シェア
天傘ノココ
2022年9月18日 06:18
板の上に置いた黄色い生地を、スティックで転がすと、卵が牛乳や砂糖で絡まった匂いが辺りに広がる。ギザギザの型の上に流し込んで朝の冷たい空気で冷やす。四つ葉町のあるこの島国の朝はとても寒い。例えば玄関の前にコップを置くとそのなかの水が氷るほどだ。急いで、瓶の中に入った”夢の欠片”を取り出して”乙女の涙”で濡らす。夢の欠片はこの雫で、うまくいけば逃げないでいてくれる。この一連から、「魔
2022年8月9日 00:25
アカツキは、象嵌細工が嵌め込まれた食器たちの中にケトルを発見した。夕闇が迫る空を映したような、そんなケトルはよく見ると星が泳いでいた。「このケトルは空を映す鏡でもあるのね。そして災いや幸福を映す……」 煌めく睫毛で瞬きをするアカツキ。アカツキは、胸からこみ上げてくるものを必死に抑え込んだ。見ると、ケトルの蓋に白い月が浮かんでいる。「いけない、白夜が近付いているわ」
2022年8月8日 17:43
「大きな土鍋、薬品棚。これだけでも魔法の研究ができる。それにしてもかび臭い」 土鍋は底が見えないほど埃がたまり、薬品棚にはカビの生えた液体がこべりついていた。アカツキは唇を親指でさすり、考える仕草をした。「アブラカダブラ、この家をきれいにしておくんなさい」 癖のある唱え方で呪文を口にすれば、古代から伝わるアブラカダブラが功をなす。アブラカダブラは便利な魔法の呪文で有名なのである。