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お通しです

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とりあえず、の気持ちで読んでほしい文章をまとめました。まずはこちらで一杯どうぞ。
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記事一覧

TOKIOの長瀬です。

「TOKIOの長瀬です。」 人生で何度この自己紹介をしてきただろう。勿論、私はTOKIOの長瀬ではない。北海道に住むしがない一般人の長瀬である。しかし苗字を説明するとき、「TOKIOの長瀬です。」と伝えると、相手は漢字を思い浮かべやすいし、すぐに名前を覚えてもらえる。私の人間関係の始まりはいつもTOKIOの長瀬と共にあったと言って差し支えないだろう。 TOKIOの長瀬が世に出るまで、長瀬という苗字はマイナーだったと母は言う。名乗っても「ナナセ?」「ヤナセ?」と聞き返される

済印を押したい

私の人生を動かしているのは済印である。「済」という字を丸で囲った、あの済印である。タスクを手帳に書き留め、やり遂げたら済印を押す。その瞬間がたまらない。 書類を提出したら済。排水口を掃除したら済。映画を予約したら済。 仕事はもちろん、家事や趣味などあらゆることをリスト化している。覚えておかなくてもいいような小さなことでも一々書いている。その分だけ済印を押せるからである。祖父母に会う回数と済印を押す回数は多いに越したことはない。 済印がなかったら、私の生活はどれだけ堕落し

ググれアレ

カフェでランチを食べた。おしゃれな洋風の惣菜に、パンが付いているランチだった。そのパンがとてもおいしかったのだが、名前をど忘れした。 アレだよアレ、割と有名なやつ。 しばらく考えたがどうしても出てこないので、ググることにした。そのパンの特徴は、アレだ。表面にアレがくっついている。「パン アレ」とググれば確実に出てくる。しかし、アレが思い出せない。 アレだよアレ。アレというのはつまり、アレの一種である。 アレだよアレ、おしゃれなアレ。お茶とかにもあるアレ、なんて言うんだ

焼き鳥は、はじまりの合図

今夜は焼き鳥でビールいったれ、と思い付き、イオンの中にある持ち帰り専門の焼き鳥屋に寄った。 いつもはそんなに混んでいないこの店だが、今日からゴールデンウィークということもあり、私の前にすでに四組ほど並んでいる。最後尾につきながらガラスケースの中を覗くと、売り切れている種類もちらほら。どうやら私のような思い付きをした人間が他にも大勢いるようだ。焼き鳥×ビールはゴールデンウィークはじまりの合図。ヤバイ過去は捨てて無邪気な笑顔でみんな幸せ。 で、どの種類を買おうか覗き込んでいる

食べられるさかな

その日、私は仕事帰りにとある店の暖簾をくぐった。そこは店主が一人で切り盛りする小さな居酒屋で、メインは焼き鳥だが魚介の品揃えも豊富。仕入れによって変わるメニューの数々は酒飲みを飽きさせない工夫に満ちており、もはやその存在自体が酒盗とも言える私のお気に入りの店のひとつであった。 私はいつも通り生ビールを注文し、すぐさまお品書きを手に取った。最高にそそるラインナップに胸を高ぶらせ、うきうきと眺めていたその時、衝撃が走った。お品書きの最後の方に「それ」はあった。あったのだ。 「

KAZUYAを忘れない

忘れられない美容師がいる。その名をKAZUYAという。 あの頃の私は特定の美容室に通わず、ホットペッパービューティー初回クーポンを引っ提げ、気の向くままに美容室を渡り歩く野良客であった。社会人として働いてはいたが、薄給な上に如何せん酒を飲み過ぎるので年がら年中金欠に悩まされていたし、十数年間、数カ月おきに美容室のお世話になる中で、実際のところ誰に切ってもらおうと劇的な変化は望めないと思い至り、それならば初回クーポンの恩恵を存分に享受することで美容室代を節約するに越したことは

ガスのおっちゃんとの心理戦

昨年の年末頃の話。 ピーピーピーという音で目が覚めた。聞いたことのない音だった。時計を見るとAM4時。普段なら絶対に目覚めない時間である。 睡眠への執着が赤子並みである私は、ピーがどうした、ピーなぞ知らん。無視して二度寝を決め込もうと瞼を閉じたが、聞き慣れないピー音というのは人をやたら不安にさせるもので、その不安は私のスムーズな入眠を阻害、やむを得ず、こんな時間にピーピー鳴いている不届き者の正体を確かめるべく、布団から這い出る羽目になった。 リビングに行くとその正体はす

嫌なことがあった日は「輝きながら・・・」のPVを見て徳永英明を心配しよう

徳永英明の「輝きながら・・・」。優しく切ないメロディと徳永英明の澄んだ歌声が織りなす至極のバラード。言わずもがなの名曲である。 しかし、この曲の第2の魅力はPVにある(最近はMVという言い方が主流だが、ここはあえてPVと呼びたい)。この世には変なPV、数あれど、こんなにも情緒不安定なPVは他にないのではなかろうか。 まずは海が広がり、波を映し出す。 そこに曲のタイトル。 「KAGAYAKI NAGARA」 小学生ではじめてローマ字を習った時、そうか、この方法でアップ

私はおっさんにセクハラしているかもしれない

先日、職場での出来事。 私の上司である50代のおっさんが、人事の業務で高校生と面接をして事務所に戻ってきた。そしてパソコンで作業をする私に「今日面接した高校生、セーラー服だったよ」と言った。 その時、私が真っ先に思ったのは、「このエロに発展しそうな会話、どのように対応しようか」ということだった。 「え~? 部長そんなこと考えて面接してたんですか~?」とイジるか、「そういう目で見てるとセクハラって言われちゃいますよ」と軽く忠告するか。 考えを巡らせながら、「へえ、セーラ

小学生が道端で入れ歯を拾った話

小学校2年生くらいの出来事である。 学校からの帰り道を一人でぼんやり歩いていた私は、歩道の前方に見慣れない物体が落ちているのを発見した。最初はそれが何なのかわからなかったが、だんだん近付いていくにつれ、白とピンクの鮮やかな配色、そしてその独特のフォルムにピンとくるものがあり、心臓がドクンと波打って、気付いたときには全力でその物体に駆け寄っていた。入れ歯だった。正真正銘、上の総入れ歯だった。 目の前に入れ歯が落ちている。この状況に興奮しない小2が果たしているだろうか。だって

クリスマスに街コンでおむすびを握った話

7年前の冬のことである。 クリスマスを目前に控えた街では、赤と緑の配色が増え、あらゆるものに電飾が取り付けられ、クリスマスソングがエンドレスリピートされていた。道行く人々も心なしか浮き足立っているように見えなくもない。 そんな中、私にはクリスマスの予定が何もなかった。恋人もいなければ、こういう日に遊んでくれそうな友人の当てもない。まあ別にクリスマスだからといって必ずしもイチャイチャ、またはドンチャン、もしくはフォッフォしなければならない決まりなどない。だいたいキリストは未

酒を飲み過ぎたおかげで天皇陛下からレスを頂戴した話

時は2018年8月5日。北海道の短い夏、真っ只中の日曜日のこと。目を覚ますと、それはそれは酷い二日酔いであった。 前日、私は結婚式に出席し、素敵な女性とゴールインした友人を祝い、ワインをたくさん飲んだ。そのまま二次会にも出席し、ビールをたくさん飲んだ。更にみんなと別れたあと一人で寄り道をし、日本酒を飲んだ。そして帰った。おそらく帰った。記憶はないが、こうして無事に自室のベッドにいることが何よりの証拠と言えるだろう。そう、これは納得の二日酔い。ただ楽しい夜があった、それだけの