短編小説・童話「ふたりのまじょ」
とあるもりのおくふかくに、ふたりのまじょがいました
ひとりはしろいいえに、
もうひとりはくろいいえにすんでいました。
まじょたちはふしぎなちからをもっていました。
それは、はなしたことをげんじつにかえるまほう。
おかしがほしいというだけで、さいげんなくおかしがたべられるのです。
ごはんにようふく、おもちゃなど、なににおいてもことかくことはありません。
なんとみりょくてきなちからでしょうか。
そのちからをつかい、まじょたちはふたりたのしくくらしていました。
そんなあるひ、とあるせいねんがそのちからのうわさをききつけて、しろいいえをたずねてきました。
かれはしろいいえのまじょにいいました。
「わたしにさいのうとみりょくをください。」
それをきいたまじょはふしぎにおもいました。
かれのようしやくらしぶりはごくありふれたもので、なんらもんだいのないようにみえたからです。
「何が故、それらを求むのですか。」
まじょはかれにたずねました。
するとかれは
「まわりのひいでたものたちのような、かがやかしいじんせいをおくりたいのです。」
とこたえました。
かれのこたえにまじょはなっとくすることができませんでした。
まじょは、そのねがいはかなえるべきではない、とちゅうこくしましたが、かれはきくみみをもちませんでした。
けっきょくそのまじょは、たのみをことわりました。
つぎにそのせいねんはとなりのくろいいえをたずねました。
かれはくろいいえのまじょにも
「わたしにさいのうとみりょくをください。」
とたのみました。
そのまじょもかれにおなじことをたずね、
かれはおなじことをはなしました。
かれのこたえにそのまじょは、なるほどとうなずきました。
そして、やさしいまじょのかわりにそのねがいをかなえてやろう、といい、かれのねがいをかなえました。
かれはのぞみどうりのへんかをとげ、
まんぞくげにかえりました。
それからすうねんご、くろいいえにふたたびあのせいねんがやってきました。
かれのみなりはずいぶんとよいものにかわっていましたが、かおにはつかれがいろこくのこり、ひどくやせほそっていました。
かれはいえにはいるなり
「こんなことはのぞんでいない!」
とまじょにさけびました。
くろいいえのまじょは、そのこえをむししました。
するとかれはまじょのむなぐらをつかむと、まじょにばりぞうごんをあびせました。
しかし、まじょは
「私はそなたの言葉をありのままに叶えてやった」
としかいいませんでした。
するとかれはげっこうし、こういいました。
「きさまのまほうのせいで、わたしはかぞくやゆうじんをうしなうことになったのだ。ふかんぜんなまほうをかけやがって、ゆるさない!」
そのとき、さわぎにきづいたしろいいえのまじょがかけつけてきました。
「騒々しい。一体何があったというのですか。」
くろいやねのいえのまじょは
「十分に想定しえた未来を、あたかも己が失態と容認できず、責任を私に押し付けられているといったところかな。あれからそなたがどのような顛末を辿ったかは知らないが、少なくとも私には魔法をかける時点では不幸になる未来しか見えていなかったし、それを見越して魔法をかけなかった優しい魔女の言葉に耳を傾けなかったそなたは怠惰であったとしか言いようがない。才能や魅力を持てば、その分妬み嫉みからくる人間関係の破綻や、能力に対する他人から期待や責任での神経の摩耗はついて回る。それらを魔法のせいにするのはお門違いでしょう。」
とこたえました。
するとせいねんはさらにふんがいし、
「ちがう、きさまらのせいだ!」
とどなりつけ、くろいいえのまじょをつきとばし、しろいいえのまじょになぐりかかりました。
ききかんときょうふをいだいたくろいいえのまじょは、せいねんのくびをつかみ、とうぶをかべにたたきつけ、せいねんのずがいをはかいしました。
がんきゅうはとびだし、ちとのうずいえきがあふれてきました。
くろいいえのまじょは、しろいいえのまじょのめもとをてでおおい、そのさんじょうをけっしてみせませんでした。
くろいいえのまじょはもどれといって、せいねんをいきかえらせました。
いきかえったせいねんは、すうこくまえのしのけいけんでぱにっくにおちいりました。
そしてくろいいえのまじょをみると、ひっとおびえたこえをあげてにげていきました。
せいねんがでていったのをみて、くろいいえのまじょはようやく、しろいいえのまじょのめもとからてをはなしました。
しろいいえのまじょは、くろいいえのまじょにけいいをたずね、せいねんはじぶんがまちがっていたとうけいれ、まちにかえっていった、とくろいいえのまじょにおしえてもらいました。
さいごにひとつだけ、しろいいえのまじょはききました。
「どうしてあなたは彼が不幸になると分かっていて魔法をかけたの?」
くろいいえのまじょはすこししゅんじゅんしてから、
「いや、もちろん幸福にするために魔法を使ったよ。不幸になってでも現実を教えてやるのも、優しさの一つだ。それに、きっと彼はこれから幸福を噛み締めて生きることが出来る。それこそ、長期的にみれば幸福に繋がるんじゃないかなと思ったからだよ。」
そしてくろいいえのまじょは、しろいいえのまじょのあたまにてをあてると、
ほんらいならせいねんがきょうじゅするはずだったこうふくを、だまってしろいいえのまじょにあたえました。
しろいいえのまじょはとびきりのえがおになりました。
ふたりはそれからもなかよくくらしましたとさ。
そんな夢を見た。
夢というものは不思議だ。
なぜかすぐに忘れてしまう。
でも一生忘れない夢もある。
夢が怖くて眠れない夜もあった。
いつの間にか夢は夢と割り切れるようになっていく。
着替えを済ませ、軽い朝食を食べる。
今朝は卵かけご飯にインスタントの味噌汁だ。
出勤前の身支度と軽い家事を済ませ、両親と弟の仏壇に手を合わせる。
そこには黒焦げになった人形や、
私達家族が住んでいたあの白い家の前で撮った写真が飾られている。
写真も少し燃えてしまっている。
あの家に残してきたもう一人の私、白い家の魔女、を思い出す。
もう帰らない家族を望むような不幸な願いをひた隠しにしながら、彼女を抱えて生きていく。
今までも、これからも。
火災で全てを失った黒い家の魔女は今日も1日を繰り返す。
作者コメント
もともとは絵本のようなものを書こうとした作品ですので、かなり読みづらいと思います。
ひらがな大量ゾーン後は児童向けではないので、
小さなお子さんには読み聞かせなくて結構です。
あと、僕の癖で少しグロいシーンがございますが、そこはくろいいえのまじょに倣っていただけると幸いです。
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