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中世ラテン語文書の読解 - 土地や権利の譲渡文 -


はじめに

前回前々回の記事では、中世ラテン語で書かれた証書の挨拶文について解説しました。

今回はさらに一歩進んで、中世ラテン語で書かれた証書の読解をしていこうと思います。本記事では「証書に書かれた土地や権利の譲渡内容について読み解く」ことをテーマに解説を進めていきます。

中世の証書は時代を経るごとに様々な発展を遂げていき内容も複雑になっていきます。そのため、この記事ですべてのパターンを網羅することはできませんが、まずは12世紀初頭の比較的シンプルな形のものを例に挙げて解説をできればと考えています。

今回対象とする文書

今回対象とする文書は『アングロ=ノルマン王の事績録』第二巻にある、イングランド王ヘンリ一世が発給した以下の二通です。

Henricus rex Angl' Rogero Bigoto et Rotberto capellano et O. hostiario, salutem. Sciatis quod ego reddidi Herberto episcopo terram ecclesie quam Ranulfus episcopus de eo tenuit, et calumniam vadimonii quam in eadem terra habebam totum perdonavi episcopo. T. Rotberto episcopo Lincolnie. Apud Westmonasterium. In natali domini.

RRAN, ii, App. no. II

Henricus rex Angl' J. episcopo Batensi et A. camerario et omnibus baronibus suis Francis et Anglis de Sumersete, salutem. Sciatis me concessisse deo et sancte Trinitati et monachis de Cluniaco illam terram de Prestetun quam Ansgerus Brito eis dedit. Testibus Waltero filio Ansgeri et A. camerario et R. de Bello Campo et aliis. Apud Chigebergam.

RRAN, ii, App. no. XXXV

どちらの文書も、一文目が挨拶文となっており、二文目に土地や権利の譲渡内容が書かれています。その後証人欄、発給地、発給日 (前者の文書のみ) と続きます。今回解説の対象となるのはその二文目です。

本文解説

では早速、どのような土地や権利譲渡の内容が書かれているのかを見ていきましょう。

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