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済印を押したい
私の人生を動かしているのは済印である。「済」という字を丸で囲った、あの済印である。タスクを手帳に書き留め、やり遂げたら済印を押す。その瞬間がたまらない。
書類を提出したら済。排水口を掃除したら済。映画を予約したら済。
仕事はもちろん、家事や趣味などあらゆることをリスト化している。覚えておかなくてもいいような小さなことでも一々書いている。その分だけ済印を押せるからである。祖父母に会う回数と済印を押す回数は多いに越したことはない。
済印がなかったら、私の生活はどれだけ堕落していたか知れない。
済印を押したいから、スニーカーも洗うし、箱でもらったリンゴを食べ切る工夫も惜しまないし、多少遠回りでも銀行に寄る。済印があるから頑張れる。私は済印を押し、済印は私の背中を押す。
一度、済印を紛失してしまったときは大変だった。何もやる気が起きなかった。やっても済印を押せないから意味ないのである。
早急に新しい済印を手に入れる必要があったが、済印を買いに行くというタスクを成し遂げる気力が済印がないので湧かないという最悪の詰みであった。どうにかアマゾンで注文し事なきを得たが、私はもう済印なしでは生きられない体なのだと悟った次第である。
私はこれからも済印と共に生きてゆくのだろう。私が人生をやり終えた暁には、額に済印を押して納棺してもらいたい。たぶん押してくれなきゃ成仏する気になれないと思う。
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