人と人をつなぐ「ホンモノの手作りチョコレート」ワークショップー野川未央さん(APLA)
日本を含むアジア各地で「農を軸にした地域づくり」に取り組む人びとが出会い、経験を分かち合い、協働する場をつくり出すことを目指して活動するNPO法人APLA(あぷら)。海外事業の東ティモールやインドネシア、日本国内の広報事業を担当し、「ホンモノの手作りチョコレート」ワークショップを全国各地で実施している野川未央さんにお話を伺った。
DEAR News195号(2020年2月/定価500円)の「ひと」コーナー掲載記事です。DEAR会員には掲載誌を1部無料でお届けしています。
世界、そしてアジアとの出会い
野川さんは高校時代に1年間スウェーデンに留学し、南部マルメの高校に通った。2000年当時はすでにスウェーデンは移民・難民受け入れの先進国で、高校にもパレスチナ、レバノン、ユーゴ、トルコなど、外国生まれの友人が多くいた。あるパレスチナ人の友人は、豊かで安全なスウェーデン社会で暮らせることに感謝しながらも、「いつか故郷に帰りたい」と願っていた。
野川さんは、同世代が置かれた境遇に不条理を感じ、将来、難民問題など国際問題の解決に取り組めたらと、国際関係を学べる大学に進学した。
大学では当初、国際関係論などの授業を中心に受けたが、概念的な内容が多く、心に響くものが少なかった。また、児童労働問題にも関心を持ち、フリー・ザ・チルドレン・ジャパン(FTCJ)の大学生メンバーとして活動し、仲間と一緒にインドに足を運んだ。そんな中、「ヨーロッパの植民地となる遥か昔から、アジアでは人々が海を渡り、独自のネットワークを築いてきた」と、ナマコやフカヒレを見せながら授業をする面白い先生と出会った。村井吉敬先生 * だった。
*村井吉敬(1943年-2013年):早稲田大学アジア研究機構、APLA共同代表などを務める。インドネシアを中心に東南アジアを歩き、「小さな民」の声を聞いてきた。日本の援助や資本が東南アジアの地域社会に与える影響を調査するとともに、オルタナティブな開発のありかたや、人びとのつながりを模索する。主著に『エビと日本人』(岩波書店、1988年)、『エビと日本人Ⅱ』(岩波書店、2007年)、『ぼくが歩いた東南アジア』(コモンズ、2009年)など。
村井先生の東南アジア社会経済論の授業を受けて、目から鱗が落ちた。その後入った村井ゼミでは、とにかくフィールドワークが重視された。野川さんは大学の隣の聖イグナチオ教会のミサに集まるフィリピン人や、大阪の西成に住む在日コリアン1世のハルモニに話を聞いた。「教室の外で多くのことを学んだ」という野川さんは、対処療法的な援助ではなく、日本の社会そのものやアジアとの関わりを変えていかなければ問題は解決しないと考えるようになった。
写真:フィリピン、東ティモール、ラオス3か国の若者の交流
人と人が出会い新たなものを生み出していく
卒業後は、自分たちの暮らしや政治を変えていきたいと、自然食品関係の会社に就職するも体調を崩して退職。村井先生の紹介でインドネシア民主化支援ネットワーク(NINDJA)の事務局でアルバイトを始めた。
ちょうどその頃、日本ネグロス・キャンペーン委員会(JCNC)からAPLAへの組織変更の議論が始まり、野川さんは2008年のAPLA設立時から事務局スタッフとして関わることになった。「自分たちの暮らしや食べ物と東南アジアのつながりを見つめ直し、人と人が出会って新たなものを生み出していく。そんなAPLAの活動が自分にフィットしたのです」
APLAの活動のひとつに地域間の交流がある。日本の消費者とフィリピンの生産者との交流は前身のJCNC時代から盛んだったが、APLAではアジア地域の農民たちが知恵を交換する交流の場を作り、一人ひとりが地域で主体的に活動を踏み出す後押しをしている。
2010~11年にフィリピンと東ティモールの農民の交流を、2016~17年はフィリピン、東ティモール、ラオスの三か国若手農民交流を実施した。「言葉が違うのでファシリテートは大変ですが、参加者に外の世界の人々との出会いの場を提供することは、各地域で活躍する若者の意欲や自主性の向上につながっています」
また、2013年には「ホンモノの手作りチョコレート」ワークショップをスタートした(写真は「こどもエコ広場新宿」でのワークショップの様子)。インドネシア・パプア州で人と環境に配慮して育てられたカカオの魅力をどうしたら日本で伝えられるか…。お世話になっている吉田友則シェフに相談したところ、「出来上がったものを売るだけではつまらない。カカオという原料を生かして、イチから作るチョコレートを広めてはどうか」と言われ、手探りでワークショップを始めてみた。
「やってみたら大好評で、教育的な効果もすごくありました。チョコレート好きは多いのに、ほとんどの人はどうやって出来上がっているのか知らない。知らないことの裏側には、児童労働などの人権問題、プランテーション開発問題などがあります。京都で実施した時、参加した子どもが『もう森林伐採して作られたティッシュは使わない』と言って驚きました。木材と紙の話はしなかったのに、身近なものとつながったんですね」。このワークショップをきっかけに、カカオの魅力やパプアの生産者のことを伝える絵本『イチからつくるチョコレート』(農文協)も生まれた。
沖縄の問題に自分事として取り組む
野川さんは仕事の休みを利用して沖縄の辺野古や高江に通っている。大学時代に沖縄を訪問し、基地問題は知っていたものの「社会にある諸問題の一つ」という認識でしかなかった。
2013年に沖縄北部高江での米軍ヘリパット建設を描いた三上智恵監督の映画『標的の村』を見て、他人事だった自分を見つめ直した。インドネシアや東ティモール、フィリピンなどで学んだ日本の戦争責任、戦後の経済進出などの視点で沖縄を見てみると、同じ構造が見えてきた。
何ができるのかわからなかったが、
ここから先は
¥ 100
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?