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DSDsの昔の「性別割り当て」と現在の「性別判定」の違い。そしてトランスの皆さんの言う「割り当てられた性別」との違い。



はじめに


 DSDs:体の性のさまざまな発達(性分化疾患)で,生まれたときに外性器の形状だけでは性別がわかりにくい赤ちゃんの「性別判定」は現在どのように行われているのでしょうか? それは昔の「性別割り当て」とはどう違うのか?

 また,トランスジェンダーやノンバイナリーの皆さんの領域で,「割り当てられた性別」という表現が使われることが多くなっています。

 ですが,DSDs:体の性のさまざまな発達(性分化疾患/インターセックス)の領域で使われる「性別割り当て」とはまったく意味が違うのです。

 ここではその違いについて解説します。

DSDs:体の性のさまざまな発達とは何か?


 最初に簡単に。学者さんでも今でも誤解しているのですが,DSDsは「男女以外の性別」でも「男女両方の特徴を併せ持つ人(両性具有)」でもなく,「生物学的には生まれつき,女性(female)にも男性(male)にもさまざまな体の状態がある」ということです。

 「両性具有」は神話上の存在でしかなく,言ってみれば光過敏症や多毛症の人を使って「吸血鬼や狼男の人もいる!」「狼と人両方の特徴を併せ持つ人が存在する!」と言っているようなものです。

「両性具有(男女両方の特徴)」は狼男や吸血鬼と同じく神話的なファンタジーに過ぎない


「インターセックス」を標榜する当事者団体も「男女以外の第三の性別」は求めていない。


 まず前提としてはっきりしておかねばならないのは,実は各種DSDsのそれぞれの患者家族会・サポートグループはもちろん,「インターセックス」を標榜する当事者団体も,最初の最初から男女以外の「第三の性別欄」は求めていない。むしろ自分たちを利用してそういう政策を進めていくことに強く反対しているということです。

 ジェンダー学者さんも実はまったく理解していないのですが,「インターセックス」を標榜する当事者団体でさえ,出生時に性別判定が必要な外性器で生まれる赤ちゃんに対しては,エヴィデンスに基づく女性(female)か男性(male)かの「性別判定」を医療に求め続けています。

 ジェンダー論の先生でも,DSDsの話を曲解して,「男女以外の中間の子どもが生まれる!」「性自認しか指標はない!」といまだに誤解しているのですが,「出生時の外性器の形状・サイズの違い」についても,ただ単に女性器が大きな状態で生まれる女の子(female)や,男性器が小さく生まれる男の子(male)ということに過ぎません

 そして現在ではありがたいことに,分子生物学の進展などにもより,医療の領域でもエヴィデンスに基づくしかるべき検査によって,外性器の違いを持つ赤ちゃんも女児(female)か男児(male)かが判明するようになっているのです。

DSDsの領域での「性別割り当て」とは


 DSDsの領域で問題だったのは,外性器の大きさだけで女性・男性の「割り当て」がされてしまった1950年以降のケースです。

 実は当時からつい最近まで,出生時に,外性器を引っ張って2.5センチ未満だと,男児(male)だとわかっている赤ちゃんでも陰茎切除・精巣摘出(つまり「去勢」)の上で,本人にはまったくその事実を言わず,女性ホルモンを打ち,「あなたは女の子だ」と言い続け,無理やり女の子に育てるというケースです。

 これで有名なケースがいわゆる『ブレンダと呼ばれた少年』で有名なジョン・マネーという性科学者による「双子の症例」です。

 このジョン・マネーによる「治療法」(「マネー・プロトコル」と呼ばれています)は,言ってみれば,男児(male)を去勢して人工的にMtFの性同一性障害にするような狂気の実験だったわけです。

 このマネー・プロトコル(割り当て)で特に被害を受けたのは,DSDsのひとつにもされている「総排泄腔外反症(そうはいせつくうがいはんしょう)」という状態で生まれる男の子(male)の場合でした。

 総排泄腔外反症は,胎生期の骨盤形成不全のためにおヘソ以降の腎臓などの器官が外側にはみ出て生まれる状態です。下の画像でお分かりいただけると思うのですが,出生時に見た目だけでは性別がわかりません。

 ですが,しかるべき検査の上で,男児(染色体がXYで体内に精巣がある。しかし陰茎は形成されていない)か,女児(染色体がXXで卵巣がある。ただし子宮は二分している場合が多い)かが判明します。

総排泄腔外反症(画像の赤ちゃんは男児と判明)


 ただ,このような男児(male)の場合,陰茎を作ることが難しいということで,かなりの男の子が精巣を取られ,女性ホルモンを打って無理やり女の子に育てるということが行われ,大変な被害がでました。

 DSDsの領域では,こういう昔の無理やり男児を去勢して女児にするようなケースを「割り当て」と表現していて,しかるべき検査の上でのエヴィデンスに基づいた女性(female)・男性(male)の「判定」とは異なるものとしているのです。

 もちろん現在では総排泄腔外反症の男の子は,男の子の「性別判定」がされています。ただ生物学的な男児(male)が,男児に生まれ,男児と判定され,男児に育っているというだけです。それはトランスジェンダーの皆さんの世界の「性自認」の話でもなんでもありません。性別判定を思春期まで待つ必要もありません。

 マイクロペニスや総排泄腔外反症のペニス欠損で生まれた男の子が,去勢されて無理やり女の子に「割り当て」された背景には,男性器の形成よりも女性期の形成のほうが簡単という外科医側の身勝手な考え(「棒を作るより穴を開ける方が簡単」)と,「ペニスが小さいと男性として認められない,男性としてかわいそうだから女の子にしてやれ」という,病的なほど強迫的な社会的生物学固定観念がありました。

「ペニスが2.5センチ未満なら去勢しろ」という当時の「割り当て」を批判した,北米インターセックス協会(ISNA)が作った図「Phall-O-Meter」


トランスジェンダーの皆さんの世界での「割り当て」の意味


 DSDsの領域で起きた「性別割り当て」は,本当はこういう話なのですが,ジェンダー系の学者の人たちや世間で誤解されて,「本当は男でも女でもない中性なのに無理やり性別を決められている!」「性自認が確定する思春期まで性別を決めるな!」というふうに流れていってしまったわけです。

 このような曲解と誤解の背景にも,「男性だったらペニスが十分な大きさでなくてはならない」という,強迫的な社会的生物学固定観念と,「DSDs=両性具有」という偏見,さらに「両性具有のようなものにいてほしい,見たい,なりたい」という社会的享楽が働いています。

 そしてこのような誤解の上に,トランスジェンダーの皆さんの世界でも「割り当てられた性別」という表現が使われているわけです。

「生まれたときに割り当てられた性別とジェンダー・アイデンティティが食い違っている人たち」

周司あきら・高井ゆと里『トランスジェンダー入門』より

「出生時に割り当てられた性別とは異なる性別の性自認・ジェンダー表現のもとで生きている人々の総称(性同一性障害者を含む)。」

日本学術会議『提言「性的マイノリティの権利保障をめざして(II):トランスジェンダーの尊厳を保障するための法整備に向けて』より

トランスの皆さんの世界で使われる「割り当てられた性別」という表現は,「生まれた時に性別が決められる社会が悪い!」「性自認しかない!」「男女二元論が悪い!」という独自の想い・考えがあるのでしょう。

 ですが,このトランスの皆さんの世界で使われる「割り当てられた性別」は,あくまで「性自認」の話であり,DSDsの女性(female)・男性(male)の生物学的な身体の問題,そしてDSDsの領域で起きた昔の「割り当て」の問題とはまったく異なります。

 トランスの皆さんの性自認は尊重されるべきであり,独自の意味での「割り当てられた性別」という表現を使われることに問題はないと思いますが,DSDsの領域での昔のひどい「割り当て」との区別はつけていただきたいと思います。

 言葉の意味も文化や歴史によってまったく異なってきます。それぞれの違い=多様性を認め合っていければと願います。



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