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父と部屋掃除。

社会人になり、実家を出てもう5年が経つ。
約10年間使っていた僕の部屋は物で溢れていたが、そのほとんどを残して僕は巣立った。

昔から物を捨てるのが苦手だった。
どんなガラクタにも思い出を見いだしてしまう。

父から、“お前が片付けないならこちらで勝手に片付けるぞ。”
と何度か警告を受けてきたが、なかなか実行される気配が無かったので、
次帰ったら片付けるから と、先延ばしにしていた。
しかし、その警告は先月のGWに突如実行された。

片道2時間の運転で実家に帰ると、部屋には大量の袋と、いくつかのダンボールが置かれていた。
コレクションしていたミニカー、アメコミのフィギュア、雑貨、その他、学生時代の物が各袋に分けられていて、
ダンボールには捨てずにいた教科書、雑誌、プリントの束が詰め込まれていた。

7畳の部屋に散りばめられていた10年間の青春は、いつでもゴミに出せる状態にされてしまった。

「この中から、要るもの要らないものを仕分けておいてくれ。」

「まったく、呆れたよ。中学のノートとか教科書とか、こんなの取っておいてどうするんだ。」

父はホコリを払いながらブツブツと文句を言っていた。

僕と父の関係は、そこらの父息子に比べて希薄なほうだと思う。
授業参観や運動会などに、父は全く来なかったし、2人で遊びに行ったこともあまり無い。
昔ながらの亭主関白な性格だった。

以前に比べると最近はだいぶフランクに会話するようになってきたが、一緒に酒を飲んだり、深い話とかはしたことがない。
お互いのことを正直よく分かっていない部分が多いし、それを今更どうにかしようという気持ちもない。

そんな父に部屋の物を全て見られるのは恥ずかしかったし、苛立ちも感じた。
父が雑にまとめたガラクタ達には、僕なりの思い出や嗜好が詰まっている。

「いや片付けるの面倒でさー。別にほとんど捨ててもいいんだけど。」

高校生のときに貰ったバレンタインチョコの空き箱でさえ捨てられない女々しい性格がバレるのを避けるため、僕はちょっと強がった。

それから1〜2時間、思い出に浸かりながら、捨てるものを1人で仕分けていた。

「おい、それ終わったら、この箱の中も仕分けておいてくれ。」

父が小さな木箱を持って部屋に入ってきた。

「お前の中学校の学生証が入ってたぞ。どうせこれも思い出だからって、捨てないんだろ?」

それを取り出して渡してきた父の顔は、少しニヤリとしていた。

それは、息子の“捨てられない性格”を掴んで得意げになっているようだった。

夜になり、夕飯を食べ終えると、父が僕を離れ部屋に呼んだ。

「どうだ、これ見てみろ。」

そこには僕がコレクションしていた海外の小さい置き物が、本棚の空きスペースに綺麗に並べられていた。

「これでいいだろ?」

またしても得意げな顔をして本棚を指差す父に
悔しさを感じながらも、
この歳になって少しお互いの距離が縮まったような気がした。


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