかは分からないけど。結果、地獄を見ることになるかもしれないけど。言うだけはタダだ!」兄は鼻をすすった。「泣いてるの?」わたしは、兄の顔を確認した。「泣いてねーよ!! 花粉症なんだよ!!」兄は怒って言っていたけど、そう言いながら、わたしに飴をくれた。お好み焼き屋さんのレジにあった、ご自由にどうぞの飴。

「お母さん思うけど、雪ちゃんが、雅哉くんのことが好きっていう、その気持ちが大事なんだと思うよ。人を好きになるって素敵なことなんだから!」母はそう言うと、わたしの肩を抱き寄せて、ぎゅうっとしてくれた。

兄は、ずっと先を歩いていた。なんだか、寂しそうだった。わたしは、兄の背中に、そうっと内緒話をした。

続く

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