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かりそめの止まり木

昨日からの積雪により、住まい周辺は一夜にしてすっかり雪国となった。
今朝もまだ吹雪いている中、雪かきに追われる。
除雪車がすぐそばまでは来てくれているので、その轍に繋げるべく、玄関からひたすらにスコップで掘り進める。
そこまで作業してしまえば、あとは轍を踏み外さぬよう、慎重に車を進めるだけだ。


子どもの送迎の為、大通りから逸れた道に入る。スタットレスタイヤでも容易に滑る道。
恐る恐る進んでいると、私はあることに気がついた。

小鳥が、轍を占拠している。
今まさに車で進もうとする先に、
轍の上をずらり縦に並んでいるではないか。

「ええっ、あぶないよー!」
「ひかれちゃうよ、あけてあけてー!」

親子で口々に叫んでみるものの、そろそろと進む車の前にさらに飛びこんでくる小鳥の姿。
野生の鳥にあるまじき行動じゃないか、と思った時ふと気がついた。

辺り一帯は雪景色。枝の先まで高く積もった雪。

あ、ちがう。
いま彼らには、逃げ場がないんだ!

さぎやとんび、カラスならともかく、積雪に埋まってしまう小さな体。
彼らの本来の棲家だけではなく、ありとあらゆる人工物にも雪は降り積もっている。

命をかけた夜通し耐久レース。
とんでももない自然界のSASUKE。

除雪車が通ったあとの濡れた轍が、唯一のかりそめの止まり木となっているのがみてとれた。

大通りに比べれば車通りが少ないとはいえ、多くの人が活動し始める時間帯。
ひっきりなしに行き交う車。
その隙間を縫うように、危険を顧みず、わずかな休息を求めて轍に降り立とうとする小鳥たち。

急に胸が苦しくなった。

低空飛行でできる限りの省エネを試みている。
鳥の腕や脚にも、乳酸は溜まるのだろうか。
鳥の足の裏は、どれくらい温度や痛みを感じるのだろうか。
励まし合うかのように、群れをなして、同じ動きを繰り返す鳥たち。

後ろに車が来ていないのを確認し、少しだけアクセルを緩めた。


今もなお降り続く雪。
日が昇り、気温が多少上がって、他に安心して休める場所が見つかっただろうか。
濡れた体を少しでも暖かいところで休められるといい。
どうか仲間を失うことなく乗り切れるといい。

大自然で生きるには甘すぎる、祈りにも似た願い。
窓の外の世界に、思いを馳せた。

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