言葉をもたないから話したくなる
アニマルライド。公園にある石でできた動物の遊具。動かないし、ちょっと怖い。3歳児、4歳児はそれに跨っていたけど5歳児は乗らなかった。乗るとお尻が冷たくって、子どもたちには人気がなかった。
だけど、そのアニマルライドが人の心や身体をリカバリーしてくれるのならもっと、彼らと仲良くしていればよかった。子どもたちにももっと、触れさせてあげればよかったな。
しゃべらず、動かないアニマルライドのカバヒコが見守ってくれるやさしいお話しです。
リカバリー・カバヒコ 青山美智子
5話からなる連作短編集で、主人公たちは輝いていた頃の自分に戻りたい、治してほしいと思ったり、問題を抱えていたりと鬱々としています。だからこそ彼らは、カバヒコと出会うのだけど。
どのお話しもやさしく前向きになれるのだけど、第4話の『勇哉の足』が好き。運動が苦手な勇哉は、駅伝に出るのが嫌で足をねんざしたという嘘をついてしまいます。嘘だったのに、本当に足が痛くなってしまって。
走る(身体)が嫌だと、頭も嫌だとまちがえてしまう。嫌だと思う気持ちを遠くにおく。目の前の小さな事柄に集中する。
生まれてからまだ10年しか経っていない勇哉の心の動き、成長が愛おしい。10年しかでなく、10年だからこそ力強い。
10歳からだいぶ遠くにきてしまったわたしだけど、勇哉のように逃げたこともあるし、好きかそうでないかとりあえず試してきた。身体と頭と心を使って。たぶん、これからもそうしていくと思う。
5話の登場人物たちが、どこかでかすかにつながっているのがいい。かすかな、見えないつながり。
ずんぐりむっくりした体でペンキがあちらこちら剥げて、目の黒いところも部分的に白くなっていて、バカと落書きされ、笑いながら泣いているようなカバヒコ。
言葉をもたない、動かない、古びたカバヒコだからこそ信頼できるような気がします。アニマルライドは、冷たいと思っていたけど本当はあたたかい。