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【オラクルで創作】【書く習慣】AURORA GARDEN

「オーロラって女神アウロラが由来なんだって。」
スマホを見ながら彼女が言う。
彼女はいつも興味を持った物事をすぐに調べるのだ。
かといって、その知識が彼女の興味を捉え続けた事はないのだが。
彼女が熱意を持って性能を力説し、半ば押し切られる形で購入した小さな一眼レフも、オブジェと化して本棚に鎮座している。
「ふーん。」
一応返事をしておかないと独り言になってしまうので、相槌を打っておく。二人の間の数少ないルールの一つだ。

「オーロラの当たり年だってさ。そんなの分かるんだ。それに合わせてオーロラツアーもあるみたい。」
何がきっかけか分からないが、今日彼女の心を捉えたのはオーロラらしい。
「太陽の動きと関連してるからね。太陽の自転周期を計算すれば予測はつくんだよ。」
「夢がないわねぇ。願いが叶うとかオーロラの下で愛を誓うと永遠に結ばれるとか、そういうの出てこないの?」
「それもウィキに載ってた?」
「これは今私が考えた。」
そう言って彼女は笑った。


あれから何年経ったのだろう。
僕は真っ黒な空にぼんやりと浮かぶオーロラをレンズ越しに見ながら、そんなやり取りを思い出していた。

結論から言うと、二人でオーロラツアーへ行く事は叶わなかった。
別々の人生を選ぶ事になったのだ。
僕の方はそれこそオーロラの下で愛を誓ってもいいなと思っていたのだけれど。

彼女の足枷にはなりたくなかった。
好奇心の赴くまま、探究心の溢れるままに風に乗って運ばれていく花びらのような彼女が好きだったから。


「君の方が乗り気だったのにね。」
独り言を呟く。
僕は念願と言う程ではなかったけれど、頭の片隅にずっと引っ掛かっていたらしい『オーロラの当たり年』に導かれるようにここへ来て、今オーロラ見ている。

彼女が残していった一眼レフを構えながら、気付いた事がある。
僕は本当に彼女を愛していたのだという事。
彼女が帰ってくるのをずっと待っていたのだという事。
日々の暮らしの中でうやむやにして、納得したつもりでいた。
もう彼女の欠片も残っていないと思い込んでいた。

オーロラはゆったりと風にたなびくカーテンのように見えた。
あの風に乗って、彼女は今も新しい旅に出ているだろう。
彼女は僕の元へは帰ってこない。


あぁ、やっと。
僕は僕の新しい旅を始める事ができるかもしれない。

でも、もしオーロラが願いを叶えてくれるなら…
いや、止めておこう。
僕はカメラから目を離し、自分の目で眺めた。
新たな始まりの景色を心に焼き付ける為に。


oracle of the hidden world

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