見出し画像

”自責の念”という戦争による深い傷

戦争は帰郷してからもずっと続く。
頭の中で、ずっと人間を殺し続ける。

デイヴィッド・フィンケル『帰還兵はなぜ自殺するのか』を読みました。

人を殺す「爆弾」と「悪夢」

「戦争に行く前はあんな人じゃなかった」

 精神を病んでしまう帰還兵に共通しているのは、「戦地で聞いた爆音」や「人間の死」などの戦争で生まれたトラウマを、繰り返し脳内で再生してしまうことです。爆弾で吹き飛ぶ仲間の右足、背負った重傷者から伝って口に入った温い血の味、「なぜ俺を助けなかった」と火だるまになった友が語りかけてくる悪夢、殺した敵の顔。
 自分の心の中で繰り返される戦地の光景が、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やTBI(外傷性脳損傷)を引き起こし、鬱の発症、アルコールやドラッグ依存につながり、やがて自殺へと導きます。

 私達も日常の中で「なんでこの服買ったんだ?」「また二度寝してしまった…」など、些細な不満を繰り返し考えイライラしてしまうことがありますが、そういった「反芻思考」の最たるものが、戦争での後悔のように思います。

戦争のせいだ。戦争のせいだ。いや、俺のせいか…

 帰還兵が自殺をする原因のもう一つとして、「選択への後悔」があります。
 実際は、偶然その小隊に配備され、たまたま爆弾による被害を受けただけなのに、「俺がなんとかしていれば、アイツは死なずに済んだのではないか?」と自分が弱いがゆえに起きた被害だと捉えてしまうケースです。
 当時の自分に理想的な行動を押し付けてしまうタイプの人間は、い救えなかった人間が出てくる夢を頻繁に(人によっては毎日)見ます。悪夢を見ないように睡眠薬や抗うつ作用のある薬などを一日40錠ほど飲み、精神の治療をする帰還兵もいるほどです。
 
 また、両脚を失ったある帰還兵は、戦争に参加しなければこんなことにはならなかった、と言います。ただ、その後にこう思います。

「戦争が悪いわけじゃない。誰が悪いとかでもない。戦争に行くと自分が決めたんだから、自分が悪い。」

 行動に対する自らの撰択を後悔する。さらに悪いことに、その結果とし
て精神的に病むと、その状態を「自分が弱いからだ」などと思い、そのダブルパンチで自殺への道へまっしぐらです。
 戦争は敵の命だけではなく、自分自身の尊厳すら奪います。戦争のような過酷な状況を生き抜いたことを「死線をくぐり抜けた」とは言いますが、くぐり抜けたあとは自殺という死線が続きます。適切な治療を受けない限り、帰還兵は死線をくぐり抜けるためにかがんだままです。



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?